【完結】変身時間のディフェンスフォース

〜ヒーローの変身途中が『隙だらけ』なので死ぬ気で護るしかないし、実は最強の俺が何故か裏方に!?〜
半袖高太郎
半袖高太郎

戻らぬ決意

公開日時: 2021年7月17日(土) 17:16
文字数:4,321

「それに、一人だけが強いなんて面白くないと思うぜ?」


「……やはりお前とは相容れぬか。悪そのものである私と、人に染まったお前では当たり前か」


 そう呟くフェイウォンには若干の寂寥とした雰囲気すら感じられる。

 ただ、そんなことで飛彩が情けをかけることもなく。


「俺の信じる正義なかまのために全力でお前を討つ!」


 その宣誓と同時に銀と桃色の展開力が飛彩から立ち昇り、複数の光弾が刀の指揮に合わせてフェイウォンを襲う。

 執拗な炎撃の意趣返しが如く、追尾弾を次々と生み出していった。


「天弾! 刑! お前らの力、合わせるぜ!」


 跳弾による疑似的な追尾、さらに反撃の炎を完全に消滅させる滅び。


 飛彩自身の力を温存しながらも確実にフェイウォンを追い詰める弾幕に、頼れる二人の影を感じる。


「お前らとは最悪の出会いだったのによ。今じゃ最高に頼もしい奴らだ」


 二人の後ろ姿の幻影を見た飛彩は靡く長髪に懐かしさを感じながら、二人の能力で視界が埋まる程の光弾を放っていく。


「跳弾と滅び……そう簡単には攻略出来ねぇだろ!」


 いかに無尽蔵の展開力を持っているフェイウォンでも大技を放つのには準備が必要だ。

 それを回避に注ぎながら黒炎の勢いで飛彩の目を回すかのように飛び回る。


「攻勢を奪ったと思うなよ!」


 残像を残すほどの加速に飛彩は釣られて弾幕を増やす。

 そして、フェイウォンの姿が見えなくなるほどの攻撃してしまったことで飛彩は気付かされた。


(攻撃の手が緩んだ……気づいたな)


 わざと姿を晦ますような回避の意図に気付き、落ち着かせようと再び大きく息を吸い込んだ。


(だが、もう充分だ。今度はこちらが燃やし尽くしてやる)


 移動に費やしていた展開力を右手へと圧縮していく。

 高温どころではない黒炎弾は狭間の世界をも歪ませていった。


 その歪みは飛彩にも届いており、大技が飛んでくると否が応でも気付かされる。


「だったら……いけるよな、ホリィ」


 不可視の領域から繰り出される攻撃があるならば、その方向を絞ってやると。


「この力も、俺に宿ってるんだぜ」


 その呟きはフェイウォンに届くことはないが、弾幕の向こう側に届く白光が視界を一瞬覆った。


「灰へと変えてやるぞ、隠雅飛彩ぉ!」


 視界の外からの射撃ではなくフェイウォンが選んだのは黒炎を直接ぶつける突撃で。

 滅びの光弾を簡単に突き破る黒炎突撃は、飛彩の左後方からだった。


「どうだろうな」


 一際眩く輝く白刀が瞬時にフェイウォンへと向けられ、わずかに突撃に揺れが現れる。


 それに釣られて飛彩は構え直して振り返った。


「何故気づ━━」


 見えない位置から凝縮した黒炎をレーザー状にして飛彩を射抜く。

 そう、作戦を考えていたはずのフェイウォンは動揺を見せていた。



「あの女か!」



 思い起こすはフェイウォンでも苦戦を強いられた『未来確定』の力。

 わかっていても、その思考ごと未来を決定されるそれは避けられることもなく、飛彩への突撃を余儀なくされる。


「お前へと突き進む未来、そのまま焼き尽くすものに変えてくれるわ!」


「言ったろ。お前だけ強いんじゃ意味ねぇって」


 迎え撃つ刃と突き立てる炎。

 しかし、飛彩が定めた未来は真っ向勝負に引き込むためでなく、勝つためのものだ。


「悪は正義に敗れる運命さだめさ!」


 掛け声と共に、フェイウォンの掌で解放の時を待っていた黒炎が音もなく消えていく。


「なっ、何ぃ!?」


 ホリィが今まで繰り出してきた未来確定よりも強力で精度の高い能力。

 これは飛彩のなかったことにする力とも相まって、相手の力がそもそも発生しない未来を一方的に作り上げたのだ。


「俺の反撃で斬られるまでが、お前の未来だぜ?」


 掌に鋒が触れようとしている。

 ただそれだけでフェイウォンの脳裏には捧げたはずの命すら砕かれる光景が浮かぶ。


(私が、負ける?)


(ああ。お前がどれだけ強かろうと、どんな方法で戦おうと、元はたった一個の能力だ)


 時間が緩やかになっていく中で、展開域がぶつかり合う。

 そのせいか、二人の思考が言葉を介さずとも互いの脳へ直接届けられた。


(仲間たちと積み重ねた力が俺をさらに強くする!)


(我がヴィランの灯火が、そんなものに消されると?)


(ああ。俺がなかったことにしなくとも、お前は他のヴィランを思い出せなかったはずだ……それが俺とお前の違いだよ!)


 崇められるばかりで、部下を省みようなどとフェイウォンは思ったこともなかった。

 事実、思い出せるのはリージェ、ララク、ユリラ程度で全てのヴィランの力を使えたとして、どれだけ引き出せただろうか。


 それゆえに、たった一人で戦っていることをフェイウォンは強く自覚させられた。


「俺は、勝利の未来を掴む!」


 そして、緩やかに感じられていた時間が通常の流れへと戻っていった。


 飛彩は携えていた白刀を音を切り裂く速度で振り抜く。


「ぐっ、ぐぅ……!」


 飛彩が決定した未来がフェイウォンにも流れ込んでいた。

 このまま攻撃が炸裂すれば、左腕どころか上半身が全て吹き飛んで有象無象のヴィランと同じくなかったことにされるだろう。


(私が、死ぬ━━!?)


 とうとう鋒が掌に触れ、わずかな痛みがまず走っていった。

 そして、縛られていた感覚から解放されたように思考が鮮明になっていく。


(まだ、だ、まだ終わらん!)


 悪は敗北する。


 その未来に対し、飛彩もまた正義ではないとフェイウォンは吠えた。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 斬られるまでが未来ならば、わずかにでも斬られれば確定の呪縛からは逃れられる。

 その狙いをもとにフェイウォンは左手に霧散した展開力を結集させて、刀を握りしめた。


「なっ!?」


 そう、未来を変えられるのは、何もヒーローや主人公だけではない。


「掴むは、命だけにあらず!」


 斬撃を与える未来、それが飛彩の決めたものだった。

 状態まで決められていたその結末に、あえて最小ダメージを狙ってフェイウォンは突き進んだのである。


「ヴィランの栄光ある未来のために!」


 おかげでホリィの未来確定では、これ以上のダメージを与えることは出来ない。

 ギャブランの賭けもそうだったが、操作系の展開能力の唯一の弱点とも言っていいだろう。


 決まった未来とはいえ、その過程は変えられる。

 飛彩は刀から伝う怨嗟の展開力に全身を硬らせた。


 焼き尽くされるビジョンよりも先に、甲高い亀裂が周囲に響く。


「ちッ!?」


「お前の叶えた未来は、ここまでだ!」


 これまでのフェイウォンとの死闘でメイが特注で作っていた黒斗の刀がとうとう悲鳴をあげたのだ。


 幾人ものヒーローの力を宿すなど、設計時には想定されていなかっただろう。


 さらに全てを燃やし尽くすフェイウォンの炎と握撃に刀身が柄付近で握り折られてしまった。


「くそっ」


「さあ、下ごしらえといこう」


 再び右腕を炎で作り上げたフェイウォンは、刃を握られて体勢を崩している飛彩へと拳を叩き込む。


「ぐほぉっ!?」


 身体を折り曲げた飛彩に対し、変幻自在の右腕が再びしなりながら何度も飛彩の全身を砕いていった。

 鞭のようでありながら破壊力は鉄槌さながらの威力を誇り、浮かばされた飛彩は血反吐を吐きながらその攻撃を受け入れるしかなく。


「頼みの綱は切れたなぁ?」


 鎧に日々を走らせた飛彩が足場へと音を立てて叩き落とされると同時に、フェイウォンは左手で握っていた刀身を燃え上がらせる。


「仲間と支えあう? 笑わせるな、そんなものは展開力の残滓だ! そうに決まっている!」


 広げていた展開域は地面のように硬いものになっており、灰になった刀が狭間の世界へさらさらと散っていた。


 それを忌々しげに踏みつけ、さらに磨り潰すように足を動かしたフェイウォンは右手に広げていた展開域を集約し始める。


「がはっ、げはっ……!」


 対する飛彩は攻勢から一転、窮地に追い詰められた。


 白き鎧は防御力のほとんどを失い、仲間たちとの絆を結んでいた刀は刃を失っている。


「やはり弱者が群れようと圧倒的な個には勝てぬ! それを証明し、新たなヴィランの世界を作り出すのだ!」


 先ほどまで攻め入られていたこともあり、フェイウォンは高揚感を抑えられずにいた。

 頂点に立つ自分は、やはり勝者にふさわしいと殲滅の一撃がどんどんと凝縮されていく。


「はっ……刀一本折ったくらいで、調子に乗るなよ」


 しかし、飛彩もまた勝利を確信した気迫を見せていた。


「何を言う。お前は能力の源を折られたも同然ではないか」


「そんなところに俺の仲間はいねぇよ」


 よろよろと立ち上がるものの、飛彩の瞳はまだ死んでいない。

 それが死の淵で喚きそうになったフェイウォンには尚更腹立たしく。


「……なんだ? まだ私に勝利するつもりでいるのか? その死に体で?」


「テメェだって命を代償に力を増幅させてるだろ。満身創痍はお互い様だ」


「はっ、強がりを。それでもどちらが優勢かなど明白なはず」


 ゆっくりと歩み寄るフェイウォンは黒く澱んだ足場を使い、一歩ずつ飛彩へと近づいて行った。


 狭間の世界を押しとどめるほどに広がっていた展開力の羽も消された右腕にどんどん凝縮されていく。

 現世でその力を振るえば、世界はヴィランの展開に飲み込まれて新たな悪の鎧が生まれることだろう。


「貴様の前に仲間たちを並べてやろう。一人ずつ、この力で燃やし尽くしてやる」


「させねぇって、言ってんだろ。お前はここで『なかったこと』になるんだ」


 刀は折れ、鎧は砕ける寸前だが闘志は消えない。


 フェイウォンが命を懸けて世界を破滅に導こうとしている時点で、飛彩もまた命を懸けるしかないと強く刀を握りしめる。


 一歩、また一歩と近付いてくるフェイウォンは死刑の執行人と言えよう。

 同じ立場になるには同じものを懸けるしかないが、飛彩の原動力は生きて仲間のもとに戻るという決意。


(結局、皆のところへは帰れないかもな……)


 それほど大事な想いを諦め、力の変換に全てを費やそうと飛彩も覚悟を決める。


(この攻撃を外したら死ぬ、か……)


 最後の足掻きを視界に収めたフェイウォンもまた右腕に力を集約していった。

 右腕に凝縮された展開域は飛彩を屠った後、その意識を封じ込めることすら可能だろう。


 死してどうすることも出来ない状態で仲間が蹂躙される姿を間近で見せつける。

 その魂胆に飛彩は反吐が出る思いだった。


(奴の覚悟を超えるには、これしかねぇ!)


 元の世界に戻るための展開力、さらには鎧を維持するための展開力も刀を握る手に集約していった。


 もはやお守りにしかならない刀を握りしめ、飛彩は駆け出した。

 フェイウォンはその場に留まり、迎え撃つ姿勢をとる。


「なかったことに出来る量を超えているだろう?」


 ただ、集まっていく展開力による攻撃速度の増加は間違いないだろう。


 勢いをつけた飛彩が単純に有利ではないらしい。


「で? その差は諦める理由になんねーよ!」

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