【完結】変身時間のディフェンスフォース

〜ヒーローの変身途中が『隙だらけ』なので死ぬ気で護るしかないし、実は最強の俺が何故か裏方に!?〜
半袖高太郎
半袖高太郎

真祖

公開日時: 2021年3月27日(土) 00:12
更新日時: 2021年4月21日(水) 09:23
文字数:2,287

「黒斗くん、またララクちゃん逃げ出しちゃったっ」


 そう司令室でメイは茶目っ気を込められるだけこめて笑いかけた。


 連続脱走記録が一ヶ月を超え始めたあたりからメイの報告は杜撰になっていき黒斗は怒りを覚えることをやめた。


「またか……我々が存在を必死に隠匿してもどうにもならんぞ?」


「なんとか飛彩が連れ戻してくれたけど、皆疲れてきちゃってるみたいね」


「もはやほぼほぼ人間とはいえヴィランには変わらない。重要機密が散歩するように逃げ出すのではもはやどうにもならんな……」


 ヴィランの反応を示す計器に反応が出ないだけありがたいと黒斗はため息をついた。

 組織全体を振り回す姫に自由を与えたことで、ある程度のことは覚悟していたがこうも毎日何かが起こると心労に押し潰されそうになるのだ。


「私ねー、そろそろ怒ってもいいかなって思うんだ」


「それで治ると思うのか?」


「ララクちゃん、あっちでも高貴な身分だったと思うから怒られたこととかないんじゃないかなって思うの」


「なるほど。試しても構うまい。憤慨して暴れたとしても飛彩がいれば鎮圧出来るしな」


 子供じみた作戦ではあるが、もはや黒斗も試せることはなんでも試したいという気持ちなのだ。

 せめて一日でも安眠が増える日を増やしたいと。


 そう、護利隊はたった一人の少女に振り回されて疲弊しきっているのだ。


 戦いにおいて敵のヴィランの特徴を余すところなく話してくれることが大きなプラスではあるだろう。


 ただ、私生活にもめり込んでくることを考えると一部の面々にはマイナスが大きいだろう。


「……まあ、その暴れっぷりを何とか飛彩に収めさせているがヒーロー本部への漏洩は問題ないか? 俺からも根回しをしているがあそこも一枚岩ではない」


「そうね。私も懇意の派閥には色々お願いしてるけど、止められない派閥もある」


「……だな。スポンサーの犬の派閥はヴィランを利用したがるだろう。そこにさえ漏れなければ何とかなるはずだ」


「ええ……英人がまともになった今大人しくしてくれてると思うけど……」


 いくら監視の目を潰したところで抑えきれないものはある。故にララクを落ち着かせるのは急務と言えた。

 その時、大人たちは多少手荒なことをしてでも抑えなければならないと少年たちに代わり、覚悟を改めるのであった。


「この件を利用して腐敗した部分を切除出来るかもしれんしな……」


「え? 何か言った?」


「いや、何でもない」


「じゃ、私はララクちゃんの説教でも準備してくるわね、黒斗くん」


「ああ。引き続きよろしく頼む」


 踵を返して去るメイから黒斗はモニターに大量に送られてきている確認系のタスクに目を通しながら少しだけ思考の海を泳いだ。


「——あいつ、黒斗くんって言ってなかったか……?」


 やんわりと消え去っていく上下関係に辟易した黒斗はずり落ちたメガネを直して渋々業務へと戻る。

 そもそも自分の胃を痛めつけてくる部下ばかりだったことを思い出し、盲導にでもなってしまえという自棄な気持ちまで脳裏を過ぎるほどだった。





 ヴィランを受け入れたということはヒーローたちの中でも激震を走らせるわけだが、裏切り者が出たことは尚のことヴィランの中で話題になっていた。


 王の城下町に住まう戦いを忘れた貴族たちですら断罪しなければと躍起になり、今一度展開の扱いを練り直す程である。


 ララクとの円滑なパイプ役だったコクジョー達を皆殺しにされた今、誰も訪れることのない王の居城でリージェは配下も伴わず彷徨っていた。


「はぁ〜、こんな時ギャブランでもいたらからかって遊べたのになぁ」


 幼気残る顔立ちからは嘆息しか感じられず、不釣り合いに巨大な重装鎧も輝きを取り戻しているがリージェとしては埃がかぶっているような気持ちだった。


「恐れていた事態になっちゃったなぁ……」


 固いソファーのような物に深々と腰掛けるリージェは天井を見つめながら伝令役のヴィランの報告を反芻していた。


 ララクを元々厄介な存在だと思っていたが、まさかヴィランたちにとって一番面倒な形で離反されるとは思ってもいなかっただろう。


「ララクはこっちの世界の地理に明るい……奴らがこちらに攻めいれるようになれば、面倒なことになるだろうしなぁ」


 グダグダと寝転び続けるリージェはいっそのこと怠惰の悪にでもなってやろうかと乾いた笑いを漏らし続ける。


 侵略区域は次々と奪われ、一番大きかったララクの居城も消え去ってしまった。


「こっちの世界も手狭な感じがするし、いっそのこと打って出るのもいいんじゃないかと思うんだけど……」


 窓もないがらんと開いたバルコニー部分を見つめるリージェは、瞬きのうちに闇が辺りを包んだことに気づいた。


 何も見えないほどの暗黒はヴィランに心地よい物だが、自分の掌すら見えないほどの闇はヴィランですら息を飲む。


 それでも一切恐ることのないリージェはその先にいるであろう人物を見据えて微笑んだ。


 突然の闇の往訪に瞠目することもなく心地よく闇に身を任せたリージェは、質問の続きを闇に投げかける。


「全面戦争、とかも面白いんじゃないですか?」


「……」


  闇の中に何かいるのではなく、闇こそがその人物だと知っているリージェは臆することなく言葉を紡いだ。

  直後、リージェは顔を苦痛に歪めてその場にたちにことになる。


「か、はっ……そ、そんなに怒らなくてもさぁ、じょ、冗談ですって」


 常に強気なリージェも平伏するような態度を見せるしかないことに実力差が窺える。

 闇に包まれた城も主人の帰還に喜んでいるかのように闇の中で煌めきを増した。


 黒の中で、より黒いものが見える不思議な光景に無限の色合いが映りゆくように見えるのは錯覚なのかもしれない。

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