「終わりだッ!」
敵が最も油断する瞬間。
それは勝利した瞬間か勝利を確信した時である。
倒し方に拘ったリージェだが、まずは飛彩の動きを拒絶で止めてから行うべきだったのだ。
「支配ノ起源!」
飛彩の強みは四種類の世界展開。
それぞれが強大な力を持っているが故にどれか一つに気を取られるだけで、他の脅威を忘れてしまうものだ。
単純かつ強靭なヴィランの展開の支配、直線状に伸ばした左腕の展開ががリージェの飛ばしていた闇弾を支配下に置いたのだ。
「しまっ!?」
「お前自体は支配下に置けなくても、攻撃は別だぜ!」
展開無効に気を取られすぎていたが故の初動の遅れ。
放たれていた巨大な闇弾は糸状に伸ばされていた飛彩の展開と結合して意のままに操れるようになっている。
「吹き飛びやがれ!」
鉄球を振り回すように放物線を描いた闇弾がリージェの頭上へと落ちてきた。
モーニングスターを振り下ろしたような一撃はすでにリージェが解除出来るものではなくなっている。
「ぐっ、制御出来たくらいで!」
陥没する地面、攻撃を拒絶で抑え込むのが精一杯というリージェは、ここでやっと飛彩の意図に気付いた。
「そんなに追い詰められちゃあ、まともに考えられないよな?」
瞬間、闇弾も拒絶も何もかもが消えた。
それが再び展開無効が発動した合図だと気づいたリージェだが、すでに飛彩の右拳が顔面へと叩き込まれる寸前だった。
「くっ!?」
すんでのところで拳を弾くものの大きくリージェはよろける。
それに追撃するように飛彩は後ろ回し蹴りを腹部へと炸裂させた。
「オラァ!」
再び拒絶を封じられたリージェは吹き飛びながらも消え去ったわけではない展開力を身体の中で高めていく。
前と同じように部分的に拒絶を解除して右腕そのもの封じようと考えたのだ。
整った顔は戦いの中で汚れ、怒りと痛みに歪んでいる。
人間相手にここまで決死の戦いをしなければならないのかと憤りを感じながら。
「これが、俺の展開……ヴィランを消しとばす俺の全力だ!」
しかしそんな小細工を二度も飛彩が許すはずもなく。
大砲のような右腕の一撃が脇腹を砕いた。
そこから発生する展開無効の力はリージェの練り上げていたものをまた無へと還らせる。
「何ぃ!?」
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
回転しながら左肘をさらに打ち込み、右脚で肩を穿つ。
流麗な戦いの舞はそのままリージェの顔を掴み、共に流星へと変えた。
「がはぁ!?」
そのまま数百メートル一気に駆け抜けた飛彩は、未だに蘭華たちが中で戦っているであろう侵略区域の壁にリージェを叩きつける。
「ぐぅっ、いいのかい? 君の攻撃はここを壊せちゃうのに?」
「俺の左脚の展開で何とかするまでだ」
三つの区域の間は何もない誰もいない廃墟街。
それ以上に広がる前に決着をつけるという飛彩の覚悟にリージェの顔から血の気が引いた。
濃厚な死の気配という、今まで自分が振り撒いてきたはずのものによって。
「この展開力を遮る壁と展開力を無効にするこの右拳……これで殴られまくりゃ流石に死ぬだろ?」
「ふっ、ふざけるなぁ!」
そのまま抗いの手を壁へと打ち付けるように弾き飛ばす。
そこからは防ごうと動くよりも速く、反撃しようというよりも速く、意志よりも速く飛彩の乱打が余すところなく鎧へと打ち込まれていく。
壁と鎧がぶつかる音、鎧に亀裂が入る音、その乱打の旋律が戦場をより苛烈なものへと変えていく。
「がっ、はっ! ぐふっ!?」
「どうしたぁ! もう終わりかぁ!」
「ま、まさか君がここまで覚悟を決めるとは……!」
たしかに近隣住民を人質に取られた時に飛彩は揺れた。
その動揺につけ込まれて隙を晒したこともある。
「手出しはさせねぇ……ヒーローがいないなら俺が守るだけだ!」
何があっても世界を守り抜くというヒーロー同然の覚悟が飛彩から迷いを捨て去ったのだ。
ある意味、ヒーローに任せてきた役目を自分のもの同然と考えて戦うという覚悟の昇華をリージェは促してしまったのだ。
「これで、終わりだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
爆撃にでもあったかのように窪んだ壁と鎧。耐久力が落ち切ったその場所に渾身の右ストレートが火を吹いた。
「僕が、負け……る……?」
身体の中央に空いた風穴はそのまま区域を塞ぐ壁すらも撃ち抜いている。
虚空が黒い向こう側映す中、飛彩は勝利を確信することなく構えを解くことはない。
「ふざ、けるな……こんな結末、拒絶しないと……!」
「……終わりだ。潔く諦めろ」
その穴からドロリと黒い血のようなものが溢れた瞬間、リージェは苦悶というよりも驚愕の色に染まっていく。
その変貌に飛彩も警戒心が高まり、すぐさま同じように全身から汗を噴き出させるような気持ちにさせられた。
「なんだ、この威圧感は……!?」
「は、はは……!」
「リージェ、お前何しやがった!」
「今の僕に何か出来ると、でも? だが、おかげで何とかなりそうだ」
リージェに空いた風穴越しに伝わる展開力だけでも息ができないほどに濃厚だった。
それが致命の一撃塞いでいくことでリージェは九死に一生を得る。
「はぁ、失敗しちゃったよ……」
「なんだ? 何が起きてる……?」
そこで飛彩は黒斗へ通信出来なかったことを思い出した。
単に区域を隔てたせいで連絡がつかないだけだと思っていただけに恐怖が喉にへばりつく。
「……彼が、来たんだ。こっちに、ね」
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