「さあ、これでお終いにしましょう!」
「あぁん? やれるもんならやってみなぁ〜!」
リボルバー型の二丁拳銃から放つ初弾は数回跳ねた後、飛び上がった春嶺の両足に着弾する。
城壁を超える高さから中庭にいる大量のサクケーヌ目掛けて大量に展開銃弾を乱射していく。
降り注ぐそれに死に行く分裂身体が現れるも、黒い展開から湧き上がるように分裂体が再召喚されていった。
「何度も無駄なことすんじゃねえ! いい加減鬱陶しいぜ!」
「だったら大人しく殺されなさい!」
もちろん春嶺の狙いは牽制射撃だけではない。
本質はある程度の威力を残したままに銃弾を空へと反射させることだった。
反射して空を舞ってしまえばサクケーヌからは終わった攻撃と認識されると読んで。
(これを外したら終わる……でも、出し惜しみはしない!)
頭の中で全てのサクケーヌに照準を合わせると同時に、空に浮かぶ銃弾の起動計算を並列で走らせる。
空中で身体を捻る春嶺は左目で地面を右目で空を見る。
ありえない瞳の動きを皮切りに最後の銃弾を空と地面へと放った。
「いけぇぇぇぇぇぇ!」
まず地面に放ったのは閃光を伴う巨大なチャージショット。
複数のサクケーヌが壁となり押し留めようとするも、巻き込まれたサクケーヌは次々と消滅していき防波堤どころの騒ぎではない。
「あ、あの女ァァァァァァ! こんなもんでサクケーヌ様を殺せると思ってんのか!?」
消滅と繰り返される分裂再生。そうしていく中で春嶺の放った巨大な銃弾はどんどんと勢いを失っていく。
「へっ! お前の最強の一撃も俺様には通用しないぜえぇぇぇぇぇぇ!」
勝利を確信するサクケーヌだが、同時に春嶺もまた勝利を確信する。
間抜けな絶叫が春嶺の耳に届いた瞬間に、上空に撃っていた展開弾が空に向かっていたそれらの軌道を反射させあっていく。
「貴方は弱くても強い。それは認めるわ。でもね……おバカさんで助かっちゃった」
そのまま地表へと全弾同時に進路を変えた光弾が勢いよく飛び出した瞬間、サクケーヌが巨大な光弾を打ち消した。
「オラァ! これで……ってえぇぇぇぇぇえぇえ!? なんじゃありゃぁぁぁぁ!?」
「反響流星弾!!」
驚くのも束の間、無数の光弾の雨はほぼ同時に地表にいたサクケーヌ達を撃ち抜いていき、同時に消滅させていく。
断末魔の叫びすら残せない鎧の集団に春嶺は黒い地面へと着地しながら辛くも勝利を手に入れたことを確信する。
「頭の良さまでは戦いの中で埋められないわ。出直してきなさい」
波打つ黒い展開がみるみるうちに収縮していき、間違いなくサクケーヌの命の炎が燃え尽きようとしていた。
「はぁ……はぁ……!」
勝利を収めた春嶺だが、展開力の使いすぎでエネルギー切れを起こしてしまったようで変身が強制停止してしまう。それでも目標は達せたと口角を上げた瞬間、僅かなヴィランの展開が頬を撫でた。
「テメェ……俺様の軍団をよくも……!」
「!?」
立ち上がろうとするのは自分の足元しか展開を広げられず、鎧が半分以上失われたサクケーヌの本体だ。
わずかな展開力が故に分身も作れず、命を留めるだけで精一杯のようで立ち上がったものの足元がおぼつかない。
だが、それでも変身が解けてしまい一般人同然となった春嶺を葬るのは赤子の手を捻るよりも簡単なことだ。
「絶対、ぶっ殺してやる!」
「くっ……!」
コートに隠していた拳銃を構えるも、疲労と集中力の使い過ぎにより視界が霞み照準がどうしてもサクケーヌに合わない。
その事態に歯噛みしながら銃を乱射するものの、擦りもせずに虚空を通り過ぎていく。
「お互いに死にかけってわけだが、お前さえここで殺しちまえばゆっくり回復するのみよ!」
よろよろと近づいてくるサクケーヌに照準を合わせることをやめた春嶺は次の一撃で決着をつけようと実弾の拳銃を強く握りしめる。
(相手はゆっくり近づいてくるだけ。弾切れのフリをしてカウンターを狙えば)
「お前を奴隷にするのはやめだぁ。俺様の記念すべき、初勝利として……首を飾ってやるよぉ〜」
そんな死にかけのサクケーヌはまともに残っている左足で強く地面を踏み締めて大きく跳躍する。
ゆっくり歩くより飛びかかった方がわずかな力で止めをさせると考えたのだろう。
「なっ!」
そして、それはゆっくり歩く相手へと狙いを済ましていた春嶺の虚を衝く形になる。
すかさず斜め上へと銃口を向けるも視界は霞み、拳銃の重さにそのまま倒れ込む始末だ。
「ら、蘭華、ごめん……」
果敢に戦っていた春嶺が諦めを口にした瞬間、その場に突風が吹き荒れて春嶺の視界を覆った。
「きゃっ!?」
「な、なぁんだぁ!?」
サクケーヌにも予想外だった銀色の疾風。壊れかけた頭部で辺りを見渡した瞬間、凄まじいスピードで背後に回ったそれが小太刀をサクケーヌへと突き刺した。
「あと少しで展開出来るんだ。君の力を頂いていくよ」
「が、がひゃっ!? な、何しやがる、俺の初勝利を!」
「それは来世に持ち越してくれ」
銀色のフルフェイスの仮面を被った男はそのまま解体するように足まで小太刀を落とし、サクケーヌを両断した。
「ぎゃあぁぁぁぁぁ!?」
「——世界展開完了。ありがとう、君がいてくれたおかげで早く合流出来そうだ」
何が起きたかわからない春嶺ではあったもののヒーローの展開を感じた瞬間、救援が来てくれたのだと安心して意識を投げ出すことが出来た。
こんなにも早くリタイアすることになってしまったことを呪いながら、飛彩に蘭華達を託して意識を手放していく。
「隠雅、後はお願い……貴方もどうか、隠雅の力に」
そのままうつ伏せで倒れた春嶺を抱えた男は、物陰へと春嶺を横たわらせてここの戦闘以上に険しい展開力が蔓延る城の上部を見た。
「今行くよ、飛彩くん」
銀色の強化スーツと仮面はまさしく飛彩に己の慢心を自覚させたヒーロー、クラッシャーである。
短い変身時間で展開を遂げたクラッシャーは自分の周りから円形に広がっていく展開力から一本の長槍を取り出して棒高跳びの要領で城の上部へと跳ね飛んでいった。
地上から登る銀の閃光が戦場に大きな波乱を巻き起こすことになるとは、まだ誰も知らない。
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