「くっ、うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
消えゆく痛みを無視したリージェは辛うじて拒絶の力をその場に発生させることが出来た。
それも防御でも何でもない、ただ自身がその場にいることを拒絶するというその場しのぎの技で。
追撃も出来たはずの熱太はあえて何もせずその場で突き伸ばしていた腕を戻して冷静に周囲の温度を剣の中へと閉じ込めていく。
極度の高熱は離れていたエレナや翔香だけでなく、技を放った熱太にも影響を及ぼしてしまうのだ。
だが、しかし。
「……もう決着はついただろう」
「はぁ……が、はぁ……!」
拒絶で回避してもリージェは重傷を負っている。受け止めていた左腕の鎧は溶けて歪み、白い素肌が覗いている。
リージェとぶつかり合っていた展開域はレスキューワールドのものが優勢になり、両者の差を如実に熱太達へ伝えていた。
「何を、馬鹿なことを! 僕たちはどちらかの存在が消滅するまでが、戦いのはずだ!」
体力は大幅に失ったものの、リージェにとって悪いことばかりではない。
メイと同じく鎧を失ったことで展開力に込められていた誓約の効力がなくなったのだ。
リージェにとって煩わしさの原因となっていた始祖とユリラの呪いから解放されたことで痛みはありつつも思考は鮮明さを取り戻している。
故にリージェもまた、自身の野望のために拳を下げはしない。
「まだ僕はやれるさ……!」
「熱太くん、今ならトドメをさせるわ」
「そうです。早く終わらせて隠雅を助けに行かないと」
側へと戻ってきていた二人の耳打ちを受け入れながらも、熱太はブレイザーブレイバーを地面へと下ろした。
「熱太くん?」
「おい、リージェ」
「……まさか戦う価値もないとか言わないよね? 僕はまだまだ本気出してないよ」
強がりのようにも思えるが、リージェは誓約から解放されたことで戦いに割けるリソースが増えている。
展開力は著しく減少したとしてもまだまだ脅威と言えるだろう。
「僕を感情のない鎧呼ばわりしたことを後悔させてやる。僕は……僕は生きているんだ!」
「……」
常ならば熱く言葉を返す熱太だが、研ぎ澄まされた集中力を見せていることもあり冷静でどこか哀れむような気配まで漂わせていた。
そのような感情がリージェの心を逆立たせるのは当たり前かもしれない。
敵意ではない可哀想なものを見る視線にリージェはますます激昂した。
「僕が! ただの鎧だって言いたいのかぁ!」
「っ!」
甲高い金属音と踏み込みで地面が穿たれる鈍い音。
拒絶のオーラを剣状にしたリージェは翔香やエレナのことを顧みずに熱太との鍔迫り合いを繰り広げる。
弾くような波動に熱太もまた灼熱の展開力で対抗していた。
「肉体があれば命を得たのか? 他人の命を何とも思ってこなかったお前に、その重みがわかるはずがあるまい!」
「何を偉そうに!」
拮抗する剣撃は両者その場から一歩も動かずに避け難い場所への刺突や斬撃が舞いのように披露されていく。
落ち着き払った熱太は拒絶の斬撃を自身の戦いが構築しやすいように弾き飛ばしていった。
以心伝心により、エレナと翔香は手出しをしない。それがなかったとしても静かな気迫を纏う熱太には妙な近寄り難さがあった。
「独りよがりに他者を傷つけるだけの存在に価値などない!」
「説教はいい加減にしろ……今更話し合いでどうにかなるわけじゃないだろ?」
その言葉と共にリージェは大きく後退したが熱太はあえて追わなかった。さらに剣まで下ろして、昂る相手へと冷静に言葉を掛ける。
「そうやって他者を顧みずに己の欲望のままに生きることが、命の本質だとでも?」
「はぁ? これが有名なヒーローの説教ってやつか!」
「命ある者は助け合い、手を取り合って生きていく。その優しさが他者へと繋がって、共感し合うことで命は受け継がれていく」
「繋がりや愛こそが命だと? 何を馬鹿な! 虐げて屈服させて……永遠に僕を崇めさせ続ける! それでこそ僕の生きた証が残るんだ!」
話し合いは平行線となり、飛彩と拳を交えた相手ならば何かが変わっているかもしれないという一抹の希望も熱太のため息と共に消えた。
「ララクはよく理解していたぞ?」
「人間に媚びる出来損ないの妹と同じにするな」
見開かれた瞳は飛彩と戦った時以上に殺意の篭ったものになっている。
説得もこれまでか、と熱太も仲間を侮られた怒りを再び心の燃料へと変えて踏み込みを爆ぜさせた。
「ふっ!」
「はあぁ!」
互いの譲れない想いが剣へ宿り、ぶつかり合う。
「ぐぅぅぅ……!」
全ての拒絶波動を込めても熱太は一歩も下がることなく、むしろリージェの方が反動で吹き飛ばされそうになっていく。
(なんだよ、想いの力だって言うのか!? 僕が負けるのは、命を真の意味で知らないからだって言うのかよ!)
そこからは意地と意地のぶつかり合いだった。黒い斬撃と紅い斬撃が振り下ろした軌跡を描きながら周囲を圧倒していく。
「認めるか……認められるかあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
今度はリージェが攻勢となるが、熱太もまた迎え撃つために展開力を斬撃へと乗せていく。
「ヒーローの矜恃に賭けて! お前を討つ!」
しかし、激しさをます戦いは眼前の敵にのみ集中させてしまい大局を霞ませてしまっていた。
剣劇で散る火花と共に、巨龍の足音と熱波がすぐ側まで迫ってきていたことを誰も気づくことは出来ず。
「熱太くん!」
「鞭巻! 走駆!」
鎌が間へ割って入り、リージェと熱太を引き離す。
仲間と敵、その介入者の存在がなければレギオンの進撃の巻き添えになって両者とも消滅していただろう。
「春嶺ちゃんに刑くん! 無事だったのね!」
感激するエレナだが、二人は肩で息をしている状況である。
乱入した春嶺と刑は数体のレギオンに追われながらも合流のためにこの城下を駆け回っていたのだ。
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