消えては現れる蘭華に苛立ちが募る春嶺。
銃弾を乱射しながら敵を探して顔を降った瞬間、消えた場所と全く同じところに蘭華が現れ、スタンバトンを拾い上げる。
「甘いんじゃないの!」
視線が蘭華に戻ってくるよりも早く、電影が円弧の軌跡を描きながら春嶺の腹部へと叩き込まれた。
「ぐふっ!?」
「終わりなのはアンタの方よ!」
電圧を最大にしようとした瞬間、春嶺の怒りの宿る視線が蘭華を射抜く。
すると、どこからともなく飛び出してきた銃弾が、蘭華のスタンバトンを吹き飛ばした。
「いつの間に!?」
「同じところに現れることも警戒しただけ……もう面倒かけさせないで!」
槍のように鋭い前蹴りが蘭華の身体をくの字にして吹き飛ばす。
転がっていく蘭華は素早く受け身をとって立ち上がり小銃を突きつけた。
「ヒーローがなんで飛彩を隠すのかしら? 後ろにいるのは……」
「私はあの人の命令に従うだけ」
「……ダメな男に引っかかってる匂いがするわ」
「バカにしないで!」
春嶺の身体から一瞬だけ展開力が迸り、廃墟街を駆け巡った。
急激に広がった展開は春嶺へと一瞬で収束する。
「ちょうど八分。遊びは……終わり!」
『天弾! 春嶺! メガ、フルオート!』
黒衣だったはずの装衣は白へと変貌し、身の丈を覆うローブが春嶺の握る得物を眩ませる。
肩にかかる程度だった髪は腰までの伸びたが、代わりに前髪が短くなり、青い瞳が陽光を反射させた。
「跳弾響、世界展開完了。さあ、狩りの時間よ」
先ほどの電撃で勝負が決まらなかったことに後悔が過ぎるも、蘭華は勝利を冷静に狙っていた。
飛彩ならばいかに相手が強大でも諦めないという感情的な理由だが。
「お前なんかに……局長の邪魔はさせない」
ローブの下から覗くストック付きの狙撃銃が地面を穿つ。跳弾したそれが蘭華の頬を掠める。
「なっ!?」
射抜くは蘭華ではなかった。
実弾ではなく凝縮された波動弾は、局地的に貼られている展開に当たって跳弾を繰り返し、次元の裂け目と最後の一体のガルムを消滅させた。
「わずかな展開力でも自身の展開に跳弾させることで威力を増してる……?」
かつて分厚い装甲のヴィランを一撃で灰へと変貌させた技の絡繰に戦慄する蘭華は息を吸って小銃を構え直した。
「ヴィランの邪魔も入らない。援軍が来るまで二分だったよね? まあ、どっちでもいいわ。それが貴方の余命だから!」
「言ってくれるじゃない!」
銃を乱射しながら突撃する蘭華。
「跳弾響はその名の通り跳弾を繰り返して威力を上げる世界展開。
接近戦に持ち込んでしまえば、直撃したとて威力が低いのではないか、という狙いだ。
「甘いわ」
隠していた左腕から蘭華に向けられたのは片手サイズにあつらえたソードオフショットガン。
弱点をカバーしていないわけがなく、飛来する蘭華の銃弾目掛けて散弾を解き放つ。
なんと空中で散った弾は蘭華の打ち出した銃弾の全てを捉えてあらぬ方向へと弾き返す。
春嶺には全ての弾の軌道が見えており、それを散弾銃で全て弾くことも簡単なことなのだ。
「大道芸ね」
「消えたり現れたりする貴方の方がピエロよ?」
足まで伸びているローブのせいで踏み込みに気づかず、蘭華は接近を許してしまう。
数メートルという間合いで向けられたヒーローの散弾銃は蘭華の上半身を粉々に吹き飛ばすはずだった。
「させません!」
通信機越しのカクリの叫び声と共に、異空間への入り口が現れ散弾をいくつか吸い込んでいく。
数発受けた蘭華は大きく吹き飛びはしたものの、護利隊の強化アーマーのおかげで致命傷を避けることが出来た。
廃墟の中を進んでカクリの異次元移動も繰り返し春嶺から距離を取る。
小銃をリロードしながら壊れた窓越しに春嶺を監視した。
一向に動く気配を見せぬ中、カクリの悲痛な声が蘭華の耳に届いた。
「撤退しましょう。蘭華さん、殺されちゃいます!」
「バカ言わないで。飛彩を見捨てて逃げるなんて無理。援軍が来るまで二分の時間稼ぎなんて飛彩なら簡単にやってのけるわ」
とは強がったものの、春嶺の能力は凄まじい威力と敵を逃すことのない正確さ。
まさに他対一で発揮されるものだと察した指令本部も援軍ではなく蘭華への撤退を視野に入れる。
「でも……」
「でもじゃないわ。私たちの特訓の成果見せてやりましょう」
秘密裏に行っていたカクリと蘭華の訓練。
それは蘭華の視界と、頭の後ろについているカメラを起点に、カクリの能力を最小限に使いながら戦うという戦闘スタイルを作り上げることだった。
蘭華が攻撃し、カクリが防御と奇襲を担当する。
相手がただの人間ならばカクリの力でどこかに飛ばすところだが、今は飛彩の居場所を聞き出さねばならない。
特訓で培ったコンビネーションでヒーローに打ち勝たねばならないのだ。
「カクリも待つだけじゃ嫌だって思ったことあるでしょ? 私もそう……私たちは弱い、だから力でもなんでも掛け合わせて化け物たちの領域に踏み込むしかないでしょ?」
その蘭華の覚悟は自分だけが死地で戦い、失敗するかもしれない空間転移に身を任せるという行為が物語っている。弱かった二人の少女は力を得た少年の隣で戦うために研鑽を積んだのだ。
「相手がどれだけ強いヒーローだろうと関係ない。勝つわよ」
「……はい! 蘭華さん!」
しかし。現実はあまりにも非情だった。
「そこね」
自身の周りで跳弾させ続けていた波動を狙撃銃で狙いをつけて解き放つ。
放物線を描いて飛んだそれは、蘭華の隠れていた小さなビルは跡形もなく吹き飛ばした。
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