「この一撃に俺の全てを乗せる!」
対する飛彩も再び左拳に全ての展開力を注ぎ込み、白く光る拳を差し向けた。
思えば、左腕の装甲から始まった飛彩の世界展開。
数々の強敵を撃破し、築き上げた仲間との絆が集大成となって悪の始祖へと放たれた。
最後に込めた『なかったことにする力』が飛彩の覚悟と共に眩い光をあげる。
「死ねぇ!」
「オラァ!」
互いの顔面に向けられた雌雄を決する拳。
(殺すっ! 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!!!!)
純粋な殺意は研ぎ澄まされ、フェイウォンはただただ宿敵の命を狙う。
(絶対に、みんなのところに帰るんだ!)
対する飛彩は、仲間や守る世界のことばかりが頭に過ぎっている。
いわば無我の境地と雑念まみれの拳。
一撃が交差しようとする中で二人の展開域が狭まっていく。
その凝縮された力の領域は、互いの思考も察することが出来てしまうほどで。
(この男は……)
クロスカウンターとなる互いの拳だが、その途中にフェイウォンの勢いが緩まる。
「!」
罠かとも思えるほどの拳の揺らぎだが、感じる動揺は紛れもなく本物で飛彩にも伝播するほどだった。
(蘭華、ホリィ、黒斗、メイさん、カクリ、熱太、翔香、エレナさん、春嶺、ララク、刑!)
そのおかげで顔を逸らして飛彩は滅炎の拳を回避出来た。
「な、何ぃ!」
(俺に力を貸してくれ!)
仲間との日々を想うほど、飛彩の拳は加速して空気を貫いていく。
絶殺の威力を誇る一撃を繰り出しているにも関わらず、飛彩の心は敵よりも仲間を思い浮かべている。
刹那、フェイウォンは戦いの中とは思えない寂しげな表情へと崩して。
迷い無視した飛彩は音速を超え、わずかだがソニックブームが巻き起こした。
直進する白光纏う拳は、フェイウォンを完全に捉える。
「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!」
顔のすぐ側を抜けていく炎拳に炙られながら、あらんかぎりの力を込めて腕を伸ばす。
「ブガハッ!?」
とうとう飛彩の拳がフェイウォンへとめり込んだ。
先ほどの一撃とは比べ物にならない威力で叩き込まれた拳は、白い光をフェイウォンの中に流し込んでいく。
「これで、終わりだぁぁぁぁぁ!」
そのまま飛彩は全身全霊、持てる全ての力を使って殴り抜けた。
仲間が後押ししてくれるような感覚の中、顔を突き破るのではないかというほどに拳を突き立てて。
(ここまで俺一人の力じゃ絶対に勝てなかった……ありがとう、本当にありがとう、皆)
「これが、敗、北……?」
吹き飛ばされたフェイウォンは力なく、浮島の上を転がっていく。
黒紫の炎が轍のように残るも、それらはすぐに消え去っていった。
「はぁ……はぁ……」
仰向けになるフェイウォンは言葉も発することなく、指先すら動かさない。
長きに渡るヴィランとの戦いにいよいよ終止符が打たれようとしていた。
「やった……やったぞ! 俺の勝ちだ!」
高らかに鬨の声をあげる飛彩をホリィたちも固唾を飲んで見守っている。
人類の決定的な勝利に、熱太たちも声を上げたかったがワープホールの維持のために笑顔を浮かべるしか出来ない。
「飛彩が勝った……勝ったんだわ!」
「どこまで強くなるんだかな、あの聞かん坊は……」
声を上げられる蘭華や黒斗が歓喜の声をあげることで、飛彩にも音が伝わっていく。
「蘭華、黒斗……」
残されたわずかな力でも狭間の世界を泳いで、ゲートを潜るくらいは出来るだろう。
フェイウォンに背を向けて一歩踏み出そうとする前に、飛彩は少しだけ立ち止まった。
「最後、何で余計なこと考えてたんだ?」
「……それはお前の方がだろう」
滅びゆくフェイウォンは、砂になっていくかのように四肢から崩壊を始めている。
「死の局面でお前には想う相手がいるのだものな」
始祖を無視して去ることもできたが、勝利の理由を問い質さずにはいられなかったのだろう。
「仲間のためだ何だと、敵を見もしない……結局、悪は敵にも見てもらえないということか」
振り返った飛彩は、もはや崩壊に身を預けるしかないフェイウォンを見つめ続けた。
「想う仲間もいなければ敵にも見向きもされない。その事実に私は揺らいだ」
孤高の強さを持つが故の孤独。
そして概念として生まれ落ち、命を成したもののフェイウォンが選んだのはより純粋な悪の集団を作ることで。
悪を利用するのではなく、受け入れて繋がり合う。
それだけが異世まで創り上げたフェイウォンの願いだったのかもしれない。
「お前の言う通りだ。誰も真の意味で悪に染まることはない。自らの弱さを隠すために悪を理由にする」
「それはお前も、ってところか?」
「ああ……誰もが私を利用するのに、忌避する……嫉妬こそ私の正体なのかもしれない」
散る間際に、否定してきた己の心にフェイウォンは向き合い続ける。
「しかし、人にまた悪意が生まれたように……利用され続けるとしても、悪は消えぬぞ?」
「魔王みたいなこと言いやがって。悪に染まらない人の強さを、お前も知ってるはずだ」
「誰も彼もお前たちのように強くはない。全ての生き物は簡単に悪を利用するはず……」
ヴィランがいなかった頃も人は戦争や犯罪を繰り返してきた。
「悪いことするのも含めて、人間ってもんだろ。俺は悪人全員の性根を叩き直したいわけじゃねぇ」
「自分の世界に収まるもののみ守る……それだけでも充分ヴィランだろうに」
「ああ。俺はヴィランだ。それは否定しねぇ。だから俺は俺の手の届く範囲だけでも守れればいいさ。世界を守るのはヒーローの仕事だしよ」
悪だ善だという二元論ではなく、清濁合わせのむ強さが足りなかったのかとフェイウォンは己を嘲る。
ただ、真に悪に染まって欲しいのは自分のわがままでしかなかった、と。
「私の方が、綺麗事を言っていた……というわけか」
そして、悪の始祖がいなくなったとしても人に、生きとし生けるものに悪意が残り続けるのも、きっと変わらないだろう。
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