故に熱太達は危険を顧みず、四つん這いになっているレギオンの背中を一気に駆け上って行く。
「背中に刺さった剣まであと少し!」
「ガァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」
死したはずの巨獣が見せる足掻きに、全員は揺さぶられ刑の作った足場にしがみつくので精一杯になる。
ただの悪あがきでもこれだけの巨体になってしまえば必殺の一撃だろう。
「くそっ! 時間がないのに……!」
「……大丈夫だ。そろそろ頃合いだよ」
揺れがおさまった瞬間、指を鳴らす刑の合図と共に鎧龍の至る所に亀裂が走っていく。
「これは……」
「僕の不可視の斬撃には滅びの力がある。もちろん武器を実体化させても、効果はあるのさ!」
翔香とエレナの稼いだ時間が功を奏した。
「動きを止めるぞ!」
「エレナたちも合わせてくれ!」
通信機へと叫ぶ熱太に呼応して展開力をレギオンの体の中で炸裂させるように各々の技を叩き込んで行く。
「展開力を絞るわよ翔香ちゃん!」
「まだまだ限界は先にある!」
「頼もしい限りだな!」
生身の部分突き刺さっていく五色の光はまるで杭のように伸びていき、地面にレギオンを縛りつけた。
レギオンは暴れることも出来ずに今度こそ完全に倒れ込む。
「グルゥオォォォォォォ……………………!?」
「これで足は止めた!」
「あとは消滅させるだけだ! 急ごう熱太くん!」
平坦になった背中部分を一気に駆け抜けていく熱太と刑。
しかし、死鎧の集合体である鎧部分は二度目の死を拒むかのようにドロリと形を変え始めた。
「またあの物量が……!」
「刑! 道を開く! 先に行け!」
展開力を巻き上げる一撃は、そのまま炎のトンネルを直線上に作り上げる。
悪態をつきながらもあと少しで背中に刺さった必殺の聖剣が手に入ると思えば逸る気持ちを止められるわけがない。
「火の輪潜りなんて、若手芸人じゃないんだからさっ!」
果敢に進む刑に対して、死鎧は眩い炎に眩むように下がっていく。
そのまま刑を追うのをやめて炎を作る熱太へと迫った。
技を打ち切った熱太は素早く応戦を開始し、鱗がゴツゴツしている生身のレギオンの背中を踏みしめて死鎧を溶かし斬っていく。
「飛彩の元に行くんだ! 死者が邪魔をするな!」
「新志熱太! 加勢する!」
跳弾を放ち、空を駆ける春嶺が熱太の後ろへと着地する。
背中合わせでの銃撃と斬撃でレギオンの上にわずかなセーフゾーンを作り上げるものの、あまりの猛攻に熱太の作った炎のトンネルは消えてしまった。
「敵が多すぎるわ……」
「刑! 気を付けろ!」
攻勢になったかと思いきや物量で圧倒されるのは精神的にも厳しいものがある。
せっかくエレナと翔香が作り上げた勢いを絶やしたくはない三人は息をするのも忘れて攻撃を続ける。
「言われなくとも……押し通る!」
巨大な鎌で敵をなぎ倒しながら進む刑は変身した後も決してパワータイプではないが死鎧を減し斬るように突き進んだ。
応戦を余儀なくされるたびに速度は遅くなり、鎧を破壊した時に飛び散るドロドロとした嫌悪感しか抱かない汚泥が刑を黒く染める。
不可視の斬撃が黒く塗られる中で、とうとう死鎧達の攻撃が刑を捉え始めた。
「ぐぅっ!?」
「刑!」
「大丈夫だ! あと少しで剣をとれる!」
心配するな、まで語れなかった刑はすぐに囲まれてしまい、熱太たちとも分断される。
死鎧の拳が腹部に減り込み、そのまま回されるように攻撃を浴びせられていく。
「ぐはっ!」
物言わぬ死兵たちは死してなおフェイウォンへの忠誠を示す。
攻撃の勢いが増していく中で、ヴィランに取り憑かれて飛彩を目の敵にしていた頃を刑はふと思い出した。
それでも今こうして共に戦い、お互いのために命を賭ける間柄になっていることが不思議になってしまい、額から血を流しながらも口元には笑いがこみ上げてくる。
(あぁ……見てくれだけを気にしていた僕はもう、完全にいなくなったんだな)
栄光からの転落。
ハイドアウターからの憑依。
クラッシャーとして能力の制限や一からの出発。
「僕は……」
それら全ての経験が、今この戦いで戦う力を手に入れるためだったのだろうと鎌を握る手に力が籠る。
「僕は今日……友を救うためにヒーローになったんだ!」
防御に用いていた不可視の盾を解除し、全ての展開力を天刑皇へと注ぎ込む。
「どけえぇぇぇぇぇぇ!」
銀色の展開力が鎌の刃をさらに巨大なものへと作り替え、銀の軌跡を残す円斬を放つ。
『獄鏖皇の天刑!』
あまりにも流麗な回転斬は回っていなかったかのような錯覚に陥るほど速く、元の位置から狂わずに武器を振り抜いている。
直後、首と身体を切り離された大量の死鎧は黒い液体とかしてレギオンを濡らしていった。
「くっ!」
再び死鎧が湧き出すかもしれない。
その警戒から、刑は横たわることを渇望する身体に鞭を打って走り抜ける。
いつしか鎌をレギオンに突き刺し、左右からやってくる死鎧を回避しながら緑のオーラを放つ剣だけを目指した。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
大軍を背後に引き連れる刑は、陥没しているレギオンの斬痕へと滑り込み勢いよく刀を引き抜いた。
「はぁっ!」
振り向きざまの一閃だけで大群は灰と化し、空を覆っていた黒い空までも切り裂かんとするほどで。
「な、なんて展開力だッ!」
持っているだけでも暴れ出しそうな刀に、黒斗と同じく必殺の一撃を刑は予感する。
これにヒーローたちの力を込めて飛彩に託せればヒーローに勝機があると。
「ガッ、ガァァァァ……!」
「なっ、杭を引き抜いて!?」
メイの展開力のこもった刀は、他のヴィランにとっては劇毒も同然。
それが引き抜かれたのであればレギオンにも多少の力が戻るのだろう。
(この巨龍ごと屠るには……全てを注ぎ込むしかない!)
黒斗のために作られた刀はメイの作り上げた特別なものである。
故に展開力の許容量がとてつもないものになっており、残っている刑の展開力も充分に注ぎ込めていった。
「熱太くん! 受け取ってくれ!」
通常の太刀だが、巨大な剣を引きずるように戻ってきた刑は、不可視の斬撃の空中移動を応用して刀を槍のように思い切り投げる。
希望のバトンは銀色の展開力をまとって繋がれた。
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