だが、頂点への道のりは遠い。
拳の雨を受け止めながら前に進むフェイウォンは完璧なる防御力を発揮する。
それは攻撃を受け続けながら体勢を整えるという、フェイウォンにしか出来ない荒技だった。
「私は防御の頂点に! 攻撃の頂点に! 戦いの頂点に君臨している!」
(俺の攻撃を受けながら、力を溜めて……!?)
「フンッ!」
左へと跳ねた飛彩は辛うじて拳を回避するが、フェイウォンの放った拳圧は地面を砕く。
砕かれた黒曜石のようなものは散弾となり飛彩の背中へと減り込む。
「何っ……!?」
仮面の奥の瞳が苦悶に揺れた瞬間、振り返ったフェイウォンの回し蹴りが飛彩の脇腹を蹴り抜いた。
「この戦いの頂点に立つのは、私だッ!」
「げはっ!」
今まで飛彩の身体を守り抜いてきた白い鎧にとうとう罅が入る。
それは展開力ですぐに修復されるものの、差が如実に現れ始めた証拠だった。
「少しは迫れたようだが、超えることが出来ないもの……それが頂点だ」
吹き飛ぶ飛彩に対してホリィの白い展開域が伸びる。
撒き餌に対する報復として今度はフェイウォンが飛彩をだしにしてホリィの能力を引き出したのだ。
この状態ならば能力展開よりも早く未来確定を消せる、と。
「もらったぞ!」
「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
しかし、ホリィが確定させていたのは必殺のカウンターブロー。
「なっ、にぃ!?」
顔面に浄化の展開力を纏わせたホリィの拳が叩き込まれる。
飛彩のみが戦うと刷り込まれていたフェイウォンはか弱い少女からの反撃をまったく意図していなかった。
ダメージよりも驚きが勝る中、飛彩が駆けつけるには充分すぎて。
「そいつがただ守られてるだけの雑魚に見えたのか?」
背後から腕を回し、そのままのけぞる飛彩は地面にフェイウォンを植えるようにバックドロップを炸裂させる。
柔軟な体勢で素早く起き上がる飛彩は、倒れ伏す相手へと追撃の拳を放つ。
「今ので……裏をかいたつもりか?」
目にも留まらぬ一撃のはずが、それは手の中に受け止められていて。
「はっ。守ったってことは、やばかったってことだろ?」
「図に乗るな!」
そのままフェイウォンが腕を振るうだけで飛彩は地面を砕くハンマー代わりになってしまう。
「ぐっ!」
衝撃は生身の身体も襲い、白い仮面の隙間から赤い血が漏れた。
すかさずホリィとララクが割って入るものの、武器のように振り回された飛彩に拳を突き立てられずあえなく転がっていく。
「お、お前ら!」
「まずは自分の心配だろう?」
再び地面に叩きつけられた飛彩は、その凄まじい威力により弾み上がる。
そこへ繰り出された蹴り落としは異世を砕くほどの衝撃を飛彩と滅びゆく地表に与えた。
「がはっ!?」
悲鳴と亀裂。滅びのカウントダウンを進ませるような一撃は飛彩の意識を奪いかける。
数十メートル吹き飛ばされ、瓦礫に叩きつけられたところでやっと起き上がったホリィは、フェイウォンを撃破する決定的な一打がないことに焦る。
これから何時間も戦えば勝機があるかもしれないが、頂点の展開力を地道に削るにはあまりにも時間が足りなかった。
(脱出しても、奴が追ってくる……現世で戦ったら被害がとてつもない数に!)
さらには変身が一度でも解けてしまえばメイのメンテナンス無くして再変身は不可能。
そう、現世での戦いは不利な条件が多すぎるのだ。
「二人とも立って!」
敵と思われず唯一自由に歩き回れる蘭華だが、許されているのは味方への応援のみである。
「いっそのこと始祖が死ぬ未来とか確定出来ないの?」
「展開力と時間があれば可能だったかもしれませんが、絶対に間に合いません」
「このまま崩壊が続けば皆死んじゃうよ。何とかしないと……」
展開力が足りないのであればヒーローの力を結集すれば未来はあるかもしれない、と蘭華の瞳が決意に満ちる
「……私に考えがある」
もはや、手があるならば即座に行うべきと二人は頷く。
「ララクは世界移動のゲートを広げて。ホリィはそのゲートがヒーローの皆がいる場所に発生するように未来確定!」
無謀なように思えるも縋る希望としては充分すぎる。二人が展開力を押し広げた瞬間に悪夢が目の前へと現れた。
「弱者の知恵など集めて何になる?」
「一矢報いるってやつよ」
握る拳銃が人生で一番頼りなく感じた蘭華だが、自分が数秒でも時間を稼がなければ作戦は瓦解してしまう。
「このぉ!」
そこで蘭華が取ったのは一番の愚策。銃から右手を話した上に殴りかかる無謀極まりない行いだ。
「っ!」
殴りつける腕の方が無事では済まない、故に何故そんな行動を取るのかが分からずフェイウォンは僅かに動きを止めた。
時間稼ぎをされている、それは理解出来ていたが「たった数秒」のために何故この人間は「命を捨てられるのか」という疑問がフェイウォンを縛る。
「うぅっ!?」
現に胸部に当たった拳は金属壁を殴ったも同義で、蘭華の拳にヒビをいれた。
「雑魚の思考は理解出来ん」
「この勝負に勝つためなら命の一つくれてやるわよ」
土壇場でも理性を失っていない蘭華が無謀な賭けをしたのは時間稼ぎの成功率が高いと読んでいたからだ。
(たった一言でいい。この時間が稼げたんだから私の仕事は、終わり……!)
フェイウォンは理解の出来ない事象に遭遇した時に、理解しようと思考を巡らせる癖があると考えた蘭華なりの作戦。
その代償が命であることは間違いないが、蘭華もまた飛彩の復活とヒーロー達の尽力を信じている。
「勝つのは、私たちよ……!」
命を摘み取られるのを待つ蘭華だが、決して瞳を閉じなかった。
最後の最後まで恐怖に抵抗し、フェイウォンに弱者に対する疑念を植えつけてやると強い意志を持って。
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