麗しい友情を確かめ合うと同時にエレベーターの扉が開き、戦闘の後が生々しく残るエントランスが視界に飛び込んできた。
足の折れたスティージェンが転がっているのは相変わらずで、それを見たホリィは申し訳なさそうに頭を下げた。
「オラ、お前らはとっとと荷物まとめてこい。こいつは俺が見ておく」
「は、はい」
下着などの飛彩に見せるわけにはいかないものもあるだろうし、これ以上誘惑されては敵わないと蘭華とカクリが率先してホリィを引いていく。
エントランスには瓦礫同然の家具と男達だけが残った。
「いつまでのびてる振りしてるんだ? 俺がいる限り隙なんてみせねぇぜ」
「——チッ、気味の悪い男だな君は」
「足折れてるのに平然としてるテメェの方が気持ち悪いわ」
床に伏せていたままのスティージェンに肩を貸した飛彩はそのまま壁際へともたれかからせる。
「君は馬鹿か? これだけ近づけば足が折れていても君を殺せるぞ?」
「お前も馬鹿じゃねぇならわかるだろ?」
その言葉にスティージェンは全ての攻撃を夢想するも、全て失敗に終わることを予感した。
奥底に秘める展開力を解放されれば万に一つも勝ち目はない。
「全く、何もかも完敗だよ」
どんな力を用いても、展開力の全てを解放されれば飛彩には何も通用しないということを理解したスティージェンは今度こそ完敗を悟る。
「こうも無様な姿を晒せば解雇だな……」
「こんだけボロボロになってんだ。クビに決まってるだろ」
隣で腕を組んだまま立っている飛彩はぶっきらぼうに言葉を放つも、一人の武人に対して敬意を覚えている。
卑怯な手を使ってホリィを奪い返しにくるような人物ではないと。
「二度とホリィに手を出すな。やるなら、まず俺を倒してからにしろよ?」
「……そうだな。家族のいざこざを解決するのは家族にやってもらった方がいい」
「違ぇねーな」
敗北した割には晴々とした様子のスティージェンは気がつけば痛みが消え失せていることに気づいた。
その刹那に一瞬だけ緑光がはじけ他のが視界の端を泳ぎ、スティージェンは何事かと顔を向ける。
だがそこには、何事もなかったかのように飛彩が佇んだままであった。
「……君は化け物だな」
「そうだな。ヒーローやヴィランってよりかはそのほうが近いかもしれねぇ」
戦友のような冗談で返されたことにスティージェンは驚いたようだが、牙を向いてこない限り飛彩の敵ではないのだ。
敗北してもなお晴々とした気持ちで相手と接することが出来るのは人間と戦った時だけなのだろうと思った飛彩はあえてスティージェンに情けをかけたのだ。
(コイツは俺をもっと強くしてくれた。助けるには充分すぎるか……それとも俺が甘くなったか、だな)
助けるとはいえ、仮にホリィを追ってきた場合は容赦はしないだけだが。
そしてスティージェンもまた飛彩の奥底に眠る力の片鱗を踏まえて金で買収すら出来ない相手に勝ち目はないと、まだカエザールの相手をしていた方がマシだと考えさせられるのであった。
敵に敬意を払うことが出来る、それが積み重なっていけば余計な争いはいつか消えていくのかもしれないと柄にもなく飛彩は感傷に浸る。
「飛彩くん、お待たせしました」
侵入作戦はホリィの心を救っただけでなく、戦いと精神の面で飛彩を大きく成長させたようだ。
心なしか大人びたように見える飛彩にホリィは頬を染めてしまう。
「よし、荷造りは終わりか。とっとと帰るぜ」
エレベーターに背を向けて歩いていく飛彩達にスティージェンは訝しげな視線を送った。
全て終わったが何気なしにホリィはゆっくりと振り向く。
「——お嬢様、排気口から逃げるおつもりですか?」
「……ええ。そんなところ」
「今からでも考え直した方が良いです。我々は敵対こそしないでしょうが、貴方の支援はしないでしょう」
「大丈夫です。私にはもう頼れる仲間がいますから」
その時、スティージェンはいつも怯えるように笑っていたホリィの本当の笑顔を知った。
今までこそ見下したと言う感覚はなかったが、これだけ虐げられている彼女は鳥籠の姫君であるべきだと勝手に想像していたらしい。
少しだけ驚いた表情をしたスティージェンは事切れたように項垂れ、表情をみせないようにぼそぼそと喋り続けた。
「私はとんでもない勘違いをしていたようです。私と貴方は全く似ていない」
「当たりめーだろ。陰険ヤローが」
茶々を入れる飛彩を制し、ホリィはゆっくりと頭を下げた。
それは唯一味方のように感じられていた相手への感謝なのかもしれない。
「道具でいるのは私だけで充分……どうかお嬢様のお好きなように」
そのホリィへの敬意を汲み取った飛彩は再び生命ノ奔流を発動し、スティージェンの骨折を完治させる。
「何の真似だ?」
「礼はいらねぇ。後片付けでもしておいてくれよ」
「ふっ、私が全てカエザール様に報告すると思わないのか?」
「しないだろ。俺に負けた痕跡を隠すチャンスをくれてやるのさ」
憎まれ口を叩きつつも、ホリィにとって味方のような存在の相手への敬意を表すると共に、飛彩の知らない戦いの境地を教えてくれた相手への礼とも言えた。
いくらスティージェンが出来る執事とはいえ数分で粉々になった家具の修繕をどうしろと言うのか、というところではあるものの。
「私の周りは人使いが荒い方達ばかりだよ」
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