【完結】変身時間のディフェンスフォース

〜ヒーローの変身途中が『隙だらけ』なので死ぬ気で護るしかないし、実は最強の俺が何故か裏方に!?〜
半袖高太郎
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クラッシャー・ライジング

公開日時: 2021年1月31日(日) 00:03
文字数:2,272

「迸れ! 生命ノ奔流ライフル・ストリーム


 稲光のようにあたり一面に広まった緑光が黒い大地を打ち消し、異世への入り口をかき消していく。

 死した大地には草花が芽吹き、命の脈動を感じさせてくる。


 人にとっては美しい篝火でもヴィラン達にとっては嫌悪と畏怖の象徴なのだろうか、次々と異世への入り口を開いて逃げようとするが飛彩の力によってそれは霧散していく。


「ナッ……ナァッ!?」


「押し掛けといて勝手に帰るんじゃねぇって」


 右足の力も解放している飛彩の速度から逃れられるものはおらず、真紅の鉄槌が粉々に悪しき鎧を打ち砕いていく。

 蹴り抜いた勢いを利用し、回転しながら他のヴィランの首を刈り取る。


 背を向けて逃げ出すものには、生命ノ奔流ライフル・ストリームの生命創生の力で植物を操り、動きを封じる。


「化ケ物! こんな力を持ツ下等生物ガァ……!?」


「下等で結構!」


 右足による前蹴りでヴィランは崩れながらよろけ、その隙目掛けて左腕の手刀が刺さる。

 減りこんだ左手の悪しき展開力を吸収する力で存在そのものを消滅させていった。


「ナッ、ナンダトォォォォォォ!?」


「下等な相手にやられるってのはどんな気分だい?」


 兜だけになったヴィランを眼前に引き寄せた飛彩はこれでもかというほど邪悪な笑みを浮かべていた。

 ヒーロー試験に受からない理由は能力以外にも問題があったのではと飛彩に好意的なホリィ達ですら思い浮かべてしまうほどの。


「どうした! ビビってんならまとめてかかってこいよ!」


 安い挑発だが今のヴィラン達には乗るしかなかった。

 ヒーローよりも驚異として映る三色の戦士に何よりの畏怖を込めてそれぞれの獲物を差し向ける。


「——おいおい、俺が正面から相手してやると思ってんのか?」


 左足を深く地面に差し込んだ飛彩は強靭な植物の蔦を這わせ、飛び込んできたヴィラン達をあっという間に縛り上げる。


 強靭な力と冷静に先を読む力が同居している飛彩が調子良く戦えるときにもはや敵はいないのかもしれない。


 スロースターターゆえに攻勢に転じるまで時間はかかるものの三つの能力を自由自在に操るまで展開力を高められた飛彩ならばこのままヴィランを握り潰すことも出来たが、あえてチームプレーを選択する。


「熱太! ホリィ! 今だ!」


「はい!」


「任せろ! ブレイズインフェルノォォォォォ!」


 残る全てのヴィランが縛り上げられ、宙へと持ち上げられていく。

 熱太もまた灼熱の展開をブレイザーブレイバーの刀身にのみ凝縮し、触れたものを全て溶かしてしまうほどの炎の斬撃でヴィランを無へと還す。


 着地した熱太と入れ替わるようにヴィランが一か所に集まるように未来を確定させたホリィは太い蔦を一気に駆け上がり、空中から巨大な光弾を放つ。


「ジャッジライト! ホーリーキャノン!」


 悪しき存在だけを撃ち抜く真白い光弾は廃墟や緑を壊すことなくヴィランだけを屠った。

 着地したホリィと熱太に背中を預けるようにして移動した飛彩は展開力を最大限に引き伸ばし残党がいないかを確かめる。


「——今ので全部みたいだな」


 かつての自己中心的な飛彩ならばこのような連携して戦うなど微塵も考えずに自分の手柄を優先していた。


 だが、今や仲間達との絆に溢れる飛彩は己の守るもののために、その守るべき者たちの力も使って戦うのだ。


「毎日進化されちゃうんだもん、一緒に走る相棒の身にもなってよね?」


「蘭華ならずっと俺について来れるって信じてるぜ?」


「えっ、あっ! そ、そうに決まってるでしょ!」


 信頼の証を突きつけられて照れる蘭華に対し、鮮やかな必殺技を決めたはずのホリィが頬をムッと膨らませた。

 何気なしに空を見上げた瞬間、空中に張り巡らされていた柵に黒い影が蠢いていることを見つける。


「……待ってください、空中にいます!」


 巨大な柵をよじ登るヴィランは迎撃装置に攻撃されることも気にせず、逃げおおせようと必死に両手を動かす。


「人様の土地奪っておいて、逃げようったっていかないぜ」


 クラウチングスタートのように姿勢を低くする飛彩が跳躍力を溜め始めた刹那、ヴィランへと投げられた槍が空昇る流星のように飛び、柵に貼り付けるかのようにヴィランを串刺しにした。


「今のは……?」


 攻撃の出所を追う三人は、遠方から投擲の構えをといた白銀の戦士に目を奪われる。


 白銀のロングコートの中に覗く、重厚な鎧。

 フルフェイスの仮面が無機質なロボットのような印象を与えている。


「あいつは……クラッシャーか! 悪いな後片付けさせて!」


 手を振り、声を大にして叫ぶ熱太だがクラッシャーと呼ばれた戦士は踵を返して後陣の部隊へ消えていった。


「んだあいつ? 感じ悪ぃな」


「クラッシャー、最近売り出し中のヒーローよ。素顔を知るものはいないんだって」


 通信機越しに連絡を飛ばす蘭華は把握していた情報を飛彩達へと伝える。

 知らぬ情報があると気分が悪くなる蘭華は「クラッシャー」と呼ばれたヒーローの出来る限りの情報を区域外の作戦司令室で調べ上げた。


「えぇと能力は……武器の創造みたいね」


「なんだそれ。刑の下位互換じゃねーか」


 かつて飛彩にその牙を向いたことのあるヒーロー「苦原刑」の能力は不可視の攻撃を作り出すものだった。

 その形状などは自由に創造できることから飛彩がクラッシャーの能力を下位互換と思うのも無理はない。


「おかげでヴィランも取りこぼさずに済んだしね。作戦終了よ。現地は調査部隊に任せるから皆は帰還してちょうだい」


「おう。戻るぜ、熱太、ホリィ」


 頷きあった二人と共に能力を解除しながら区域外へと歩み出す三人。



 始まった奪還作戦の初戦はヒーロー陣営の圧勝に終わり、この情報は瞬く間に世間へと知れ渡るのであった。

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