故に飛彩は強大な相手にも怯むことなく立ち向かうことが出来たのだ。
語られていない戦いも山ほどあり、飛彩は数えきれないほどの同族を屠っている。
信じる正義のために何をしていいわけではないが、このホリィや蘭華がいる世界を飛彩はどうしても守りたかったのだ。
(俺が正しいとか、そんなのは分からねぇ。フェイウォンを殺したのだって俺のエゴかもしれねぇ)
人が侵略者でヴィランが己の世界を守るために奮闘する存在だったら、どうだろうか。
結局正義などは環境によって変わるもので、故にフェイウォンは揺るがぬものを施行したかったのかもしれない。
「俺の信じる悪を押しつけさせてもらうぜ、異世に眠る者たちよ……」
リージェと心を通わせられたことは、飛彩にとって掛け替えない絆になる。
ただ、残酷にも、ある意味他の方法があったのではないかと考える要素にもなってしまう。
最後にリージェが見せた笑顔を信じ、自分の正しさは少なくともこの現実世界をよくするものだと考えて飛彩は勝利を受け入れる。
同族であるヴィランを滅ぼしてまで、この世界を救いたかったんだと。
「ああ、やっと……終わったんだな……」
そう呟くと同時に世界に色が戻り、仲間達が駆け寄ってくる足音が耳に届く。
「飛彩!」
「飛彩くん!」
現世へと後ろ向きで飛び出した飛彩は揺るぎない地面を久しぶりに踏み締めた。
ワープホールは飛彩が現世に戻った瞬間に消え去り、カクリは今まで潜っていたかのように何度も息を吸い込む。
「あぁ、飛彩、さん……!」
「未来が決まった。いや、飛彩くんが掴み取ったんですね」
ホリィもまた蘭華に肩を貸してもらう形で何とか立てていた。
白き魔法少女のようなヒーローの衣装も、強化アーマー姿へと戻っている。
「リージェもそれに協力してくれた……ありがとう、お兄ちゃん」
力が安定してきたララクも薄い黒ドレスを纏い直し、飛彩へと寄ろうと手を伸ばす。
「……っ、ここは……?」
薄れていた飛彩の視界は見慣れたビルや木々といった現実世界のもので埋まる。
そして覗き込んでくる仲間達の心配そうな顔が、意識をより鮮明にさせていく。
「大丈夫か! 飛彩!」
吹き飛んできた飛彩を受け止めていた黒斗は、瞳を閉じて心の底から安堵して笑みをこぼした。
抱き留められた腕が震えており、喜びを隠し切れないのは明白で。
「あ、ああ……なんとか、な……」
変身が解除されていった仲間達も足を引きずりながら飛彩の帰還に駆け寄った。
「うおぉぉぉ! 飛彩ぉ! 大丈夫か!?」
「熱太君も死にかけてるのよ?」
「あぁぁ〜、とにかく隠雅が生きててよかったぁ〜」
「さっきまで死にかけてたのに、二人とも元気ね……」
「いや、三人ともうるせぇって……!」
耳を塞ぐのも億劫になるほど弱っている飛彩は、黒斗から引き剥がされるように蘭華とホリィの胸へと沈められる。
「飛彩ぉぉぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!! よかったよかったよかったぁ〜〜〜!」
「本当に、本当に凄かったです!」
「ふ、振り回すなって」
ツッコミを入れる元気もない飛彩は、少し離れたところでへたり込んでいるカクリを見つける。
蘭華に耳打ちし、肩を借りた飛彩はそのままゆっくりとカクリのところまで歩いて行った。
「カクリ、ありがとな……お前がいなかったら戻ってこれなかった」
「わ、私……」
「来てくれて……本当に助かった。最高だぜ、カクリ」
「よかった、私、飛彩さんの、役に立てたんですね……」
その言葉で安心したのかカクリはそのまま力なく倒れる。
ふらつきながらも駆け寄っていた刑と春嶺が支えなければ、顔から地面にぶつかっていただろう。
「死にかけても女誑しは治らないね」
「苦原刑には、言われたくないと思うが?」
この賑やかな様相で、飛彩はますます勝利の実感と生きている喜びを感じる。
戦いに色々と思うことはあるだろうが、リージェのおかげでながらえた命を今はただ噛み締めた。
「始祖を倒して無事なわけないわ。早く治療しましょう」
「はっ、メイさんだってひでぇ顔してるぜ……?」
「飛彩ったら人の心配をしてる場合じゃないでしょ。黒斗くん、救援を呼んで」
「ああ、まかせろ」
無事に帰還した飛彩に全員が安堵し、喜びの涙を滲ませる。
しかし、飛彩が潜り抜けてきた修羅場は、確実に身体に負傷を刻み込んでいた。
(あ、れ……? 何だ?)
借りている肩に寄りかかる飛彩は少女達に体重を預けるわけにはいかない、と足で踏ん張る。
(身体が、うごか、ねぇ……)
神経が消えてしまったような感覚に、足掻くような表情を見せるものの飛彩の手足は返事を返さない。
そのまま、どさっと地面に倒れ込む音が周囲に戦慄をもたらした。
「━━飛彩?」
ホリィと蘭華が支えていたにもかかわらず、すり抜けるようにして倒れ込む飛彩は呼吸をしておらず。
「えっ、飛彩くん? しっかりしてください!」
「救護班を送付した座標の場所に送ってくれ! 今すぐにだ!」
慌ただしい怒号が響く中、人類側は立役者のことも知らずに勝利の美酒に酔いしれている。
消え去った展開のドームの後にはヴィランの鎧だけが転がっており、人類の完全勝利だと勝手に騒ぎ立てていた。
「まずい、つながらないぞ……」
「なんでもいいから車でも何でも動くものを探して! 飛彩を死なせるわけにはいかないわ!」
沈みかける夕日は、希望の光がなくなっていくような不気味さを暗示しているようで。
「飛彩くん! しっかりして! 飛彩くん!」
瞳を閉じたまま動かなくなった飛彩を呼びかける声だけが辺りにこだましていった。
『次章予告』
激闘を制した飛彩達は、世界からヴィランを根絶することに成功する。
しかし、戦いの代償か飛彩は一向に目を覚さない。
さらに、新たな悪意が勝利の祭典を脅かそうと……?
次回! 最終章!
『『『未来へ』』』
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