謹慎が明けて正式に自由の身になった飛彩は強化スーツに身を包み、鈍った身体を動かそうとご機嫌な様子で訓練場に向かっていた。
付き合わされる他の隊員たちは戦う前から疲弊しきった表情を浮かべており、暗い雰囲気を纏わせている。
「もう謹慎終わりなのか?」
「つーかクビになったんじゃねーのかよ!?」
「はっ! 勝手に言ってな!」
様々な風評被害が飛び交っていたことを笑い飛ばす飛彩だが、何やら上層部の陰謀が渦巻いて能力のことが明かされていないことだけははっきりする。
「そもそもなるわけねーだろ。エースだぞ俺は」
「いや……どっちかっていうとジョーカー」
「そうだな」
うんうんと頷く他の隊員たちは全員が納得しつつも飛彩の後を重い足取りで着いていく。
長い廊下に複数人の靴音が響くが、永遠に反響しそうな長さが他の隊員をさらにまいらせた。
「強けりゃどっちでも構わねーよ」
陰口などはどこ吹く風という様子で通路を闊歩していく。これから新たなる戦いに身を投じようという決意が飛彩を晴れ晴れとさせているのだ。
「……ん?」
周りに不思議そうな目線を向けられても気にしていなかった飛彩だが、一本の通信で凍りついたように立ち止まる。
「? どうした隠雅?」
「——あー……今日の訓練、俺パスでいいか?」
「お前のスパルタ訓練じゃなくなるなら大歓迎だよ」
「違いない」
急遽、授業が自習になった時のような喜びを溢しながら仲間たちは歩き去っていく。
理由などどうでも良いらしく、飛彩の鬼のような特訓がなくなったという事実だけを歓迎しているのだろう。
「おいおい引き止めてくれよ。そしたら言い訳に……」
「お偉いさんから呼び出されたんだろ? 素直に従っておけー」
「謹慎してた時みたいによっ」
小さな笑い声が去っていき、廊下に取り残された飛彩は肩を落とした。
ストレスが発散できる良い機会は無残にも消え去る。
「くあぁ……今一番顔合わせ辛いのになぁ……」
先ほどまで我が物顔で歩いていた廊下も、もはや断灯台へ進む道のように足取りが重くなってしまう。
「メイさんが作った新型の飛行機ぶっ壊しちまったんだもんなぁ〜……」
少女たちの暴走のせいなどと思わず、カクリを連れ去って地上に降りた自分のせいだと飛彩は考えていた。
行為自体で考えればその通りではあるが、何も知らぬ飛彩では仕方のないことだろう。
「メイさんなら……いや怒るだろ。普通に考えて数十億とかそういう金額だもんなぁ」
柄にもなく独り言が次々宙を舞っていく。
それだけ心の余裕の無さが露呈しているのだ。
地下へ地下へと進み、鳴り響く靴音よりも心音に耳をすませながら飛彩はメイの研究室へと歩んでいった。
「失礼します」
どれだけ逃げたくても職場が一緒な以上、遅かれ早かれ顔を合わせる時がやってくる。
さらに謝りにくくなる前に怒られて楽になった方がいいと思考を切り替えた飛彩は胸を張って研究室へと踏み出した。
「やぁ」
気の抜けたこえに出迎えられた飛彩は、喉の奥から飛び出しそうになった悲鳴を懸命に飲み込む。
視界に飛び込んできたメイの研究室は強盗に荒らされたかのように機材や書類が散乱し、メイの美しいオーロラ色の髪もぼさぼさに暴れ回っている。
「待ってたよ」
「は、はい……」
大きなバロンチェアをくるりと回して振り向いたメイの目の隈は化粧かと思えるくらい濃く、もはや重病患者と言える様相となっていた。
「だ、大丈夫ですか?」
「うん。平気平気。ちょっと五徹したくらいだから」
「全然大丈夫じゃないですよ! 死にますよ!?」
「あれ? 分身できるようになったの? それはどの能力なのかな〜?」
「ほら! 幻覚見てるじゃないですか!」
この姿のメイは、飛彩の心に深く突き刺さった。
どんな怒りの言葉よりも重く深く、飛彩の心に二度と失態はしないと誓わせるほどに。
「ん〜休みたいけど、その前に飛彩の能力をチェックしないと」
「それは後でも良いでしょう?」
椅子に腰掛けているにも関わらず、頭をフラフラと揺らすメイをこれ以上起きたままでいさせてはいけないと本能が叫ぶ。このままだと彼女を見殺しにしてしまうと。
「いやいや、どーせ次の侵略区域潰しに行くんでしょ? 能力の確認と把握は欠かせない」
前髪を乱雑にかき上げたメイは額を晒し、いつもの理知的なものから野性的な印象を与えてくる。
「それは……」
弱り切っていたメイは再び気力を取り戻したかのように鋭い視線を取り戻した。
次に飛彩が何をしようかなど誰にでも分かることだろうが、目的が見透かされていたことで飛彩はたじろぐ。
「——ふぅ。子供が無理して戦ってるんだから大人も無理しなきゃダメなのよ」
読み終わったら、ポイントを付けましょう!