「こっからが本番だ!」
七人のヒーロー達は数の利点とホリィの未来確定を存分に生かしていく。
それだけでも避けるのが厳しいというのに、波状攻撃や全方位攻撃などフェイウォンに対して主導権を奪い取ってみせた。
(ふむ……存外、あの未来を確定する力が煩わしいな。多少のダメージも展開力から充填して回復すれば良い、となれば……)
攻撃の雨を顧みず、炎や氷、不可視の斬撃や展開弾を全て鎧で受け切りながら駆け抜けたフェイウォンはそのままホリィへと拳を向ける。
「させるかよ!」
振り抜かれた拳へとタイミングよく放たれた深緑の蹴り込みは互いの威力を完全に相殺してその場に留められる。
それだけの時間があればホリィはすぐに別の場所に移動して周囲の展開域をより濃いものへと変えていった。
「仲間がいれば百人力だ!」
「それは幻想というものだぞ?」
素早く地面に降り立った飛彩は低い姿勢からの蹴り上げと、連続の前蹴りを槍のように突き刺していく。
それら全てを紙一重で躱していくフェイウォンは生命力溢れる緑の展開域に渋い表情へと変わっていた。
より純粋なヴィランであるが故に生命力という毒が他のヴィランよりも通じやすいのかもしれない。
手応えを直感した飛彩はより、展開力を新緑の左脚・生命ノ奔流へと集中させて攻撃速度を上げていった。
(この男も妙な違和感があるな……これほど展開域を発しているにも関わらず、先ほど一瞬見失った)
どれほど始祖が手練れであろうと飛彩を前ににして雑念を抱けば、その隙を突かれることは必至である。
「オラァ!」
足に集中させていたところからの左ストレート。
あえて黒い左腕・支配ノ起源を発動しない攻撃はさらに意識の探知をすり抜けてフェイウォンの右頬を打ち抜くことができたのだ。
「おいおい、どうしたぁ? 気が抜けてるんじゃねぇのか?」
「速さでは、ないな……面白い。私が知らぬ現象に出会うなど久方振りだ」
ダメージとしては心許ない一撃のはずだが、フェイウォンはよろめいたまま殴られた顔を撫でている。
痛みより不思議そうな様子を取られていることに苛立った飛彩だが、そこからは見向きもさらぬまま残る左手の守りを突破出来ずに捌き切られてしまっていた。
「仕組まれた因果律!」
半透明のヴィジョンがフェイウォンの顔面に重なったことで、動きが一瞬止まる。
目眩しのような効果を発揮しつつ、実際にホリィの放つ白い光弾が顔面へと直撃し、その隙を逃すまいと飛彩の右足、春嶺の跳弾が揺らめく鎧へと襲い掛かった。
「少しは効果が出て欲しいわ……」
リロード不要の展開銃を構え続ける春嶺の弱音が漏れるのも無理はない。
展開域はこの異世全土ということは純粋な展開力の塊であるフェイウォンの体力を今のでどれだけ削れたことになるのだろうかという話にもなってくるからだ。
「おい、隠雅飛彩。お前の右腕は本当に効いたのか?」
展開域を使わず、無線越しの会話ならばフェイウォンに傍受される心配もないという予想の元、飛彩の手応えを問う。
「確実にぶっ殺したって思ったんだがな……」
「敵の領域が異世全てなら、飛彩くんが無効化したのは一部だけということなんでしょう。それですぐに回復された……」
「さすがに飛彩の展開域で異世を覆うのは無理だぞ、そんな時間はあるまい!」
剣撃を容易く弾き飛ばされてしまった熱太も、その通信へと割り込んだ。
今は刑と翔香、エレナの三人の近接攻撃でフェイウォンの進撃を押し留めているが、それも飛彩への違和感とホリィへの攻略を考えている間のみだろう。
それも始祖の生きてきた年月と経験からすれば、飛彩達に残された時間はそう長くはない。
「ああ、無効化領域を広げれば敵味方関係なくなっちまう。どんだけ時間かかるか分からない以上それは無理だ」
深緑の展開は、あがっていた息を整えながら傷を癒していく。
そのまま未来確定の力も借りて、飛彩が意識せずとも最小限の力で仲間達の場所へと伸びていった。
「ホリィ、ありがたいが奴にあまり能力を見せるな……あいつ、観察の方に力を割いてる」
「あ、ごめんなさい……」
「未来確定で着実に攻撃を当てて俺の展開無効で奴の展開総量を少しずつ削っていくんだ」
全員にオープンになっている通信故に、飛彩の言葉へ賛同の頷きを返していく。
しかし、途方もない戦いの旅路に出発しているということから全員目を背けているが。
「飛彩くんの言う通り、一発逆転の手があるような相手じゃない」
「我慢比べだね〜、よぉし、頑張るぞ!」
「翔香ちゃんの元気があれば精神的な疲労も癒えるわね」
どれだけ強いヴィランでも展開力を削りきれば存在が維持できずに消滅する。無謀だろうとその勝ち筋が消えていないだけ勝機がなくなったわけではない。
「ホリィ、こっからは俺以外にも未来確定を使うんだ。その場で一番有効なやつをお前が選べ」
「えっ、ちょ、ちょっと飛彩くん!」
黒斗や蘭華が行っていた参謀のポジションを急に行えと言われても即座に対応出来るわけもなく。
飛彩達六人が一斉に攻撃を仕掛けるも、手札を見せすぎてはいけない、さらにその場で即決しろと言うオーダーがホリィを混乱させてしまう。
「手札は見せないように、か?」
「早急に攻略されても困るからな」
なかなか定まらない未来確定のこともあり、飛彩達の攻撃は完璧に防がれてしまった。
反撃の拳や蹴りが軽々とヒーロー達を吹き飛ばしていく。
中距離支援のエレナの放つ鞭に未来確定が付与されるが、威力としては飛彩や熱太の一撃と比べれば心許ない。
「え、私!?」
攻撃を放っていたエレナ自身もそう驚いてしまうほどの結果だ。
全員の視線がホリィに集まる中、慌てていることは明らかだった。
「落ち着けホリィ! 戦場をよく見るんだ!」
リーダーの経験がある熱太だからこそ全員を率いるということに抵抗はない。
故に未経験のホリィにそんなアドバイスが刺さることはなく。
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