攻撃の成り行きを見守らざるを得なかった刑とホリィは動揺しつつも戦況をひっくり返す一撃に瞠目する。
戦いの最中、目線が空を見上げてしまうほどの脚撃にララクも流石に一歩後ずさっていた。
そのよろめきが最後の隙かもしれないと攻撃を続けようとするが絡め取られた足を振り解くことが出来ずに腕を上げて下げただけの簡単あ動作で飛彩は軽々と持ち上げられ砂地へと叩きつけられる。
「なっ!? がはっ!?」
「もう手加減もしてくれないのね」
顔を戻したララクの下顎に龍の顎門を模した鎧が顕現している。
見目麗しいララクとは違い、龍の暴君とも言える鎧はララクが隠したくなる理由も頷けた。
これはまさしく見るもの全てを威圧し、恐怖させるものだろう。
「手加減なしってことは死ぬ覚悟が出来ちゃったってこと?」
冷たい黒い瞳に睨まれた飛彩は未だに掴まれている右足を左手で掴み、ララクの展開を吸収して危機から脱出する。
左腕のみ気分が悪くなるという感じたことのない不自然さに速攻で黒い光弾へと変換してララクを牽制した。
瞬時に弾き飛ばされるも、それも予想通りだったと言わんばかりに真正面から殴りかかる。
「俺は人間を遊び道具にさせるような世界は望まねぇ!」
その言葉で目を覚ましたような気持ちになったホリィは未来確定の力をララクへと注ぎ込み、一切動かない状態を保たせた。
さらに刑も短刀を携えて走り込み、ララクの硬い関節部分を斬り付けてさらに姿勢を崩させる。
護利隊のコンビネーションですら凄まじい効果を発揮するというのに、ヒーロー二人がかりのアシストは間違いなくヴィランへの致命的な一撃へと変貌する。
「それがわからねぇなら二度とこっちに来るんじゃねぇ!」
悪意を奪い去る左腕ならばララクの意志を変えられるかもしれない、と望みを乗せた左ストレートが加速していく。
踏み込む右足、支える左足、そこから振り抜かれる拳はあまりの速さに睨み付けているはずのララクの視界から消えているというのに凄まじい何かが近づいてくるとしか思えず、ただただ拳を受け入れた。
再び顔面に打ち込まれた拳は着撃より遅れて鈍い音を響かせた。
「ぐ……」
だが、それは鎧を砕けずに飛彩の黒い左腕、支配ノ起源ごと左腕が歪み折れた音だった。
「ぐああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
よろめいた飛彩だが、ララクから視線はをきらずに反撃に警戒する。
そこにあったのはララクの顔を覆った鎧であり、龍の頭部が形取られた牙の鋭い凶悪な形をしたものだった。
その牙に噛み砕かれる形で飛彩の左腕から放たれた左腕の拳は簡単に防がれてしまったのである。
「そ、そんな……」
刑が動きを封じた、ホリィが未来を確定させて拳を叩き込むようにした。
その未来が叶ってもなお、攻撃が肉体に届くことはなかったのだ。
純粋な鎧の強度という防御力によって阻まれたことで、勝利の未来がどんどんか細く小さなものになっていく。
「もう、終わりでいい?」
硬い鎧の翼を羽ばたかせるだけで発生する爆発的な突風で飛彩はあっけなく転がっていき、ホリィや形ですらバランスを崩して廃墟の住宅街へと消えていく。
「かくれんぼが最後の遊びになっちゃうね。二人とも」
龍の姿をした捕食者であるララクから逃げるように三人は散りながら住宅街の中に潜む。
展開力を縮小させて奇襲のタイミングを伺うも悠々と空中を歩く龍に拳を掠らせることすら想像できずにただ息を潜めることしか出来なくなってしまった。
人間と親しくしたいララクを閉じ込めるための檻ではなかったことを悟る飛彩は、廃墟の一つに背中を預けつつ煤けた天井を仰ぐ。
異世最強の龍を閉じ込めるための檻なのだと、認めながら。
ホリィや刑だけでなく隠れている蘭華や春嶺の無事を祈りながら、飛彩は龍の姿になったララクに恐怖を覚えつつも感謝もしていた。
見知った顔が視界から消えるだけでも込められる力は随分と違うと複雑に折れ曲がった左腕を眺める。
「——俺は何だ? ヒーローを守るのが仕事だろ。だったら、こんなところで隠れてる場合じゃねぇぜ!」
あえて深緑の展開を大きく広げ、左腕の骨折を癒していく。
しかし、それはララクに対する信号弾と言っても過言ではない。
案の定、硬い羽ばたきの音が高速で接近している。
あり得ない方向に曲がっていた指を元に戻しながら飛彩は再び音速の拳を放つ構えを取った。
「次は容赦しねぇ」
息を吸った一瞬、飛彩は完璧に覚悟を決めた。
わずかな間だが脳内に様々な思考が飛び交う。
この場にいるララクに関わりを持った者たちは一様に迷っていたと弱さを認めて。
(ヴィランを潰したのも、ホリィを助けようとしたのも、熱太たちにララクを任せたのも……全部、ララクと戦いたくなくて逃げてただけなんだ)
羽ばたきの方向に合わせて力強く紅い右足で踏み込み深緑の左脚が命の源とも呼べる力を飛彩の全身へと漲らせる。
(ここでララクを殺すことになっても……そうなったとしても)
足から伝わる、廃墟の壁にララクの鎧のどこかが触れ始めた振動に合わせ敵どうを修正しつつ時が遡るように左手が再生しつつ音速へと近づいていく。
「後悔はねぇ!」
そう、飛彩は覚悟こそしたものの、雑念を振り払うことは出来なかったのだ。
覚悟を決めたいがために心に浮かべた偽りの覚悟などまやかしに過ぎない。
「ごめんね」
微かな声が耳に届くよりも早く、鋭い尻尾が飛彩の予想していた攻撃方向とは全然違う左側へと放たれていた。
闇の展開力で節を伸ばした鋭い尾槍が飛彩の脇腹へ突き刺さろうとした瞬間、銀の巨大な盾を携えた刑が二階を崩して現れる。
「やらせるものか!」
だが刑の身の丈をも隠し切る巨大な銀盾は簡単に半分に折れ曲がり、威力を殺しつつも飛彩と刑を一緒に外へと叩き出すことなど容易いらしい。
「ぐうあっ!?」
「ちぃぃ!」
大きく弾き飛ばされた飛彩は再び他の瓦礫に叩きつけられるも、刑は折れ曲がった盾を捨てずに地面に両足を叩きつけて何とかララクの尻尾を捕まえた状態で踏みとどまる。
「今だ!」
打ち壊された廃墟の向こうで尻尾を戻そうと暴れるララクの頭上に白い光弾を凝縮したホリィが背中から抱きつくようにして飛びかかる。
「お前ら、いつの間に……」
「飛彩くんが作ってくれた隙を無駄にはしません!」
必ず飛彩が隙を作ると信じていたからこそ二人は仕掛けることが出来た。
攻撃こそ不発に終わったものの積み上げた絆がララクへとやっとのことで鋒を突きつける形になる。
「ララクちゃん! この浄化の光はヴィランの悪しき部分を滅する! だからララクちゃんならきっと!」
笑い合った時間は一瞬だった。
それでも一度は友情を感じた相手ゆえにホリィもまた消滅など考えていない。
飛彩が悪のエネルギーを吸収できるようにホリィもまた悪のエネルギーを浄化できる。
それを用いれば、ララクの危険な考えを排除できるかもしれない、と考えたのだ。
「そこから撃つの? その展開力の凝縮量から考えると……ホリィちゃんもタダじゃすまないよ?」
「友達が道を踏み外してるなら命を懸けて止めるのが……友達だよ!」
答えを先送りにすることをやめたホリィはララクを信じるために、自分の力を信じて再び笑い合う未来を信じたのだ。
「ララクちゃん、目を覚まして!」
胸に押し当てていた光弾を一気に解放する自爆攻撃の閃光が侵略区域を余すところなく照らし、飛彩や刑ですら視界を覆ってしまうほどの眩さを放つ。
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