「異世で離れ離れになったら終わりだから、勝手な行動は絶対にダメだからね」
最終確認も終わり、飛彩達は次々と装甲車へ乗り込む。何と蘭華が操縦を買って出ており、豪快なエンジン音が地下へと響き渡った。
「皆準備はいい? さあ! 行くわよ!」
運転席以外からは外が見えない六輪の装甲車は飛彩達以外にも物資などを詰め込んでいるメイが残した特殊なものだった。
大型車に匹敵する大きさにもかかわらず、狭苦しい地下駐車場をすいすい登っていく小回りやスピードを発揮していく。
「うおぉ! めっちゃ揺れるっ!」
「地上に発生してる亀裂目掛けて一気にいくわよ! 飛彩! 準備よろしく!」
「こんな荒っぽい車の周りにだけ展開力とか難しすぎるぜ」
展開操作が得意ではない飛彩は助手席へと乗り込み、左腕の能力を解放した。
そのまま薄く伸びていく展開が車を一つの弾丸のように覆い隠していく。
「僕との修行の成果、発揮してくれよ!」
「うるせぇ! 集中してんだ!」
この一週間の間に展開操作に長けていた刑との特訓を繰り返していた飛彩は、展開域を自在に操作するべく細かい動作を繰り返し練習していた。
水槽の中を泳ぐ魚にだけ展開を貼るなどの今以上に緻密な操作を繰り返すことで、装甲車両を無事に異世まで渡らせられる能力を身につけたのである。
「あとは何のアクシデントもなければ……」
装甲車の後部ですし詰め状態になっている系がそう溢すと、春嶺は瞳を前髪で隠しているにもかかわらず苦々しいとわかるくらいの嫌な表情を浮かべていた。
「何だよ?」
「いや、何でそんなフラグみたいなことを言うんだ? と思って……」
その春嶺の嫌な予感は的中し、開けた国道を進む装甲車の周りに闇弾の雨が降り始めた。
「なっ、何だぁ!?」
運転する蘭華の代わりに情報端末を受け取っていたエレナやホリィは、ドローンカメラから送られてきた周囲の映像に絶句する。
「あのヴィランは……!?」
「どうした! 何かあったのか!?」
「い、いや、何でもないわ! 亀裂の向こうからの攻撃が飛び出してきてるみたい! 飛彩くんは領域に集中して!」
驚きをおくびにも出さないエレナのファインプレーにより、それ以上動揺が広がることはなかった。
しかし、ホリィ達の目には荒れ狂うメイの姿が見えてしまっている。助手席にいる飛彩からは絶対に見えない位置にいるが気づかれるのも時間の問題かもしれない。
「……ま、まさかメイさんが抜けてきちゃったなんて」
「黒斗くんの読み通り操られてるな……どうする? 作戦は止められないが飛彩くんぐらいしか彼女を止められないぞ」
冷静さが売りの刑やエレナ、春嶺でも苦虫を噛み潰したような表情へ変わった。
どうにもできない現状に熱太はただ歯噛みするしかなく。
「仮に始祖のヴィランを倒す作戦が成功しても、こちらは更地になってしまうぞ?」
「やっぱり、飛彩くんに言うしか……」
ホリィの提案が漏れた瞬間、後ろにいた面々にだけ黒斗からの通信が入った。
連絡が滞ると言っていた相手故に疑問が浮かびつつもホリィが着信を許可する。
「無事か? 飛彩には気づかれてないよな?」
「はい。ですが……どうしますか?」
「こちらのことは気にするな。これも見据えて作戦を組んである」
真偽は定かではないが落ち着き払っている黒斗の声に全員が安心させられた。
メイからの攻撃が続く中、とにかく先を急げとだけ続けた黒斗は一方的に通信を切る。
どちらにしろホリィ達は自分たちの作戦を成功させるにはこの場を任せるしかないのだから司令の言葉を信じることにした。
「蘭華ちゃん! 攻撃されてるけど司令官が何とかするって言ってたから作戦通り例の亀裂へ!」
「……うん! わかった!」
展開に集中している飛彩と異なり、聡い参謀の蘭華は何が起こっているかの検討はついているかもしれない。
それ故に余計な質問を重ねず了解とだけ短く返してスピードをさらに上げていった。
「敵からの攻撃は司令官に任せる! 飛彩! ここ一番集中してよね!」
「お前も最高スピードで安全運転しろよな!」
矛盾した掛け合いは黒斗の通信機にも届いていた。
それだけで車両内の状況を把握した黒斗は、こちらを気にするなとだけ呟いて通信を切断する。
「あ、切れました」
「何も語らないことが心配をかけない方法とでも思ってるのか黒斗くんは……だが、彼の言葉を信じるしかない。ここは本部に任せよう」
飛彩といい護利隊の実力者は人の話を聞かない連中ばかりだなと刑が何度目かもわからないため息をつく。
しかもすでに有言実行し始めたのか、装甲車の周りを波動弾が襲うことはなくなった。
「アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」
重火器の音すら引き裂くようなメイの咆哮は未だに飛彩達を運んでいる装甲車を狙っている。
その様子はドローンカメラでホリィ達にも届けられていたが、一台の大型二輪車が戦いの余波により傷ついた悪路を巧みに走り抜けていた。
「メイ、俺が相手だ」
背広を脱ぎ捨て護利隊特注強化スーツに身を包む黒斗が司令官という立場であるにも関わらず単身でメイへと牽制射撃を続けている。
その映像を見せつけられたホリィ達は開いた口が塞がらない思いとなった。
片手で小銃を寸分の狂いもなくメイの鎧に当て続けているのだから、あまりの鬱陶しさに標的を変えざるを得ないのだろう。
「まだ、意識を飛彩側にも割いているか……ならばこうだ!」
二輪車の荷台部分にはミサイルポッドなどの銃火器が装備されている。
追尾性があるミサイルが爆音と共に空を駆け回るメイを追いかけ回した。
「すごい! 引き付けてくれてる!」
「飛彩くんといい護利隊の連中は化物揃いだな……」
そのまま巻き起こる爆発は視界を隠すように煙幕を発動する。
それをホリィが大声で伝えたことで蘭華はさらにスピードを出してその場から離れた。
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