そして僅か二分で光の柱は収縮し、変身者であるホリィに凝縮されていく。
眩い光に照らされた刑は蘭華とカクリの応急処置を済ませて事の成り行きを見守っていた。
「キラキラ未来は私が決める! 聖なる世界へ! ホーリーフォーチュン!」
想像以上の速さで変身できたのはほぼ異世と化しているこの空間にヴィランの展開力が満ち満ちていたからだろう。
それを急速充填出来たことにより、展開の時間を早める事ができたのだ。
「カクリちゃんと蘭華ちゃん、二人はララクが作った亀裂から外に出るんだ。外と繋がったおかげでカクリちゃんの能力も使えるはずだよ」
「は、はぃ!」
「まさかクラッシャーが刑だったとはね……ここは一旦任せるわ。私は春嶺を探しにいく。カクリは先に戻ってて」
あえて戦場に残ることを選んだ蘭華は視線を厳しくし、サクケーヌ達と春嶺が戦った場所を睨む。
カクリは救援物資を運ぶために次元の裂け目の中へと消えていく。刑の読み通り現世と繋がったことで能力が使えるようになったのだ。
「では、レディ? 準備はいいかな?」
「行きましょう」
短い返答だったが、決意の籠もったヒーローとしての貫禄が漂っている。
蘭華はこれならば託せると振り返らずに走り去っていった。
刑も後輩に対し、頼もしさを覚えつつ展開力を広げて強く半壊した塔から飛び出した。
「調子は万全かい?」
「相手がララクちゃんじゃなければ、ですね」
心に潜む迷いがあるからこそ戦いたくないとも思うが、その辛さを全て飛彩に押し付けるわけにはいかないと考えているのだろう。
春嶺と共に戦場に戻ろうとする蘭華、救援物資を運ぶために後衛に回ったカクリ。
それぞれがそれぞれの意志を全うするならば、ホリィは覚悟が決まっていなくとも仲間たちが集まるまで時間を稼ぐしかないと震える身体に鞭を打った。
ヒーローの脚力で侵略区域の端まで辿り着くのは造作もないことだが、近づけば近づくほど色濃くなっていくように感じるララクの展開力に否が応でも二人の足取りは重くなった。
「飛彩くんは、こんなところで戦ってるのか……!?」
「だったら、私の展開で吹き飛ばします!」
黒い波濤を押し返すように溢れ出した白い展開からホリィは自身の両手にエネルギーを凝縮する。
「ジャッジライト! ホーリーシャワー!」
拡散する波動は黒い瘴気と足元に広がる展開力を押し潰しながら、深呼吸できるような空間を作り上げていく。
開けた視界に飛び込んできた蔦で絡みあっている飛彩とララクがお互いの展開力をぶつけ合って拮抗していたようだが、ホリィたちが駆けつけた瞬間にそれは砕けちる。
「く、くそったれが……」
「飛彩くん!」
悲痛なホリィの叫びと共に飛彩の作り上げた蔦は枯れ果てていき、結界に押し当てていた飛彩は力なく黒い地面に吸い込まれていった。
「ホリィちゃん、ヒーローだったのね」
それから遅れて数秒。
ゆっくりと地面に降り立ったララクの鎧は防衛本能により強固なものとなり、ドレスから刺々しい重厚な鎧は堅牢な鱗に包まれた龍そのもののようで。
禍々しい翼と長い尾が鎧にも関わらず、生きっているかのように蠢いていた。
「この格好嫌いなのに。よりにもよって一番見て欲しくない人たちに見られちゃったわ」
「なんだあの展開量は……ギャブランやリージェのデータよりも……!?」
震える刑の直感通り、ララクのランクはリージェを超えるAとなっている。
長らく侵略されていた地でもあり、内側から封印をかけていたことから封印杭の影響も少ないようだ。
故により異世に近い空間ということでララクの力を遮るものはないのだろう。
満身創痍の飛彩、展開力を抑えて変身している刑、万全とは言い難いホリィ、この三者で戦って勝利するビジョンがこの場にいる誰にも見えていないものになっていた。
「ねぇ、ホリィちゃん。私たち友達だよね?」
「——それは」
本能的な恐怖に魂が削り取られてしまうかのような感覚に襲われる。
故に言葉がすぐに紡げず、その間がララクには答えとして届いてしまった。
「——やっぱり無理なのかな?」
「ち、ちがっ!」
前のめりになりながらの否定は断頭台でしかなく、振り下ろされていた手刀が飛ぶ斬撃となってホリィの首を狙った。
微かな展開力を右足に注ぎ込んだ飛彩が、ホリィを抱えて回避できていなかったら間違いなく身体と首が永遠の別れを告げることになっていただろう。
「大丈夫か、ホリィ」
「う、うん……飛彩くんこそ」
「俺は平気だ。寝れば治る」
これからの戦いは息を整える暇もないはずであり、飛彩は肩で息をしながら震える足で何とか立ち上がった。
ララクの手刀に気付くことすらできなかった刑は圧倒的な実力差を前に心が折れかける。
(くそっ、何のために鍛錬を積んできたんだ……皆を守れるヒーローになるために戦ってきたんじゃないか!)
力の差を見せつけられたことで、逆に三人は奮起することができた。
生半可な覚悟では対話することもままならないからだ。
「何で二人は仲良しなのに、私とは仲良くしてくれないの? 力の差? それとも人間じゃないから?」
そう詰められても飛彩たちに返す言葉は見つからず、意識を集中したまま構え続けることしかできない。
「——私はどうすれば良いの?」
心が淀むにつれて、ララクの展開力がより色濃いものへと変貌していく。
禍々しく波打つ足場が地面から湧き上がるマグマのように変わっていった。
「やっぱり人間と楽しく暮らすって無理なの? ララクの求める世界は飛彩ちゃんたちにとって嫌なものなの?」
不安定に波打つ展開力は荒々しさを増し、踏み込むだけで負傷しそうなイメージを植えつけてくる。
考えられる中で一番最悪な状況の訪れに、刑とホリィの顔は青くなっていく。
一撃で葬られるかもしれない戦局の中で一番弱っているはずの飛彩が一目散に飛び出した。
「熱太たちをボコしてなんとも思ってねぇなら、嫌に決まってるだろ!」
右脚の展開力を使い、左右にステップを踏みながらララクが視線で追いきれなくなった瞬間に視覚から回し蹴りを放つ。
だが、ララクは攻撃方向を見ずに空間を歪ませるほどの展開力の盾で飛彩の脚撃を不発に終わらせる。
絡みつくような盾に足を絡みとられたものの、それを軸に飛び上がるだけでなく容赦なく左足の踵をララクの顔面へと炸裂させた。
「一撃入れた!?」
「しかも容赦なく顔に!」
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