拒絶の力が飛彩以外を吹き飛ばし、リージェは背後に異世への入口を作り上げる。
さらにその場にいることを拒絶された飛彩は引き寄せられるように組み伏せられた。
「この近くには僕らの侵略した場所がいくつかあるんだ。そっちに配備していた奴らもここに呼んである」
そのまま亀裂の中に引き摺り込まれた飛彩は一瞬視界が闇に染まった後、別の侵略区域へと転がったのか静寂な廃墟に思い切り叩きつけられる。
「今のがヴィランのワープ……仕方ねぇ! こうなったらとっととぶちのめして戻るだけだ!」
「ああ! そして俺たちの決着が勝敗を決する! 違うかい?」
「望むところだ!」
もはや二人の戦いに敵も味方も介入することは決してない。そしてヒーローとヴィランは展開力の勝負だ。故に飛彩の四つ目の能力が光る。
「もう出し惜しみはしねぇ」
展開力の無効化を生み出す蒼き領域。急激に高まっていく展開力を消費して飛彩は四つ目の力を解放する。
「ここからは素手だ」
「はあ? せっかく力を呼び出したのに何を言って……?」
刹那、二人の展開力が感知できないほどに小さくなっていく。
それどころか展開領域そのものの消失にリージェが面食らった瞬間、顔面へと蒼い右拳が放たれた。
「なっ、なんだ!?」
しかしリージェもまた身体に染み付いた体術で何とかその拳をいなす。
動揺が耳にへばりつき、襲いくる違和感に鎧が震える。
「なんだこの鬱陶しい蒼い領域は! 僕の力が……感じられない?」
「だから言ったろ、こっからは素手だって」
リージェは自身を含め、飛彩の展開力も感じられなくなった無の世界に驚く。展開力と共に生まれ、生きるために展開力を用いてきた。それがなくなってしまったことで真の暗黒をリージェは思い知った。
「ボーッとしてんじゃ、ねぇ!」
その言葉でリージェの意識が戻るものの、今度は防御させる間も無く顔面に蒼の重撃を飛彩は打ち付けた。
渾身の右ストレートが頬に減り込み、リージェは上半身を大きく仰け反らせる。
「がっ!?」
痛みと動揺で隙を晒したリージェだが、仰け反った勢いを利用して後方へと跳ねる。
その時、鋭い両爪先を飛彩の顎目掛けて放つという離れ技を見せた。
「あぶねっ!」
意識を失いかけてもなお攻撃に転ずる天賦の才能。
その片鱗を見せつけられた飛彩は好敵手となった相手へと苛立ちと高揚を同時に抱いた。
「あ〜、今のは効いたよ。というかまたそんな能力身につけて……ずるくない?」
「テメェのだって充分チートだろうよ」
互いに数歩の間合いを維持しながら円を描くように互いの隙を狙っていく。
もはやここにいるのはただの人二人と言っても過言ではないのだ。
「いいのかい飛彩? つまりは展開力なしの純粋な格闘勝負ってことだろ?」
「ああ。小細工なしの真っ向勝負だ」
「そんなことしたら年季の差が出るだけだと思う、よ!」
その場で強く地面を踏みしめたかと思えば、飛彩の目に砂粒が飛来する。
たまらず瞳を閉じた瞬間に勢いよく殴りかかってきたリージェ。
観客のいない空間での静かな決着が訪れようとした瞬間にリージェの視界が揺らいだ。
気がつけば顎に飛彩の黒い拳が撫でるように振り抜かれている。
「な、に……?」
重心を後方へ傾けながら飛彩は瞳を閉じた状態で思い通りだと言わんばかりに笑う。
空気の流れやリージェの思考、全てを読み切っていた飛彩のカウンターブローが炸裂したのだ。
「おいおい、年季とか言ってたよなぁ?」
再び崩れそうになる体勢を堪えたリージェは大振りのアッパーをを差し向けるも瞳を閉じたままの飛彩は簡単に大振りの攻撃も、そこから派生した小技も軽々といなしていく。
「な、なんだよお前ぇ!」
右拳を完全に握りしめ、さらに追撃してきた左拳も覆うように掴み上げる。
組み合うのではなく一方的に飛彩がリージェを押さえ込む展開を誰が予想出来ただろうか。
いざ戦いが始まれば己の勝利を確信していく飛彩と圧倒的に進化を重ねていた相手に怯え始めるリージェ。
「お前、よくもララクや春嶺を痛めつけてくれたなぁ?」
飛彩が両腕を持ち上げればリージェは軽々と地面から両足を離してしまい、なす術もなく紅い膝蹴りを受け入れるのみだった。
その間も飛彩はリージェの拳を離さずに何度も何度も蹴りを入れていく。
いつの間にか誕生していた力の差。展開を無効化されたことよりも大きなショックとしてリージェの中に刻み込まれていった。
拒絶の力が発動していた時は互角の戦いを繰り広げていただけあって、そもそもの体術のみとなった瞬間に格差が広がることが受け止め切れないのだ。
不利な思考は力がなくとも拒絶できるというのに、もはや狩られる側でしかない。
「今度こそ、その鎧を砕いてやる!」
「ぐはぁ!?」
自身の蹴りの威力により握っていた拳を解くしかない飛彩はあえてそのままリージェを地面へと吹き飛ばした。
展開力がなくとも高まっているように感じる力に、たとえライバルとしていたヴィラン相手でも欠片も負ける気はないらしい。
「おいおい、そんなに弱いのかぁ! 展開にばかり頼ってたんじゃねぇのか?」
もはやどちらがヴィランかもわからないような一方的な蹂躙。
地面を弾むリージェを先回りいてボールのように蹴飛ばし、両腕で叩きつける。
跳ねた先全てが攻撃に転ずるように計算された飛彩の四色の攻撃はもはやヴィランの首魁をも圧倒していた。
(ばかなっ! この短期間で飛彩はどれだけ……!?)
「歯ぁ食い縛れ!」
そしてとうとう渾身の右ストレートがリージェの顔面へと直撃する。
骨が砕ける音とともに地面へ沈んだリージェはその勢いを利用して反転しながら起き上がった。
明らかに無傷なリージェに対して飛彩が違和感を覚えた次の瞬間。
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