【完結】変身時間のディフェンスフォース

〜ヒーローの変身途中が『隙だらけ』なので死ぬ気で護るしかないし、実は最強の俺が何故か裏方に!?〜
半袖高太郎
半袖高太郎

情報と経歴2

公開日時: 2020年9月4日(金) 07:04
文字数:3,407

「あー、今から言うことには全て意味がある……と思ってるから誤魔化そうとしてるわけじゃないって前置きしとくね。怒られたくないし」


「そんなに厳しい人間ではないが?」


「…………」


これにまでツッコミを入れたら話が本当に脱線してしまう。その予感を咳払いと共に何処かへと飛ばす。


「まずは蘭華ちゃんの話から。かなー」


「何故飛彩について……いや何も言うまい」


 前置きの言葉が耳に残っていた黒斗は瞳を閉じて腕を組み直す。

蘭華の情報が必要になる理由が全く分からないようで、気難しい顔がさらに強張った。


「飛彩はヴィランズの侵攻で天涯孤独となったけど……同じように孤児になった子供は沢山いる。蘭華ちゃんもその一人なの」


必要以上にヴィランズに近づいてしまい護利隊の正体に近づくようなことがあった場合、その子供は組織が育てるのが一般だった。

飛彩もかつて護利隊に救助された過去がある。


「歳の近い二人は自然とタッグにさせられたわねー。まあ、今でも仲良しだから全然いいと思うけど。蘭華ちゃんは飛彩と違ってなかなか現実を受け入れられなかった」


ただの子供を引き取って秘密裏に兵士として育てるという非人道的な行為に近いこともあり、見込みがない者、心が折れる者は放流されていた。


 命を救うからには世界に尽せ、と言わんばかりのスパルタ教育に着いていけない者の方が自然で、組織も着いてこれる数人のために保護を申し出ているようなものだった。


 そう、弓月蘭華ゆみつきらんかは足手まといの筆頭だった。

今でこそ狙撃術や偵察能力などの援護能力に秀でているが、その昔は飛彩の後ろに隠れるだけのおどおどした少女だったのだ。

黒斗は偶然にも混ざっていた蘭華の資料に一瞥をくれる。


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名前:弓月蘭華(ゆみつきらんか)


所属:護利隊 司令直属班


性別:女性


身長:157cm


体重:プライバシー保護の観点から、見えないようになっている


世界展開:個人領域パーソナルスペース


戦闘スタイル

個人領域パーソナルスペースの透明化を利用した遠隔狙撃。


攻撃能力は隊員の中では低い方だが後衛支援の能力に長けており、遠距離射撃にハッキング、潜入などなんでもこなす。


『特記事項』

特になし。


メモ

美貌から学校では人気者のようだが、仕事柄深く関わるようなことはしていないらしい。

飛彩と常に一緒にいるせいか趣味も少年がやるようなものに偏っており、カードゲーム同好会の姫状態になる時もしばしば。

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 小さかった頃を思い出せるくらいに関わりのあった黒斗だからか、メイの語った情報を知らないはずもなくますます不可解の海に浸かっていく。


この情報の何が飛彩の封印された力に繋がるというのか。


「でも……蘭華ちゃんは、同じ境遇の飛彩を放っておいて逃げ出す勇気もなかった」


「だからこそ、蘭華は今でも飛彩と共に戦っている……違うのか?」


「……とある訓練で事故が起きた時、蘭華が機材の下敷きになる大事故が起きた」


 聞いたことのない情報に黒斗の眉が動く。

もしかして、と言葉を続けるより早くメイはその時のことは隠匿したと話した。

心の中で憤りを感じつつも昔の話を咎めても話は進まないと諦める。


「その時よ」


 もったいぶって話していたメイの声音が真剣なものへと変わった。

全然関係のないと思っていた蘭華の昔話が飛彩の力と交差する。


「飛彩は助けられた時もヒーローを護りたかったと話していたように……誰かを守ることで力を発揮する」


「——すでに、力の片鱗を見せていたのか」


「ええ……」


 訓練スペースで武器コンテナなどの機材を用いた実戦的な訓練の中、ビークルの扱いに失敗した蘭華自身が下敷きになるという痛ましい事故。


当時、小学校高学年だった飛彩は何も出来ずに狼狽えるだけ……のはずだった。


「事故が起きたと思えば、自分もボロボロになりながら蘭華を助けて訓練場の壁を壊して私のところまでやってきた」


「そんなことが出来るのはヒーローだけのはず……! 飛彩は生まれ持って世界展開リアライズを持っていたという情報はその時に?」


「ええ。死に物狂いでやってきたせいかしら。飛彩はもっと傷だらけになってて……正直、心底恐怖した」


 自分の身を顧みない飛彩をこのまま目覚めさせてはいけない。

それがメイの使命になるのにそう時間はいらなかった。


「悪いけど左腕の能力についてはまだ詳しく分からない。当時も全体的な身体能力向上しか観測出来なかった。今回みたいな能力は初めて見たわ」


「そうか……」


 明らかに落胆した様子の黒斗。

常に飛彩に厳しい言葉を投げかけていた割には、何かあった時に飛彩の支えになろうという心情が端々から見て取れた。

結局は飛彩が復帰した後に少しでも助けになろうとしている黒斗の優しさに他ならない。


それを感じ取っていたメイは片目を閉じ、妖艶な笑みを浮かべながら問いを投げかけた。


「——これ、全部包み隠さず報告してたらどうなってた?」


「飛彩は間違いなくヒーロー本部の方に引き渡され、実験材料か……運が良ければヒーローになっていたろうな」


「まあ、十中八九モルモットになってたはずだから私はとにかく飛彩のことを隠したんだ」


「世界と飛彩を天秤にかけて、飛彩をとったと」


「だめ?」


わかりきった質問を投げかけたメイに、黒斗は即答した。


「きっと、俺もそうした。ありがとう、メイ」


 今度は茶化すことなくメイはにこやかにどういたしまして、と微笑む。

封印されていた力が観測された時期は判明した。

しかし、それはつい最近まで押しとどめられていたことも証明している。それの答え合わせをするようにメイはインジェクターについて語り出した。


「インジェクターは濃縮された展開エネルギーで一時的に世界展開リアライズに対抗することが出来る。それは知ってるわよね?」


「ああ。それが飛彩の力を抑えていた……そのようなこともお前は語っていたな」


「つまりあれは飛彩の力が表に出てこないようにするために別の力を無理やり入れてたってことなの」


カタストロフ級のヴィランをも倒すことが出来る飛彩もまたカタストロフ級の災厄になりうることもある。

その重責を十年近くメイは一人で抱えてきたのだ。


「まー、インジェクターじゃ飛彩の力は抑えられなかったけど、飛彩が消滅することなく力を引き出せた……やっぱ私って天才かな?」


飛彩の過去を紐解いて世界展開リアライズの謎を解こうと思った黒斗だが、詳しい情報を得られただけで飛彩の力について解決する術はなさそうだと嘆息する。


「欲しい情報だった?」


「興味深かったが……どうにもならんな。覚醒した飛彩と上手く付き合っていくしかない。とりあえずヒーローへの転属手続きでも進めておこう。あの戦力を遊ばせるわけにはいかない」


「そーねぇ」


「だが一つ注意しておく」


「えー、なんでよぉ。全部話したのにっ!」


 靴音を響かせて黒斗はメイへと顔を近づける。

恋人同士でしか踏み込めない距離にズカズカと入り込む黒斗に、メイは驚きつつ顔が赤く染まる。


「何かあったら俺を頼れ。上官命令だ」


「——は?」


 そんな優しい言葉をかけられるとは思ってもいなかったメイは、椅子からずり落ちそうになる。

シワが深く刻まれた白衣をさらにくしゃくしゃにさせた。


「一人で背負うな、いいな?」


「う、うん……」


いつもは年下を茶化す余裕ある大人の女性を気取るメイだが、その余裕は簡単に砕かれ唇をパクパクと動かすことしか出来ない。


「また何かわかったことがあれば報告しろ。お前の覚悟、俺も一緒に背負ってやる」


「か、カッコつけたこと言わないでって……」


 どんどん声が小さくなるメイ。年端もいかぬ少女のように頬を染め、黒斗が去っていく背中を見つめる。

その背中は、司令官という立場以外の理由で大きく映った。


「——はー、研究ばっかしてるとこういう時に弱いわね」


 後輩たちの前では、恋愛経験豊富に振舞っているメイだが簡単にメッキは剥がされた。今度は飛彩や蘭華を連れてデートしてもいいかもしれない、そう思いながら椅子を回転させて机に向き直る。


「ふふっ……」


 メイは嬉しかったのだ。飛彩を想う気持ちが黒斗と一緒だったこと。戦いが孤独じゃなかったことも含め。

黒斗の言う通り、もっと頼ってもよかったのなぁと独り言ちる。


「よし、もうひと頑張りしますか!」


 この秘密の話し合いの数日後、飛彩は目を覚まして護利隊に残る宣言をするという二人の予想を大きく超える発言をすることになる。

しかし、二人の大人は少年の決意を見守ろうとすぐに考えを改めるのであった。


小説でいう第1巻の部分が終わりました!


これからも書き続けますので、面白いと思っていただけましたら

是非ともブックマーク&評価お願いします!


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『次章予告』


自分の世界展開を手に入れた飛彩は、大規模侵攻の後も護利隊として戦い続けていた。

だが、あの戦いで一部のヒーローに護利隊の存在を明かすことになってしまったことが、波紋を呼ぶ……


次回!

『『『Scar』』』


「守ってやるぜ! ヒーローの変身途中!」

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