【完結】変身時間のディフェンスフォース

〜ヒーローの変身途中が『隙だらけ』なので死ぬ気で護るしかないし、実は最強の俺が何故か裏方に!?〜
半袖高太郎
半袖高太郎

枷を取り払う者達

公開日時: 2021年5月16日(日) 00:12
文字数:2,573

 メイの願う飛彩や関係者達だけが助かる未来を捨てた彼らは、全てが助かる未来のために一歩踏み出したのだ。


 であれば、その信頼に答えて展開を発動出来なければもはや計画の時点で失敗していたことになる。

 その焦りと心配が余計に熱太たちやホリィ達を混乱させていった。


「隠雅飛彩は私たちの変身を守る存在」


 しかし、そこに一石を投じたのは急に住居と住居の間の狭い路地で立ち止まった春嶺だった。


「でも……私たちは彼の足手まといになるためにここにきたわけじゃない」


 そう言い残した春嶺は素早く住居の壁を蹴り上げて屋根に登っていく。

 刑とホリィが止めようとした頃には黒い世界には目立つ桃色の髪が花のように咲いている。


「世界を救いに来た! 私の大切な人が笑顔でいられる世界のために!」


 その叫びと共に放たれた銃弾が飛彩を追っていた数人のヴィランを牽制し、そのまま春嶺は引きつけるように走っていく。


「ちょ、ちょっと春嶺! 何やってるのよ!」


 装甲車の中から援護射撃をしていた蘭華はフロントに身を乗り出すようにして叫ぶ。

 多少の計画変更は仕方ないと思っていた蘭華だが、春嶺のしたことは作戦無視に等しい。


「想像以上に隠雅飛彩の負担が大きい。少しくらいなら私も引き付けられる」


「でも……」


「変身できる出来ないは関係ない。蘭華だって、展開力なしで私に挑んできたでしょう?」


「それとこれとは状況が違うって!」


「同じだよ」


 再び路地の中に身を投げる春嶺は跳弾を使って身を隠した状態で空を駆けてくるヴィランを迎撃していく。

 一人また一人とヴィランが春嶺の方にも向かっていくプレッシャーの中、春嶺の銃口はブレない。


「大事な人達のためなら、どんな危険だって冒せるもの」


 その言葉を向けられた蘭華はもはや黙るしかなかった。

 春嶺の欲していた真の絆を与えた仲間達を守りたい、その気持ちを無碍にすることは出来ない。


 そして逆の立場であれば止められても、止まらないと理解して。


「もっと援護するしかないわね!」


 黒曜石のようなもので出来た住居をこじ開けた悪路を飛び出し、血管のように張り巡らされている道を蘭華は突き進んでいく。


 姿を気取られないようにライトを消しつつも、一瞬で脳内にたたき込んだ地形を元に凄まじい勢いで装甲車を走らせていく蘭華。


 ルーフの部位に取り付けられている機銃や大砲で亀裂だけでなく春嶺を追うヴィランへも迎撃を開始する。


 そのやりとりを聞いていた飛彩は深緑の展開をさらに広げてヴィランの展開検知をさらに妨げさせた。


「蘭華も天弾も気合入れすぎだろ……だけど助かったぜ!」


 返し手でヴィランを倒すことは出来るものの、どんどんと乱されていく呼吸と自分のペースを取り戻せる数になってきたと飛彩は逆に攻勢に出た。


 元々の指針である攻撃は最大の防御よろしく、相手に攻め手を与えずに一方的にヴィランを狩り続ける。


「天弾、蘭華! 助かってるけど無理すんなよ!」


「自分の心配をしていろ!」


「私は心配して欲しいかも〜〜〜〜!」


 勢いよく啖呵を切った蘭華だが、装甲車を気取られないように攻撃し続けるのは至難の技なようだ。


 とはいえ、目標の現世への進行ルートを半分以上削っている時点でヴィランの頭数は大きく減っていることだろう。今頃世界の狭間で粉々になっているはずだ。


「あっちはどうなってるか……久しぶりに黒斗の労いが欲しいぜ」


 振り抜いた左拳が鎧を貫通し、その破片を散弾のようにして他のヴィランを迎撃する。

 利用できるものは全て使う、その戦いぶりは見なくとも通信機越しに聞こえてくる戦闘音でよく理解できた。


 激闘を全身で感じつつ、走り続けていた熱太は急に立ち止まる。そのまま銃と背中に背負っていた炎熱剣ブレイザーブレイバーを素早く持ち替える。


「ちょっと熱太くん? 変身後の武器を今持っても無駄よ?」


「そーっすよ、早く次の地点に行かないと!」


 仲間の呼びかけもが熱太の耳から遠のいていった。

 春嶺の飛彩の奮闘で熱太に火がつかないわけがなく。


「ちょこまかト! うごキマワッテいたのは貴様らカ!」


 黒光る住居を突き破った獣に鎧を無理やり装備させたような獣人のヴィランが勢いよく熱太へと爪牙を向ける。


「ふんっ!」


 ヒーローの誇る最上級の装備でも展開力が流し込めなければただの剣でしかない。

 しかし熱太は剣を飛びかかってくる相手へと素早く振り下ろし、自分の勢いと相手の勢いを乗せた刃をそのまま鎧へと滑らせる。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 その咆哮はせっかく居場所を隠せていたレスキューワールドの位置を露呈させてしまう。


 しかし、見事なまでの一閃がそのまま獣人のヴィランを真っ二つに切り裂き、黒い霞へと変貌させた。


「バッ、バカなぁ……!」


「隠れて戦うのは任せる! 俺も連中と真っ向勝負だ!」


 死と同時に展開力を爆発させてしまうヴィランを背に、熱太はその勢いすら利用した。


無理やり吹き飛ばされて崩れる体勢を空中で整えて屋根から見下ろしていたヴィランの頭部へとブレイザーブレイバーを突き立てる。


「すごい……一瞬で二体のヴィランを!」


「そうか、ヒーローの武器ならば一時的に奪った展開力を付与出来るのね」


 とはいえ元々そのような機能があるわけではない。ヒーローの操る武器は展開力を武器へと流し込み威力を増す。

 それは変身しなければ使えないという先入観は熱太の無謀な攻撃により払拭された。


 そして何より熱太自身が変身出来なくとも飛彩と並んで戦うべきだと、命を剣へと預ける。


「飛彩、春嶺、そして俺が敵を引きつける! そうすれば他のエレナや刑達が安全に動けるはずだ!」


「おい、熱太! お前どんだけ無謀なことやってんのか分かってんのか!」


 熱太の覚悟はもれなく全員へと通信で行き渡っている。

 暗殺者としての教育が叩き込まれている春嶺とは異なり、心配の声音が漏れるのも無理はないのかもしれない。


「……俺はいつから飛彩に心配される男になった?」


 見晴らしのいい住居で大声をあげる熱太はヴィラン達の格好の的だ。

 闇弾が降り注ぐ中、熱太はそれらを大振りな動きで躱し続ける。


「俺は! 俺たちは! 共に戦うと誓ったはずだ!」


 そのまま最後の闇弾を両断し、背後から忍び寄っていた二体のヴィランへと命中させる。

 ここにきて類稀なる集中力を発揮した熱太は焦りと「ただの人間」という己の枷を捨てた。

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