その言葉が先ほどのダメージよりもフェイウォンの心に突き刺さった。
それを自覚してしまうこともあり、それほど自分が弱っていたのかと両手を茫然と眺めてしまうほどに。
「独りよがりな願いじゃ頂点に立っても虚しいだけだろ。今のお前は俺に引き摺り下ろされるだけの関門さ」
「……言わせておけば、ベラベラと」
展開力をなかったことにするのも結局は展開力が為す技だ。
故に展開力の総量で上回る相手には能力が通用しないという基礎的な方法でフェイウォンは再び立ち上がる。
「頂点の能力は、まだ失ってないが?」
吹き上がる展開力は狭間の世界を黒く染める黒炎と言えよう。
まだまだ底知れないフェイウォンに対して、飛彩は慄くこともなく刀を握る手を強めた。
「すげぇ力だ、さっきみてぇに遠くから切り離すのは無理だな」
「貴様の言う通りだ。能力に怯えることもなく真っ向からねじ伏せる、それこそが頂点!」
「それでこそ、乗り越える甲斐があるってもんだ!」
浮島を粉砕して飛彩へと一直線に向かうフェイウォン。
飛彩としても賭けではあるが、先ほどまでのような展開力を控える戦法で戦われたら長期戦は避けられない。
挑発に乗って大技を放ってくれるのは良いが、それは飛彩が相手の攻撃を消し飛ばせる前提の話だ。
(マ、マジか)
うねりをあげる展開力がフェイウォンの右腕を覆い、身体と混ざったはずの鎧を刹那の間だけ蘇らせた。
いや、これは展開力を鎧という形に留めることで威力を保ちながら消される展開域を減らそうとする攻防一体の一撃と言えよう。
「弱者は私を見上げ続けるがいい!」
鎧化に使われた勢いを威力にも変え、螺旋を描く展開力が飛彩へと迫っていく。
それを真っ向から「なかったことにする展開力」を滾らせた純白の斬撃で立ち向かっていった。
「ぐっ、なんて物量だよッ!」
その斬撃は螺旋を描いていた展開力を塵芥へと変えたものの、渾身の右ストレートの勢いを消しきれない。
まさに頂点の力が、飛彩の存在しなかったことにする力を上回った瞬間である。
(まさか、まだ余力があるってのか!)
一瞬も気を緩められない飛彩に対し、フェイウォンは自由になっている左手へ展開弾を凝縮して飛彩へとノーモーションで放つ。
「なっ!」
鍔迫り合いに気を取られすぎていたことで回避が遅れたものの、同じく左腕から触れた攻撃をなかったことにする障壁を作り上げる。
着弾と共に巻き起こる轟音と爆煙、互いに目眩しになったはずだがフェイウォンは黒き流星と化して飛彩を猛追した。
「私に以上に展開域を上手く扱える者など、存在せぬわ」
「がはっ!?」
煙を抜けた二人だが、飛彩にとっては窮地に等しい。
首を締められたまま浮かぶ岩盤へと何度も叩きつけるようにフェイウォンは狭間の世界を泳いでいく。
「ぐっ!? げはっ!?」
「貴様が消した力など、まだまだ表層に過ぎん」
締めていた手が緩む代わりに、フェイウォンの右手を飛彩の首の間に禍々しき展開弾が凝縮された。
「己の愚かさを身体に刻め!」
「やられるかよ!」
攻撃をなかったことにする障壁を身体へと発動しつつ、首と掌のわずかな隙間目掛けて刀を突き立てる。
仰け反りながら攻撃の発生源へと存在無効の力が及ぶものの、フェイウォンの波動の方がわずかに上手で。
「消される分を元より用意すればよかろう」
飛彩ならば喰らい付いてくる諦めの悪さも織り込んだ上で波動ではなく飛び散る拡散弾を選んでいたのだ。
「ぐあぁぁぁぁぁ!?」
無効にしたと思った瞬間に拡散した展開弾は飛彩にとって不意打ちに近い。
気の緩みが存在無効の障壁にも影響したのか、身体に降り注いだ散弾は白鎧に黒い傷跡を残した。
「やはり仲間の力などまやかしだ。捻じ伏せる圧倒的な力だけが私を高みへ連れていく!」
吹き飛びながら空中に展開壁を作り上げ、勢いを殺す飛彩はすぐに近くの足場へと移動した。
展開力の消耗もさることながら、集中力の消耗が極めて甚大なものとなる。
刀を杖代わりに肩で息をする飛彩の意思とは裏腹に白い鎧は勝手に修復を始めた。
(力を引き出すつもりが、少しやりすぎたか……?)
「ふむ、殺すつもりでやったが、やはりしぶといな」
「おいおい。攻撃消される前提の甘い攻撃で俺をやれるとでも?」
しかし、飛彩は挑発を止めるわけにはいかない。
精神的余裕がなくなっていると気取らせては付け入る隙を与えてしまう。
「そうか」
空間亀裂を利用した瞬間移動で飛彩の乗っている小さな足場に移動したフェイウォンは、間髪入れず大振りの拳を打ち付けた。
対する飛彩も集中力を再び入れ直し、肘を勝ちあげるようにした振り下ろされた拳を防ぎ切る。
足場を砕く余波をなかったことにしつつ、フェイウォンの二の手である蹴り上げを先読みして甲を踏みつけた。
「ちっ」
「待てよ!」
素早くバックステップで仕切り直すフェイウォンへと白刀の突雨を浴びせていく。
肌に掠めつつも紙一重で避け続ける相手からは時折、速度に慣れたと言わんばかりに反撃がお見合いされた。
それだけで突きのリズムは乱れ、フェイウォンの蹴り抜きが飛彩の腹部へとめり込む。
「ぶはっ!?」
「貴様の攻撃はもう飽きたわ」
瞬間的に爆増する展開力から放たれる一撃に、なかったことにする反撃が間に合わない。
さらに能力の解釈を広げ、展開力で構成されている肉体そのものを「なかったことにする」のは一筋縄ではいかなかった。
(くっそ、もっと速攻で発動しろよ!)
よろけて後退しつつも視線はフェイウォンからは切らない。
蹴り抜いた足を悠々と上げたままで油断していると思いきや飛彩の視界が足裏で埋められた。
「ぐがっ!?」
何と、その姿勢のまま軸足で跳ね上がり、動きを気取らせぬ蹴りを放つ。
常識のない攻撃になす術もない飛彩は、足場から軽々と吹き飛ばされてしまった。
(展開域で足場を作り続けると消耗が激しい、早く、次を探さねぇと)
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