【完結】変身時間のディフェンスフォース

〜ヒーローの変身途中が『隙だらけ』なので死ぬ気で護るしかないし、実は最強の俺が何故か裏方に!?〜
半袖高太郎
半袖高太郎

予定を外れて

公開日時: 2021年1月13日(水) 00:03
文字数:2,069

「これは?」


瞬時に、ホリィが追い込まれていることを理解した飛彩は額に青筋を浮かべる。



「貴方はパーティーの出席に望まれていない。それどころか娘とも思われていないただの道具なんですよ。分不相応な夢を見るのは諦めて、カエザール様が望む貴方を受け入れなさい」



何故、ヒーローらしく戦おうとしている彼女が罵倒されなければならないのかと怒りに拳が震える。


「あの野郎……!」


相手はあの只者ではないボディーガードの男だと気づいた飛彩は、右足に取り憑かれた時と同じように抑えられない怒りが湧き上がった。


「蘭華、カクリ……」


「飛彩? 何があったの? ホリィの居場所わかった?」


「今から言う場所にワープさせてくれ」


「も、もう一人いるんじゃないですか?」


「大丈夫だ。少しばかり眠ってもらうよ」


実力行使もやむなしという状況だが、飛彩は一つ嘘をついた。


正確にはホリィの側に例の強力なボディーガードがいることを伝えなかった。


間違いなく二人には止められてしまうと分かっていたからこそだが、何よりあの暴言を吐く男に一発打ち込まなければ気が済まないらしい。


「——わかりました。すぐに準備します」


その数秒後、飛彩の眼前に異空間への扉が浮かび上がる。


踏み込もうとした瞬間、スティージェンの渾身の叫びが飛彩の耳にも届いた。



「認められたければ、そのために捨てるものもあるでしょう。それを認識し、どうあるべきなのかを考えなさい。そうでなければ貴方は一生見下されたままだ。親に必要とされずな!」



その声は異空間が開きかけていたこともあり、蘭華やカクリの耳にも届いた。


戸惑いが少女たちに襲い掛かる中、飛彩は激昂に身を任せることにする。

この怒りは収めてはいけないものだ、と。




そして時は重なる。




「わ、私は……!」


心が折れる様子とはこのような瞬間を言うのだろうと、仕向けた本人であるスティージェンはそう感じる。


これにて仕事は終わりだと、剥いていた瞳が気怠そうな物に変わった瞬間。




スティージェンの背後の次元が割れた。




まさに音もない奇襲。


スティージェンの背後かつ少し高い位置に、飛び込みの姿勢で殴りかかろうとする飛彩が現れた。


その第一の異変としてホリィの顔が驚愕に染まり、スティージェンの顔が違和感に染まるよりも背後への回し蹴りが放たれる。


カクリの異次元空間は音を発さずに開いたはずなのに周りの反応や空気の流れで攻撃に打って出るべきと判断したのである。


「ふっ!」


怒りに身を任せて異次元空間に飛び込んだはずの飛彩だったが、同じく怒りを露呈させていたスティージェンよりもクレバーに反撃へ対応する。


「何っ?」


空中で身動きが取れない飛彩は怪盗のようなマスクで視界が若干塞がれている中、回し蹴りを左手で掴み上げる。


振り回した足には威力も乗っているが、そこには重心も傾けられている。


その隙を利用し、飛彩は腕へと足を猫のように近づけて空中に投げ出されていた両足でスティージェンの回し蹴りを踏みつける。


「ぐぅっ!?」


大きくバランスを崩したスティージェンは痛みに喘がされた上に片膝をついて頭を差し出す。


憎々しげに顔をあげた瞬間に飛び込んできたのは着地して早々に追撃を繰り出してくる飛彩の拳。


「ホリィを……」


(速い……!)


「馬鹿にすんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


「ぐがぁッ!?」


右頬に減り込んだ拳を殴り抜けるのと同時に、ホリィの隣を抜けて分厚いガラスへと叩きつけられるスティージェン。


「……立てよ。後ろに跳んで勢い殺したのは分かってるぜ」


何が起こっているのか分からないホリィはよろよろと後ろに下がり、広大なエントランスで対峙する飛彩とスティージェンを眺めた。


「ちょ、ちょっとひ……」


「静かにしてろ」


正体を明かすわけにはいかないと理解したホリィは口を噤んでさらに後ろへと下がっていく。


エレベーターや廊下と直結するこのエントランスは戦場としては申し分なく、飛彩はとスティージェンは自然界で対峙した猛獣かのような眼光で睨み合う。


「君は上の階であったよな。私の背後を取ったのは褒めてやる……どうやってこの階層まで降りてきた? 何が目的だ?」


「何のことだか分からねぇが……そこのお嬢さんに訊きたいことがあってな」


「誘拐か」


全て理由を話して二人の諍いを止めることも出来たホリィだが、二人から放たれる気迫に声が出せずにいた。


少し戦場から離れただけで非力な少女に逆戻りしたのかとドレスの裾を握りしめると、本当の気落ちが溢れ出す。


(助けに、きてくれたんだね……)


恐怖以外の涙でもこみ上げよう物ならスティージェンに関係がバレてしまうとホリィは声を堪える。


天にも昇ろうという気持ちから叩きつけられた心は、何も考えない家の傀儡になることを選ぼうとした。

だが、その選択を手繰り寄せられるかどうかは飛彩がスティージェンを倒せるかどうかに懸かっている。


「——だが今の目的は違ぇ」


その言葉にホリィの瞳が微かに揺れる。

そして、この後に及んで飛彩に縋ろうとしている自分を恥じた。


「ほぅ……金目のものでも探しにきたか?」



「俺の仲間を傷つけた。テメェをぶっ潰す!」

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