【完結】変身時間のディフェンスフォース

〜ヒーローの変身途中が『隙だらけ』なので死ぬ気で護るしかないし、実は最強の俺が何故か裏方に!?〜
半袖高太郎
半袖高太郎

異世へ乗り込め!

公開日時: 2021年5月12日(水) 00:16
文字数:2,324

 大きな鉄の塊が水面に落ちたような音が辺りに響いた事で、異世突入の合図が周囲に響き渡る。

 亀裂は異物を受け入れたことで入り口は一瞬で崩壊し、メイが追撃できたとしても容易ではないだろう。


「司令、侵攻部隊のシグナルが異世に向かっています。作戦の第二段階成功です」


「そうか……あとは飛彩が戻ってくるまでこちらの戦線を保たせるぞ」


 作戦通りに事が進むものの、戦いに参加している全員が死力を尽くしてこそというものだ。


(多少手荒だったが、展開力を失えば正気に戻る可能性が高い。メイが味方に戻れば勝ち筋は増え……)


 そこで黒斗は背向けて歩いたことを後悔する。

 攻撃の方向を見ることなく真横に飛んだことで闇弾は掠める程度だったが直撃した武装を積んだ二輪車は黒い炎を撒き散らして灰へと変わっていく。


「馬鹿なっ!」


「ア、アァァァァッァ……!」


 制約により無理やり操られているメイはひび割れた痛々しい姿のまま、ダメージを負った他の部位を無理やり引き連れて右腕から闇弾を発射していたのだ。


「メイ……!」


「二、ゲテ……!」


「!」


 展開力を引き剥がしていくことで傀儡化を無効化出来る、その見立ては当たっていたと感じる反面。

 黒斗の脳内にはメイと共に過ごしてきた思い出が流れ込んでいく。


 それは動きをほんの数秒止めるには充分過ぎて。


「ハァァ!」


「がぐふっ!?」


 拳がめり込むのと同時に後方へ跳んだことでダメージを軽減した黒斗だが、強化アーマーの防御力は一撃で無に還る。


 転がりながらメイを睨む黒斗は無用心に突き出されたままの拳を見つめた。メイの声が聞こえたことで油断したと口の端を乱雑にぬぐい、刀を鞘がわりに立ち上がる。


「やはり鎧を砕いて手足に封印杭を打ち込むくらいしなければ、お前は止まらないか……」


 飛彩にメイと戦う覚悟はないと考えてただけに、自分にもその言葉が帰ってきたことで歯が音を立てるほどに強く食い縛られた。


「お前を止めればこちらの世界でのアドバンテージが取れる……私情は捨てるぞ、メイ」


「アアア、アアァァァ……!」


 頭部の鎧がメイを隠してくれている事が救いだなと黒斗は吐き捨てた。もはや敵を捕虜にするくらいの覚悟が必要だと呼吸を整える。


「これから一撃も受けずにお前を制圧するのか……」


 刀を腰へと戻した黒斗はそのまま抜刀し、鋒をメイへと向ける。

 覚悟をし直すということは己にまだ甘さがあるからだと厳しく己を律して。


「骨が折れるな」


 だらりと拳を伸ばすだけだったメイも拳を引いてボクシングのような構えをとっている。

 対して黒斗も真正面に刀を構えて。


 どちらが先に動くか、張り詰めた緊張感がけたたましい戦場に静寂を作り上げていた。





「カクリの次元移動に似てる空間ね」


「こんなところで道外れたら間違いなく死ぬな」


 左腕を中心とした展開域に集中する飛彩は、顔に汗を滴らせている。

 何もない浮遊空間に道を作りながら装甲車にも展開を付与するという緻密な操作。


 大技で展開力を解き放ってきた飛彩にとっては上位ランクのヴィランと戦うことと同じくらい厳しいものかもしれない。


「みんなも問題ない?」


「ええ、後ろは平気です!」


「ほら飛彩、ホリィちゃん達も頑張ってるんだからあと少しよ!」


「いや、あいつらシートベルトして待ってるだけだろーが!」


 まだまだツッコミを入れる余裕はあるようだと危なっかしい確認をする蘭華だったが、その注意はすぐに暗い穴の登場により切り替わる。


「出口が見えてきたわ」


 紫と黒、灰色などがグラデーションを描く淀んだ異次元空間はくすんだ光が不規則に輝く事が余計に不気味さを醸し出していた。

 そこを装甲車のライトだけで切り開いていくのだから、心許なさは多くあるだろう。


「何者だ貴様ラァ!」


 進行方向に現れる人影。シュヴァリエ級のヴィランが光に照らされて黒光を反射させる。


「くっ、こんな時に……!」


「蘭華、気にせず突っ込め。あのくらいのヴィランが俺の展開力を押し返す事なんて出来やしない」


「脱線しないように道の方の展開にも気を配ってよね!」


 と、口では反抗しつつも蘭華はアクセルを思い切り踏んだ。

 比べるものがない空間ゆえにスピードの上昇はわかりにくいもののヴィランとの距離がどんどん詰まっていく。


「ビーストパレード!」


 名もなきヴィランの叫びと共に練り上げられた展開域から何十匹ものガルムやバウンドバイソン、バイトバットなどのレックス級原生生物が現れた。


「んなっ!?」


「ビーストテイマーのヴィランか……全員踏み潰してやる!」


 球体に覆うだけだった展開力を楕円形へと変え、より突撃時のダメージが大きいフォルムでスピードを上げていく。


「みんな! 揺れに備えて!」


 ホリィ達が驚き声を上げる間に、テイマーの放った獣達は弾き飛ばされて狭間の奈落へと消えていく。


「なっ、俺のビーストが……!」


「タイマンはれるようになってから出直しな!」


 触れた瞬間に弾き飛ばされていく獣達の次にテイマーのヴィランもまた呆気なく世界の狭間へと落ちていった。


「うっ、うあぁぁぁぁあぁ!?」


 悲鳴だけが飛彩達の耳に運ばれる。

 狭間に落ちていったものがどういう末路を辿ったのかは見えていないものの、鎧や野生動物の肉が千切れ無理やりに折り畳まれるような不快な音と重力の奔流が危険さを雄弁に物語った。


「絶対落ちるわけにはいかないわ。装甲車ごとぺちゃんこよ」


「頼むぜ……今のでそんなに長く保たねぇ」


 異世界へと繋がるトンネルは相場では光さす方へと決まっているだろう。

 先に見えるは暗い穴で、あまりの黒さに際立って見えるほどだ。


 ヴィランが通ってきた道というだけあって出口はあるはずだが、向こう側がどうなっているかはわからない。



一か八かの賭けの結果が明かされるのを待っているようだった。

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