「なーに? 彼女に対してその素っ気ない態度は」
「悪い悪い。最近は連絡も取れなくてすまなかったな」
「熱太くんは放っておくと、ずっと修行しちゃうんだもん」
時を重ねたことで、二人の関係性も変わっている。
とはいえ、熱太は恋愛上手というわけでもなく関係性は変わったものの進展があったかと言われると微妙だった。
学ぶ部門が違えば学校で会うことも少なく、端末で連絡を取り合うこともそう多くはない。
エレナも実家に帰るつもりだったが、熱太が残って鍛錬を続けると聞きつけて急遽女子寮に残ることを決めていたのだ。
「今日はみんなでご飯食べに行こうって約束でしょう? なのにこんなハードトレーニング?」
「……今日だったか!」
「はぁ〜、やっぱりね」
付き合ってからというもの、エレナもたびたびデートの約束をすっぽかされている。
その数少ない休みも二人で過ごしたいと思っていたところで、仲間たちとの交流会は嬉しさと悲しさが入り混じっているようだ。
「早く帰るよ。連絡しても反応しないんだから〜」
「わ、分かった押すな押すな!」
授業で会えない分、交流会までは二人だけでいる時間を長くしたい。
そんな乙女心を熱太が理解できるわけもなく困惑されながら押されていくのであった。
数時間後、街中のとあるレストランに見慣れた顔が集結する。
ジャケットに身を包む熱太と長いスカートとブラウスが清楚さを振りまいているエレナはすでに周囲の注目を集めているようだ。
「あー先輩! お疲れ様です!」
「久しぶりね翔香ちゃん」
「お前の活躍は毎日見てるからな。あまり久しぶりな感じがしないな」
テーブルですでに待っていた翔香は高校時代の私服とあまり変わらない長めのジーンズとパーカーという簡素なもので。
スニーカーが常に走りのことを意識しているような高性能さが溢れているのが普通とは異なる点だろう。
「また日本新記録更新だったか? 短距離から長距離まで何でもござれとは恐ろしいやつだよ」
スポーツが得意だったエレナはヒーロー時代に磨きをかけた脚力で様々な陸上競技を総なめしている。
今や大学在学中でありながら世界を相手に戦うトップアスリートなのだ。
負けても殺されることのない戦い故に、翔香は全く緊張せずに常に最大限の力を発揮出来るのだ。
「まあまあ早く座ってくださいよ」
談笑もひと段落し、向かいに座る熱太とエレナは残りの座席の集まりの悪さに驚く。
「飛彩はともかく、刑たちは遅れるような奴じゃないだろうに」
「そーっすねぇ。珍しく集まりが悪いっていうか」
首をふる翔香の短く切り揃えられた髪が揺れる。
日焼けした肌が健康そうな印象を与える中、急に頬杖をついた翔香はニヤニヤ二人と見つめた。
「それで、お二人は最近どうなんですか〜?」
「ちょ、ちょっと翔香ちゃん!」
「熱太先輩、ちゃんとエレナ先輩のこと見てあげないとダメですからね。放置なんて厳禁です!」
その指摘に熱太はたじろぎ、口ではやめてというエレナも心の中ではガッツポーズをとっている。
「すまんなエレナ、お前とは結婚を前提に付き合っているというのに」
「あああああ熱太くん!?」
告白された時には言われなかった衝撃の事実にエレナの顔が真っ赤に染まった。
もはや熱太を直視できないようで隣に座る彼氏ではなく、自分の膝しか見つめられない。
「あははははっ! 先輩は相変わらず大胆ですね!」
少女たちの大好物である恋愛模様が炸裂するおかげで翔香も久しぶりに心のそこから笑えている。
翔香もまたストイックな世界に身を置き、他の面々とは異なり旧知の友がいない場所への進学をしているのも理由だろう。
「ずいぶん盛り上がってるね」
「……目立つのは嫌いなんだが」
「うわっ!」
そこにいたのは帽子、マスク、サングラスの三点セットを纏う刑と春嶺だった。
長い銀髪をまとめて帽子に隠している時点でお忍び感が増している。
どことなく息を切らしているような様子に三人は疑問符を浮かべた。
「いいレストランだ。高級だし何より若い子が少ない」
「やめろ、その売れてる俳優オーラ」
変装に巻き込まれた春嶺はいつもの様相とはかけ離れた巨大なサングラスをかけており、髪もポニーテールにまとめている。
「リアル芸能人じゃないですかぁ」
「また新しい映画に出るんだってな?」
「ははっ、おかげさまでね」
一同が座っているのは瀟洒な店の奥側で、人目につきにくい一角にある。
変装もいらないなと刑は身に付けていたものを取り払い、整った顔立ちが女性陣を驚かせた。
「前よりカッコよくなってません?」
「ありがとう翔香ちゃん。それに熱太くんの恋人を奪うつもりはないから安心してくれよ?」
「おい、冗談でも腹立たしいぞ」
「ごめんごめん。こうやって腹を割って話せるのは久しぶりでね」
刑はヒーロー時代から整った顔立ちと気品ある佇まいが人気を博しており、引退後は芸能界へ挑戦していた。
年々磨きがかかる演技に、映画やドラマには引っ張りだこというのは、最近のメディア露出で嫌というほど伺える。
「死ぬほどエステやら何やらに通っているからな。この男は……」
「えー、何で春嶺ちゃんそんなこと知ってるの!?」
最終決戦でチームを組んでから距離が縮まっていると感じていた翔香は決定的な証拠に目を輝かせる。
「春嶺ちゃんにはマネージャー兼ボディガードもやってもらっててね」
「ボディガードぉ? 刑、たるんでるなら俺が鍛え直してやるぞ」
ヒーローだったものが怠惰に過ごすことは許さん、と熱太は鼻息を荒くした。
しかし、服から見える刑の肉体は引き締まっており、決して衰えたような様子はなく。
「こいつは極度の女誑しだからな」
「春嶺ちゃん? 何でそんなふうにいうの? ファンサービスじゃないか」
「はっ、そうやって何人の女をストーカーに変えてきた? 自分で警察に突き出すわけにもいかないからと、面倒な仕事を頼みおって……」
その呟きで熱太たちは二人の不思議な関係に納得する。
マネージャーというより、熱烈な女性ストーカーを追っ払う用心棒が本業なのだろう。
それならば大学に通いながら何かと忙しい刑と繋がっているのもよく分かる。
「ま、まあ、そういう話はいいじゃないか……で、あとは誰が来るんだっけ?」
「隠雅と蘭華ちゃんとホリィちゃんだよ」
「あれ? ララクちゃんとカクリちゃんは?」
話を逸らしたい刑はそのまま来ないと言われている仲間たちを言及する。
厨房から香る良い匂いに春嶺は高そうな店に招待されたのに勿体無いなと機嫌を戻した。
「大学で提出するレポートが間に合わなさそうなんだって」
「裏で展開力の研究しすぎてるのかもね」
もちろん決して不可能なことを、と嘲っているわけではない。
ララクとカクリは大学に通いつつ、メイが蹴った研究所と協力して展開力による資源問題の解決を研究しているのだ。
「あーあ、ララクちゃんのせいですよ〜。私も飲み会行きたかったのに!」
「何でレポートなんかあるのかしらねぇ。大学卒業しないと研究所で正式に働かせてもらえないなんておかしいわ!」
「今度から勉強と研究の配分変えましょうね!」
「え〜」
と文句を垂れる二人は、ゼミの自席でノートパソコンを広げて様々な文献などを元にレポートをまとめていた。
「カクリだって夜遅くまで展開力の理論を考えてたでしょ!」
「ララクちゃんだって実験しまくりだったじゃないですか! レポートの締め切りが明日って知ってたくせに!」
言葉をぶつけ合う二人だが、目線と手が休むことはない。
次々に打鍵される文字が空白だったレポートを埋め尽くしていくものの、終わりはまだまだ遠い。
「噂じゃ高級フレンチに招待されてるそうじゃないですか。カクリも行きたかったなぁ〜」
「そんな高いところに誰が招待してくれたの? 刑とか?」
「ララクちゃん……こっちの金銭感覚、染み付いてきたね!」
「そこ喜ぶとこ?」
浮世離れしていたヴィランの姫も完全に人間世界に身を潜め、受け入れている。
これも飛彩たちの協力あってのことだろうが、昔と比べれば大きな進歩だ。
「あっ」
「今度は何です?」
「これなら展開力を具現化出来るかもしれない。すごくいい方法を思いついたわ!」
「ええ〜、メモだけにしてくださいよ? 今から実験してたら皆と……」
しかし時すでに遅し。
席を立ったララクは自分の鞄に荷物を詰め込んでいるところだった。
「展開力を資源利用できたら争いも減るよ。そしたらますますヴィランの世界は遠のくもの」
「はぁ〜。もうそれを言われちゃ手伝うしかないじゃないですか!」
徹夜確定だとくたびれたカーディガンの裾から出た細い腕が周りの荷物を大きなリュックへと押し込んでいく。
ララクはノートパソコンを持っていかないつもりだろうが、それだけは阻止せねばと二人分の荷物を抱えるララクもまたゼミの部屋から駆け出て行った。
宣言していた通り、交流会に二人が間に合うことはないだろう……。
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