「あははははは! やめてよ、冗談だろ? 人間と契りを交わす?」
「だから、こんなところで死ぬわけにはいかないの!」
「あー、だめだ! 面白すぎて展開のコントロールが定まらない!」
とは言いつつ、ヒーロー達を縛ったままララクの右ストレートを最も簡単に受け止める。
その間も腹を抱えて爆笑し続けるリージェは戦場にいることを忘れるほどの笑い声を上げてきた。
生殺与奪の権利をたった二人のヴィランに握られたヒーローや護利隊の面々はもはや傍観者へと成り下がっていた。
たった一人を除いて。
「はあっ!」
ヒーローの周囲に燻っていた展開力は全て連結している。
しかしもはや戦う意志は失せていた。故にララクや周りから奪い取った大量の展開力が行き場を失って彷徨っていたのだ。
そこからは簡単だ、戦う意思を捨てていないただ一人のヒーローの栓を抜いたように展開力が吸い込まれていく。
過剰に投与される展開力はその人物の意思に関係なくその姿をヒーローへと変貌させていく。
「キラキラ未来は私が決める! 聖なる未来へ! ホーリーフォーチュン!」
倒れゆく仲間や囚われた仲間を見ながら、ホリィはヒーローとしての使命を全うするために拒絶の恐怖を打ち払った。
「ホリィ!」
孤立無援と思っていたララクは心強い味方に満面の笑みを浮かべた。
リージェとララクの間に割って入ったホリィの行動にヒーロー達の注目が集まる。
親しい間柄であることをヒーロー本部が知る由もなく、ヴィランとの内通者なのかと動揺が波及していく。
事実ホリィもここでの振る舞いで全てが変わってしまうと感じていた。
ララクと共に戦おうものならヒーローとしての何たるかを問われ、資格が剥奪されるかもしれない。
「久しぶりだねぇ。未来を決めるヒーローさん? うちの妹とどのようなご関係で?」
「ララクちゃんは……」
失う物は山ほどあるかもしれない。
しかしホリィは何を失おうとも飛彩に顔向け出来ないような選択だけは選べないと、ララクを守るようにリージェへと拳を構える。
「大事な友達です! 絶対に傷つけさせません!」
「おお、言い切ったねぇ」
驚愕するヒーロー陣営をよそに、リージェは年相応の少年らしく笑みを浮かべる。
さらに金属がぶつかり合うガチャガチャした拍手でホリィを白々しく讃えた。
「これが人間とヴィランの共存ってね。いやぁ〜、予想外な未来ってものがあるもんだ」
「では貴方も手を取りますか? 意外と飛彩くんと気が合うかもしれませんよ?」
どんなに戦いを繰り広げてもホリィの根底にある優しさは変わらない。
戦わなくて全てが解決するならそれに越したことはない、と言うようにそれを地で示す。
「いいね、未来を決めるのは君たちだ……でもね、僕だけがそれを拒絶できる!」
「ホリィちゃん!」
周囲に溜まっている異世の展開力でシールドを作ったララクが、リージェの拒絶波動をかろうじて防ぎ切る。
やはり周りにはヴィランがヒーローを守る光景がおかしなものとして映っているようで、少しずつ護利隊やディフェンスフォースの陣形が乱れていく。
その後退は、突入してきた出入り口へと向かっているようで。
「僕が出ただけでほとんどの戦う意志っていうのは拒絶出来た。君たちだけで戦うなんて出来るのかい?」
「飛彩くんならたった一人になっても戦うことはやめない!」
「ええ。好きな男に憧れて生き方が変わるのはヴィランも人も同じよ」
いくらでも拒絶出来る隙はあったにも関わらずリージェは動かない。
ララクの掌底が身体を浮かせそこに向けてホリィローリングソバットが振り抜かれる。
「折れないか! これが愛の力だって言うのならその愛を拒絶したくなるのが僕だよねぇ!」
追撃する白と黒の軌跡をいなす、さらなる漆黒の存在。
「とりあえず飛彩が来るまでに虐殺はしないと、奴の心を拒絶出来なさそうだ。君たちは生贄になってもらうよ!」
「出来るかしら?」
息の合っているララクとホリィ。
リージェはもはや拒絶の力を使わなくとも相手を拒絶することが出来る。
能力を使わずとも相手へと示すことの出来る純粋な力のみで。
現に縛ったのは身動きだけのはずなのに、勝てるはずがないと周囲のヒーローや護利隊の面々は腰を抜かしたかった。
それすらも身動きを拒絶されて不可能なものとなってしまったが。
「ナメてかかってくるならその間に貴方を倒すだけです!」
眩い光を掌に発生させたホリィは拒絶されようとされなかったとしても戦いを自分たちのペースに運ぼうとあらんかぎりの展開力を溜める。
「展開を伴う攻撃を拒絶するにはそれ以上の力がなければならない! そうでしょう!」
「んー、まあ、そうだけど。そんなことしなくてもその攻撃は無効化出来るよ」
硬い鎧に包まれた指を擦り合うと甲高い音が区域内に響いた。
一時侵攻をやめていたヴィラン達が再び侵攻を開始して震える護利隊に牙をむける。
「それ、僕に撃っていいのかな?」
「くっ! ジャッジライト! ホーリーシャワー!」
まさに能力の行使なしでリージェへの攻撃は無効化されてしまった。
意志を持ったような波動は戦場を駆け巡る龍のように護利隊と軍勢の間を抉っていく。
「ララクちゃん! ここ任せられる?」
「もちろん、リージェと手合わせして負けたことないんだから!」
視線を交わしたホリィは力強く頷いてくれたララクにリージェを任せて雑兵集団の中へ飛び込む。
それを見送りながらリージェに拳の流星群を与えるララクは拒絶の力を自身へと縫い付けようと必死の形相だ。
「これが、あの強かったララクかい」
押しているように見える戦いでもリージェは拒絶の力を使っていない。
拮抗した戦いなどではなく、飛彩が来るまでの暇潰しでしかない様子にララクは焦りが募る。
「私は変わった……リージェみたいな分からずやには負けたくない!」
「——君は変わったんじゃない。退化したんだ」
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