【完結】変身時間のディフェンスフォース

〜ヒーローの変身途中が『隙だらけ』なので死ぬ気で護るしかないし、実は最強の俺が何故か裏方に!?〜
半袖高太郎
半袖高太郎

解放の右腕

公開日時: 2021年6月10日(木) 00:21
文字数:2,176

「悪しきこの世界は心地良かった。殺戮と服従、力の誇示……ヴィラン達は生きるために全てを投げ打っている。純粋な悪と悪のぶつかり合いを毎日楽しめた」


「だ、だったら俺たちの世界を狙う意味はなんだ!」


 何か言い返さなければ脳がパンクしてしまいそうで、思考の時間を稼ぐために反射的に言葉を投げかける。

 悠然と両手を広げたフェイウォンは無数の現世へとつながる亀裂を作り上げ、そのまま様々な場所の情景を飛彩に見せつけた。


「生物の本質は悪だ」


 亀裂の向こうには戦争や悪事を働く者が大小の事柄に関わらず映り込んでいる。程度はどうあれ自分の欲望を叶えるために他者を虐げるヴィランと同じ状況だ。


「悪を全て消し去っても尚、人々には悪と呼べる心が生まれていた……ならば今こそ世界を一つに戻そう、そう思ったんだよ」


 ただでさえ驚愕の事実だというのに、ヴィランと異世が誕生した時点でフェイウォンの求めていた悪の世界が完結しているのではないかと飛彩はより動揺した。


「そんなことして何の意味がある」


「悪を抜かれても尚、悪に染まるすべての生きとし生ける者に悪の塊であるヴィランを宿らせる。より純粋で研ぎ澄まされた悪達の狂乱の宴を始めようじゃないか!」


 口角を上げるフェイウォンはそのまま亀裂を閉じていく。メイにも告げなかった真の目的を明かしたのは飛彩が予想以上の成長を遂げていたからだろうか。


(やべぇ……こいつだけは絶対に殺さないと世界がここみたいな荒れ果てたものになっちまう!)


 そして、その荒唐無稽な世界再創造をなし得るに充分な力がフェイウォンにはあるのだと飛彩は拳を交えて理解している。


 予想以上にヒーロー陣営や人類が抗っていることが面白いと感じているだけで、気まぐれで生かされているだけだと分かったが故に勝負を急がねばと焦る思考を脳から追い出した。


「お前に俺たちの世界は渡さない!」


「吠えるだけでは何も変わりはしないぞ?」


 事実を突きつけられるものの、あと一手が足りないということは飛彩もひしひしと感じている。

 フェイウォンの隙を生み出す何かが必要だと考えても攻撃は全て組み伏せられていた。


(何か、どうにかして奴の隙を……!)


 濃厚なフェイウォンの展開下において、常人ならば秒ももたずに発狂していることだろうが飛彩は強い意志を持って果敢に立ち向かっている。


 しかし、互いの強すぎる展開域は周囲の状況をかすませてしまうほどで。


「飛彩くん!」


 透き通った声が耳に届いた瞬間、飛彩の中で右腕を炸裂させる未来が描き出された。

 純白の展開域、三次元的に広がるパステルカラーの空間それが周囲に現れた瞬間に右手を隠すように姿勢を低く左半身を前方へ突き出した。


 駆けつけたホリィ、その奥にはララクに肩を貸しながらも狙撃銃を携える蘭華も控えている。


「お前達も悪へと戻れ! ヒーローすらヴィランに墜ちた世界に希望はない!」


 救援が現れたとしてもフェイウォンにとっては些細な事柄だった。

 世界の真実を知る者の精神的優位は揺るがない。


 しかし、優位は時として慢心のみを作り上げる。


「ホリィ! 合わせろ!」


 全てを知る者でありながら、フェイウォンは右腕の力とホリィの未来確定を知らない。

 フェイウォンにとって勝利が当たり前の中で、戦いを楽しむために初撃を受けてから反撃するという戦い方は、飛彩にとって驚くものでありながら付け入る隙として映っていた。


 そこに現れたホリィという救援に勝利の女神が味方してくれていると飛彩はガラにもことを思ってしまう。


 ホリィもまた飛彩が右腕を見せていないことから、その真意を見抜いて右腕が炸裂する未来を展開内に発生させた。


「未来確定? クリエメイトめ、なんて能力を……!」


 流石のフェイウォンも抗えない能力。

 これはメイが対ヴィランの切り札として作っていた能力と言えよう。人間だからこそヴィランを浄化出来る聖なる力を扱うことが出来る。


 故にヴィランではホーリーフォーチュンの未来確定を避けることはほぼほぼ不可能なのだ。


「お前の未来、今決まったぜ!」


 数十歩の間合いがあったにもかかわらず、フェイウォンの懐に右手を思い切り引いた飛彩が現れていた。


「何っ!?」


 しかし、それはホリィの導く未来を示す半透明のヴィジョン。

 反撃する方法もあったはずだろうが能力に面食らったフェイウォンは、未来の決定を防げない。


「飛彩くん! 今です!」


「来い! 自由ノ解放リベレート・フリーダム


 そのまま過程を飛ばしたかのような飛彩の跳躍が予定していた未来と重なる。


 四色目の展開力を完全に消し去る装甲はフェイウォンの腹部に減り込んだ瞬間に発動した。


「ぐがあっ!?」


 ここで初めてフェイウォンが苦悶の声を上げる。

 本来ならば飛彩の展開域にいる存在すべての展開力を奪う能力だが、この土壇場で飛彩は右腕の力を「深化」させていた。


 ホリィの能力を消せば避けられてしまう、その思考だけで影響範囲を自分と拳を炸裂させた相手にのみ留める一撃を作り出したのである。


「リベレートバニッシュ!」


 心に過ぎる技名を叫ぶと共に迸る蒼い閃光は、周囲の黒い展開力や瘴気を消し飛ばした。


 鎧へと突き刺さった右拳を引き抜いた飛彩はよろめくフェイウォンに向かって左右の拳をこれでもかというほど打ち付けていく。


 長い前髪でフェイウォンの表情は見えないが鎧は所々へこみ、白い肌が美しい顔も痣で彩られていった。



「ぐっ……この程度でっ……!」


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