【完結】変身時間のディフェンスフォース

〜ヒーローの変身途中が『隙だらけ』なので死ぬ気で護るしかないし、実は最強の俺が何故か裏方に!?〜
半袖高太郎
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飛彩の叱咤

公開日時: 2021年4月30日(金) 00:06
文字数:2,330

「ん?」


「どうしたの飛彩?」


「いや、何か……ヴィランの気配がした気がしてな」


「検知機は反応してないですよ? 気のせいじゃありませんか?」


「ああ、そう、だよな……」


 戦いが夜通し続いていた飛彩達は黒斗によって体を休めておけという気遣いをありがたく受け取っていた。

 ホリィ達も信頼できる人物を紹介し、今はヒーロー本部のとある休憩所で何を話すわけでもなくソファや簡易ベッドに身を沈めている。


 事実夜通しで戦っていたこともあり、大半が眠って体力の回復を促す一方で飛彩はなかなか寝付けずにいた。それに追随するかのように蘭華やホリィが同じテーブルで休んでいる。


「……」


 カクリを病院に送って以降、会話はあまり弾まず気まずい空気が流れていた。


 検査で判明したことは、カクリの話していた通りの世界展開リアライズの喪失。

 先天性と思われていた能力もメイによって、身体能力を代償に埋め込まれたものだったと判明している。


 能力を開示せずに戦いへ介入するために、様々なヒーローを産み出してどこにでもいる普通の少女を異質なものへと変えていたという事実が一同に突き刺さっていたのだ。


(メイさんはこの世界を守るために……でも、やり方はやっぱりどこか人間とはズレてる、な)


 ララクと拳を交えた時にも感じていた価値観の相違。

 今更それに不快感を抱くわけではないがメイがこちらで暮らしていた真意がつかめない以上、そこはかとない恐怖もある。


(一体、メイさんはこっちで何がしたかったんだ? ……それに、この力は本当に俺の?)


「飛彩」


 顔を近づけてくる蘭華の濡羽色の髪が靡く。

 いつの間にか身体も洗っていたようで、柔らかい匂いが飛彩の鼻をくすぐる。


「な、なんだよ……?」


 照れる飛彩と裏腹に、蘭華の表情は真剣そのものだった。


「しっかりしなさい。迷いが顔に出てるわよ」


「あ、すまん……」


 そう注意する蘭華を何度飛彩は母親や小うるさい姉のように思ったことか。

 長い付き合いを思い出した飛彩は笑みを堪えきれなかった。


「ふっ」


「もう、士気に関わるから厳しく言ってあげてるのに!」


「まぁまぁ蘭華ちゃん。多分黒斗さんも飛彩くんを大々的に発表することはないと思いますけど……」


「悪いな。なんか決まってこういう時に蘭華から注意されてたなぁ〜って思ってよ」


「な〜に言ってんのよ。毎回毎回、飛彩がだらしないのがいけないんでしょ」


 頬杖をついた蘭華は片目を閉じて小さく息をつく。

 最終決戦に近いという感覚の中、蘭華の出来ることと言えばいつもと変わらぬ環境を飛彩に与えることしかなかった。


 それが歯痒くもありながら、恐怖や気負いすぎないように精神を支えるのはサポーターとしての責務と感じているのかもしれない。


「あと体調のことを考えると六時間は寝てほしいわね」


「こんな時に俺だけ寝れるかってんだ」


 その呟きに周りの空気は淀む。

 眠っていたはずの熱太や刑も瞳を開いて天井や足元を眺めていた。


 ホリィもまた飛彩しか戦えない現状を思い出し、飛彩はすぐに出動できるように眠るわけにはいかないということも理解出来ている。


 それがヒーロー達には耐えがたく心苦しいものになっていた。


「でも、相手はヴィランの始祖よ? ベストコンディションにしないと……」


「ヒーローの力をなくして苦しんでるお前らそっちのけで俺だけ寝れねーよ」


 全員が触れないようにしていた話題にあえて、力が残っている飛彩が切り込んだ。


「飛彩くん……」


「この際だからハッキリ言っておくぜ」


 椅子を引いて立ち上がった飛彩はゆっくりと部屋の中央に向かっていく。

 ズカズカと大股で進むと同時に短い癖のある髪が揺れていた。


 鋭い瞳でありながらも威圧的な様子は見せておらず、むしろ付き合いの長い蘭華たちには慈愛の気持ちすら感じ取れていた。


「お前らがいなきゃ勝てねぇ。俺はヒーローの変身途中を守るのが仕事だ。世界を救うのはお前たちじゃないといけないんだよ」


 世界を窮地から救ったのはヒーローである、それを印象付けられなければ世界は救われたのだという感覚は薄いだろう。

 トドメの一撃だけでも一般人に見せつける意味はある。


「待て飛彩……気を遣っているのならやめろ」


「ああ、熱太くんの言う通りだ。惨めな気持ちにさせないでくれ」


 起き上がった熱太は髪をかきあげながら飛彩に向き直る。

 刑は腕を組んで座ったままだが、落ちていた視線は飛彩へ突き刺すようなものになっていた。


「こればっかりはもう、どうしようもないわね……」


「結局、最後の最後まで隠雅に守られてばっかりだったよ」


 続くエレナと翔香だが、気落ちした空気を受けて弱音を続けてしまう。

 全員世界を救わなければ、という目的を直に感じていた時は強気のままでられたようだ。


 弱気になるのは今のように脅威から離れれば戦えなくなった現状を嫌でも直視させられてしまうからだろう。


「もはや俺たちには……」


「やめろ熱太、それ以上言うな」


「だが!」


「俺はお前らが変身できるって信じてる!」


 眼前に詰め寄っていた熱太以外にもその飛彩の叱咤が浴びせられた。

 消えてしまった能力を他者の方が復活をすると信じていることが恥ずべきだと熱太たちは拳を握り締める。


「それにホリィ、お前……昨日勝手に出撃組に入ってたよな?」


「そ、それは……飛彩くんばっかり危ない目にあって欲しくなくて」


「結果的にお前がいて助かったのは間違いない。だけどなんで俺たちと一緒に戦わなかった?」


「ホリィちゃんなりの優しさでしょ? 今は喧嘩してる場合じゃ」


 言葉に悪意がなくとも険悪な雰囲気になりそうな予感を察知した蘭華が止めに入るも飛彩は止まらない。

 まるで演説のように部屋の中にいるヒーローへ視線を動かしながら話し続けた。



「遠慮もクソもねぇ。言っただろ? ヒーローなら、俺が傷つくことを恐るな」

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