「ん〜、天弾ってまだ所属はこっちだよな?」
「春嶺は世界展開持ってるけど、メイさんの直属になってるらしいから、多分そうね」
「ならまずは天弾だな。この前の潜入作戦、意外と息あってたんだぜ?」
少しはコミュニケーション能力があることをアピールしたかった飛彩だが、女子と仲良くできるなどという情報は蘭華には必要なく頬を膨らませるだけだ。
「ふ〜ん」
「なんで不機嫌に!?」
「まぁ、春嶺なら大丈夫でしょ……で、あと一人は?」
「それがなぁ……お前らの強さに釣り合うやつなんてそうそういないしよぉ」
袖机へと頭を埋める飛彩は、一応他の隊員を慮っている。
侮るような言葉も飛彩なりの思いやりが込められているのだ。
いっそのこと黒斗を連れて行こうかなどという冗談が思いついていたが、意外とありなのではという結論に至り始めてそれ以外の選択肢が思いつかないドツボにハマっていく。
「仕方ないなぁ〜」
「なんだよララク、仕事の話なんだ。静かに待っててくれ」
「ちょっとちょっと。誰かのこと、忘れてない?」
至近距離で胸を揺らし、大きな瞳でウインクするララクのわざとらしいコンタクトにすかさず手刀をランカは叩き込む。
頭を抑えて蹲ったララクは効果音が聞こえてきそうなほど素早く起き上がり、飛彩へと人差し指を突きつける。
「強い相棒が欲しいならララクがいるじゃない!」
「却下だろ」
「なんでなんでなんで〜! ララクもみんなの役に立ちたいの〜!」
何百歳も年上であるはずの駄々っ子にこみ上げる怒りを深呼吸で整えていく飛彩。
蘭華も呆れてしまい、ため息をつくしかなかった。
「ララクちゃん、カクリと一緒にお留守番しましょう」
「カクリはお留守番じゃないじゃん! ちゃんと役に立ってるじゃん! ずるいずるいずるい〜!」
「だぁうるせぇな! 心配してやってんだろ! お前がヴィランに……特に受肉した存在に捕まったりでもしたら簡単には助けてやれねーんだぞ!?」
心配する心というのは隊員だけではなく、ララクに対してもである。
特にヴィランはララクを殺して口封じしようと躍起になっているに違いないはずだ。
隠密が最優先される作戦でわざわざヴィランの神経を逆撫でするような真似をする必要はないと言える。
「でもでも! この場所で飛彩ちゃんクラスに強いって言ったらララクしかいないでしょ!?」
「でもお前には能力が……」
「あんなの少しくらい減ったってそこらのヴィランには負けないわ!」
「いや、お前の減りようちょっとどころじゃないよな!?」
それ以降も話し合いは平行線となり、具体的な解決策は見えないまま退室を余儀なくされた。
ゆっくり考えようとした飛彩は蘭華とララクと一緒に肩を並べて家路に着く。
「ん〜、どするかなぁ〜」
「悩みすぎたら髪が薄くなるわ! だからララクも一緒にいく!」
「あぁ、ストレスでハゲちまいそうだよ……!」
頭の後ろで腕を構える飛彩は額に青すじを浮かべている。
部屋を出て以降も騒ぎ続けるララクの騒音問題に、五感が情報を脳に伝えるのを面倒に思え始めているようで、飛彩の表情は半ば怒りながら死んでいるかのようなものだった。
「ねぇいいでしょ〜! ねぇねぇねぇ〜!」
帰宅途中、積もり積もった苛立ちがとうとう爆発し、目を剥いた飛彩が怒りのままにララクへと叫ぶ。
「うるせーな! テメェを守るために戦ってんだぞ! 大人しくしとけ!」
大通りを駆け抜ける車達に負けないほどの叫び声は一緒に歩いていた蘭華をも驚かせた。
飛彩は基本的に機嫌が悪そうに見えるものの、心の底から怒ることはそうそうないのである。
「ちょ、飛彩言い過ぎじゃ……」
俯いて肩を震わせるララクを見た蘭華は流石に戸惑った。
灸を据えねばならないとは思っていたがここまでやらなくともという感想だろう。
「……もん」
「あ?」
か細いララクの声が蘭華に反論しようとした飛彩を引き留めた。
「違うもん! 迷惑かけたいんじゃなくてララクも飛彩ちゃんを守りたいんだもん!」
目に涙を溜めたララクが両手を口元に運びながら叫んでいた。
拳でやりたいことを突き通してきたヴィランにとって言葉で何かを伝えるのは難しいのかもしれない。
不器用なララクの叫びに驚きつつも、飛彩は鋭い視線を変えない。
「ダメだな」
「なんでよ! 飛彩ちゃんのばか!」
「戦闘訓練なんて結局はお遊びだ、ここで俺と同じくらい戦えなきゃ連れてけねぇよ」
「待ったまった二人とも! こんな往来でやる気? 嘘だよね?」
仲裁に入る蘭華だが、戦いが始まってしまうヴィジョンに取り憑かれていた。
ホリィの世界展開でもこの未来は変えられないだろう。
一触即発の雰囲気で、先に仕掛けたのはどうしても意志を貫きたいララクだった。
「っ!」
訓練の時よりも速い速度の蹴り込みはスカートの中を覗かれることなどお構いなしの一撃だった。
しかし、飛彩は一切動揺せずに横から弾いて蹴りの軌道を逸らす。
蘭華は二人が訓練でよく組み手をしているのを眺めていた。
ゆえにララクも充分に戦えると考えていたのだが、どうやら両者とも爪を隠していたらしい。
かつて侵略区域で拳を交えた時よりも速く重い一撃を繰り出せるようになった飛彩にとって弱ったララクは敵ではないのである。
「くぅっ」
「悪いことは言わない。留守番してろ」
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