【完結】変身時間のディフェンスフォース

〜ヒーローの変身途中が『隙だらけ』なので死ぬ気で護るしかないし、実は最強の俺が何故か裏方に!?〜
半袖高太郎
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黒斗VSメイ 終局

公開日時: 2021年6月4日(金) 00:04
文字数:2,275

 珍しく口角を上げた黒斗だが、額からは汗が伝っており痛みなどの苦しみが混ざり合った動揺で、瞳が揺れている。

 

 しかし、現世側の分水嶺に己の命を黒斗が省みることもなく。

 身が内側から引き裂かれるような激痛に耐えながらも、それを力に変えて刀を握る手へと全ての力を注ぎ込んだ。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


 その血気迫る表情に気圧されたメイは戦いの中で呆けていた自分に気づく。

 まるで太刀を受け入れようとした状態だったが制約が全てを破壊しろと叫んでいるのだ。


「ガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」


 ぶつかり合うメイを救いたいと考える黒斗。

 そして黒斗を殺そうと操られるメイ。


 全ての性能においてメイに軍配があるにも関わらず、メイの白刃取りからジリジリと黒斗の太刀が脱していく。


 勝利のために命まで捧げようとしている黒斗の覚悟が、この攻防においてのみメイを上回ったのかもしれない。


刻刀きざみがたな……!」


 そのまま空中で前転して拘束を振り解くだけでなく、その回転が刀に更なる勢いを生んだ。

 さらに体に漲らせていた展開力を刀身にのみ移るように操作をしたことで、黒斗の鼻や目からは限界を超えた証である血が伝っていた。


 ただの人間が自らの持てる全てを投げ打ち、一太刀に全身全霊を込める。

 


斬界ざんかい!」



 鎧を裂いていく音は金属通しが擦れ合う甲高いもので、耳を覆いたくなるほどである。

 ただの人間が全てを投げ打って与えた一太刀はメイの正中線から一切ブレることなく鎧を断っていき、内部からは伸ばした展開力が鎧と身体を繋ぐ展開力をも断ち切っていく。


 技の繊細なイメージ、展開操作、膂力上昇、未来のことも何もかもを投げ打ってまで、メイを救うことにだけを注ぎ込んだ斬撃は。


「━━あ……!」


 遅れて斬り開かれていくいくメイの鎧。

 透き通る肌が鎧の裂け目から覗き、虚だった瞳に生気が戻ってくる。


「黒斗、くん━━?」


「戻ってこい! お前の居場所はこっちだろう!」


 その叫びと同時に切断面がズレ始めた。

 前面から背面までを一直線に切られた鎧は脱げ落ちるように消滅してメイの人間体を外へと放り出していく。


 この世界を飛び出した時と同じ白衣に身を包んでいるメイには傷一つ付いていない。

 鎧だけを消しとばす斬撃を世界展開の素人であるはずの黒斗がやってのけたのである。


 世界が知ることのない新たなヒーローの誕生だが、それは世界に対してではなく。

 メイという本来ならば敵という存在を救うためだけに誕生した戦士だったと言えよう。


「はっ……やっ、たか……」


 それを見届けた黒斗は力なく地面へと落ちていく。


 メイを鎧から解放することばかり考えて、そのあとのことを何も考えていなかったことを思い出した。


(ここ、までか……だが、あとはメイが……)


 刀を離し、背中から地面に吸い込まれていく黒斗の手をメイの柔らかい手が握りしめる。


「メ……イ……?」


「若者のくせに無茶しちゃって」


 鎧を剥がされても受肉したヴィランは死ぬことはないが、展開力が著しく減少する。

 それにより誓約の効果も薄れ、メイ自身の力でかき消すことが出来たのだ。


「……でもありがとう、おかげで助かったわ」


 その手は強く握りしめられ、わずかながら浮くことが出来ているメイに黒斗は強く抱き寄せられる。


「まだ、仕事は、終わっていない……裏切りも、全ては飛彩のため、だろう?」


「ええ……フェイウォンに飛彩をぶつけるには早すぎたから、ね」


「だったらいつも通り働いてくれ、俺は、もう、寝る……」


 柔らかなメイに抱きしめられた黒斗はそのまま意識を失った。

 残されたわずかな展開力で近くの屋上へと着地したメイは黒斗と自身への応急処置を済ませていく。


「誓約から解放まで出来るなんて……黒斗くんも限界を超えたみたいね」


 そのままヘッドセットを黒斗から奪い取り、展開力を使って物に宿る記憶を脳内に投影していく。


「……なるほど、全部私の作戦通り……いや、皆が私を信じてくれたから予想以上の結果になってるのね」


 ヴィランの進行タイミングがズレること、進行ルートを絞れること、その隙に飛彩達が異世へ進行していることも。

 しかし、それ以上に黒斗が自分を信じてくれていることに、メイの目頭は熱くなった。


 フェイウォンとメイが一騎討ちをしている間に時間のズレを作っていったことで生まれた猶予の間、黒斗を中心とする仲間たちがメイを信じ続けていたことは言うまでもない。


 迫真の演技を見せ、飛彩を殴りつけてまで悪を演じたが、その程度では長年築いてきた信頼は揺らがないのだろう。


「私が本当に裏切ってたらどうするつもりだったのよ」


 そう溢しながら俯くメイの瞳には涙が溜まっていた。特に黒斗にとっては世界平和以上にメイのことを考えていたことが記憶を覗き見たことで赤裸々になったらしい。


「……私を信じてくれたように私も皆を守ってみせる」


 始祖に継ぐ実力者であるメイが完全に復活を遂げ、仲間たちを守るために立ち上がる。人類側の反撃の狼煙が今立ち昇った。


「ああ〜! 悪い奴らを裏切って正解だった!」


 もはやヴィランとは何かと問いたくなる台詞だが、人間達と共に歩むと決めた時から自分はヴィランではなく自分の手を取ってくれる者達と同じなのだとメイは決意を改める。


 一人で背負うのではなく、人間達と共に戦う決意をして。


最終決戦の舞台となる異世での決戦を左右する戦いが、一つ終わりを告げるのであった。

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