【完結】変身時間のディフェンスフォース

〜ヒーローの変身途中が『隙だらけ』なので死ぬ気で護るしかないし、実は最強の俺が何故か裏方に!?〜
半袖高太郎
半袖高太郎

アウェイク:レスキューブルー&イエロー

公開日時: 2021年6月29日(火) 00:18
文字数:2,187

 そう。誰かを守るのであれば、自分を守ってくれた飛彩を守りたい。


 蘭華やホリィと同じ志を持ったヒロインの一人はよろめくユリラに隙のない連続蹴りを放ち続けていた。


「ぐっ、ガァッ!?」


 相手が体勢を立て直すより早く蹴りで攻撃を弾き、次の手すら弾いていく。

 どんどんとその速度を上げていく脚撃に、ユリラはいつしか両手を広げてその身に攻撃を受けるしか道は残されていない。


「このままレギオンごと蹴り抜く!」


「ガッ、ソ、ソノ程度の力でソンナコトが出来るわけガ……!」


 すでに脹脛部分に押し当てられているようなユリラだが、言葉通り鎧龍はまだ無傷だった。 

 おかげで翔香の蹴りと壁の間でバウンドし、ダメージが蓄積しているわけだがそれでもユリラが消滅するには程遠い。


「ヒーローらしさ、か」


 離れた足場でヒーローとして覚醒していく翔香を少しだけ茫然とエレナは眺めていた。


 エレナも同じく、適合した上に熱太と仲が良かったから始まったヒーロー活動であり血気迫る覚悟はない。

 正直なところ、飛彩を救いたい気持ちが一番低いのはエレナで間違い無いだろう。


 それでもなお戦うのはヒーローの使命だが、本当の意思で拳を振るえているのだろうか。


「はぁ……」


 しかし、エレナはレギオンと戦う五人の中で誰よりも冷静だった。


 戦う理由を冷静に見つめ直す脳内で、今すぐ逃げ出したい気持ちと、飛彩を見捨てても良い気持ちの混在をまずは認めた。


(薄情? 私は翔香ちゃんや熱太くんほど飛彩くんとは親しくないし、当然でしょう……)


 だが、しかし今名前をあげた二人の笑顔はこれでもかというほど思い出せた。


 ララクやメイに懇願すれば今すぐに亀裂を通って現世に帰れるだろう、とメイは思考を巡らせる。


 それをしないのは単純に大切な人が後悔するような道を選びたくない。その一心である。


「そうね……そうよね!」


 翔香の脚劇を見切り始めたユリラの両腕に氷鞭が飛びかかった。


「ナニっ!?」


「私は熱太くんや翔香ちゃんに笑顔でいて欲しい。そのために飛彩くんが必要なら命を賭けられる!」


「こ、こんな細い展開力で!」


 伸縮自在の氷の鞭は展開力で維持されている。

 つまり、その出力もエレナが自由自在に調節出来るのだ。


「ゼロフリージング!」


 飛び散る氷結弾が翔香を傷つけないようにしつつも、レギオンの装甲とユリラを一体化させる。


「一瞬でこれほどの展開力を……さすがはエレナさん!」


「氷ごと砕いて! 今の翔香ちゃんなら出来るわ!」


「エレナさんの限界突破に私も答えてみせますよ〜!」


 レギオンを留めるために広げていた展開域を右足一本という極小の領域に変化させる。


 相手からの影響を受ける諸刃の剣だが、この一撃に対してユリラがどうにも出来るはずもなく。

 全身から溢れた眩い光は右足を目指すように凝縮されていく。


 いくつもの足場を何度も蹴って加速していく中であえてレギオンから遠ざかるように跳躍した。


「ドウイウ、コトダ?」


 エネルギーを貯めたのは戦線から離脱するように見えたユリラだったが、ここにいるヒーローたちに撤退の文字はない。


「全く、信用しすぎだと思うよ?」


「ありがとね、春嶺ちゃん!」


 すでに腹部まで登り切っていた春嶺が、先に向かう熱太たちを援護しつつも足元の戦いにも気を配っていたのだ。


 それに気づいた翔香は、より威力を作り出すための作戦を思いつき勢いをより高めるための賭けに出ている。


跳弾響ブラッドバレット!」


 空中で翔香の足の裏に着弾した瞬間、それは跳弾を作り出す時と同じ透明な壁のような状態へ変貌した。


「ひ、ヒィ!?」


 盛り上がる筋肉が、右足に潜む展開力が、その全てが最上級の一撃になる。

 それを向けられているユリラが直感するのだから間違いない。


「はぁぁぁぁ! グランド! カイザーバスタァァァァァァァァァァァァーーーーー!!!」


 展開壁を蹴った翔香はそのまま空中で何度か回転し、氷漬けで避けることも出来ない相手へと滅却の右脚を向けた。


「や、ヤメロォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!」


 氷を砕き、肉体と同化した鎧が穿たれる。

 迸るほどの展開力は着撃と同時に一瞬にして光をレギオンの内部へと送り込んでいった。


「ガッ、かはっ!?」


「ここで全部使い切る!」


「く、クソが……!」


 汚らしい言葉を吐く顔だけは凍て付かず、自由の身になっている。


 一矢報いようとしたユリラの口に黒い波動が集まっていく刹那。


「フローズンウィップ!」


「グァヴァ!?」


 槍のように一直線に伸びた鞭がユリラの喉を穿ち、蒼き凍てつく展開力が翔香を援護した。


「ま、また私は、死ぬ、ノカ……!」


「悪しきヴィランじゃなくて、良いヴィランに生まれ変わりなさい」


「そしたら友達になれるかもってね」


「はっ、誰が、お前ら、などと……!」


 レスキューワールドの女性陣が見せたコンビネーション奥義が、強大な敵の頭脳部を打ち砕く。


「ギャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」


 ユリラの消滅と体内を駆け巡る翔香とエレナの展開力にレギオンは苦悶の絶叫を上げた。

 その破鐘の声は、熱太と刑にとって攻勢の狼煙になる。


「こいつを倒せば死鎧はもう湧かないはず!」


「おう! 刑! 今度は俺達の出番だ!」


 そのまま刑は様々な槍や盾を作り出し、針山にするようにして足場を作っていく。


 この巨獣を止めなければ全滅は免れず、倒せればフェイウォンの展開力を大きく削り勝利へと近づくのだ。

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