【完結】変身時間のディフェンスフォース

〜ヒーローの変身途中が『隙だらけ』なので死ぬ気で護るしかないし、実は最強の俺が何故か裏方に!?〜
半袖高太郎
半袖高太郎

少女の胸の内

公開日時: 2020年9月2日(水) 12:03
文字数:3,512

 調子が狂うなと飛彩はため息をつきながら弁解する。騒がしい連中が先程までいたことを。


「よかったぁ。嫌われたかと思いました」


知り合いにはいない様相の美少女にどうしても飛彩は戸惑った。見慣れていないからドキドキするだけだと自分へと言い聞かせて。


「あー、わ、悪かった……それで、天下のヒーロー様が俺に何の用?」


 刺々しい口調で喋ってしまった、と口を押さえる。

尖った飛彩とて、美人には嫌われたくないのだろう。


「ランクEのヴィランと戦った訓練生がいたって聞いたんです。調べてみたら、飛彩さんだったので驚きましたっ。やっぱりヒーローを目指していたんですねっ」


 特に気にした様子もないホリィはにこやかな調子で言葉を続ける。

お見舞いの品をテーブルに置いた瞬間、ホリィは飛彩へと一気に詰め寄る。豊満すぎる胸が大きく弾んだ。


「実はですね、飛彩さん! あの忍者のお方がいたんですっ!」


「は?」


 戦闘時、バイザーを外したことや、傷だらけでボロボロになったスーツなどを飛彩は思い出した。

ヒーローの世界展開に含まれている護利隊の存在を視認しない効果がうまく発動しなかったのは明白で、言い訳を頭の中で膨らませた。


「やはりあの方は透明になる力か何かをお持ちのようで……」


と、得意分野を話す子供のように早口で話す。さらに情報だけでなく考察も述べ出した。目の前の飛彩だと間違っても思っていないホリィに飛彩は口元を緩ませた。


「……本っ当に、忍者に会いたいんだな。うざいくらいに」


「う、うざっ!?」


 しゅんとした様子のホリィはまるで、初めて出来た友達という勢いではしゃいでいた。

おかげで傷口にしみていた大声が静まる。

そんな不思議な様子は、大金持ちの娘だと聞いていた飛彩にとって色々と不思議に思えた。


「——どんなに探しても会えない、か。そりゃあ資格がないからな」


「それは私が弱いから、ですか?」


 俯いたホリィはスカートの裾を思い切り握った。

高価そうな布地に深い皺が刻まれていく。


「違う。あー、忍者の方にだよ」


「いくらご友人とはいえ、そんな失礼な言葉は許しませんよ」


 病み上がりの相手ということも忘れて、飛彩に顔を近づけるホリィ。

疲れ切っているということもあってか、顔も赤らめもせず毅然と話し続ける。


「隠れて戦うしかねぇ……そんな自分を許せない、恥だと思っている奴だっているさ」


真剣に語る飛彩を見て落ち着いたのか、熱くなりすぎていたことをホリィは恥じた。


「……まるでご本人のようですね」


「ははっ、男なんて皆そんなもんさ」


「だとしても……私はこの想いを!」


「あー、そういうことは人前で言うなよ?」


 語気が強くなるホリィに苦笑いしつつ飛彩はあの日の出来事を反芻した。

首と身体を斬り離せや顔が良いからって調子に乗るな、など思い出すだけでも黒歴史の嵐だった。


「それに、お前があの性格を参考にするのはよろしくないっていうか……」


「——飛彩くんは幻滅するでしょうが、私は出来損ないで、家族からも疎まれていました」


さすがにその情報には驚きを隠せなかった。嘘をついている気配も感じられないが、それでも何不自由なく育ったお嬢様、というイメージは拭えない。


「優秀な姉や妹に挟まれて……誰もが私を見限っている、と。あはは……引きましたよね?」


「冗談……ってわけでもなさそうだな。人は見た目によらねぇっていうか……」


うまく言葉をつなげられない飛彩の目を見据え、ホリィは話を進めた。


「それで、ある時気づいたんです。皆、嘘で塗り固めた言葉で私に接している、って。」


 それゆえに送ってきた不自由のない生活の本当の意味に気づいたときの絶望は、計り知れない。

何も期待されず、何も想われず、そんな中で必死にもがいて手に入れたヒーローの座だったことを知った飛彩はあの時の自分を蹴り飛ばしたくなった。


「でも結局、父が出資者だから、皆へこへこしてくるんですよ。本部の人もヒーローの人も」


「……そうか」


 自分に負けず劣らずの孤独を感じてきたのかと飛彩は口を真一文字に結んだ。

心から信用できた幼馴染たちに支えられていた飛彩は、自分が孤独だったことに気づいてしまったホリィの方がよほど辛い思いをしていたじゃないか、と僅かに震える。


「忍者のヒーローさんは、野蛮な言葉でも、私を心から思った言葉をかけてくれた、危険なところを助けてくれた、お礼を言うには、まだ足りませんか?」


「——きっと、この会話もどこかで聞いているかもしれない。ヒーロー本部とか、はたまたすぐそこの窓の外とか」


「えっ?」


「あんたがそこまで熱意持ってんだ。相手も気づいてねぇとは思えない」


 飛彩は青い空を眺めながら、なるべくホリィに顔色を伺われないように逸らしながら語る。


「最初にも言ったろ? 資格がないのかもしれないって。だから待ってればいつか会えるさ」

「……飛彩くんも嘘は言わないんですね」


 とてつもない恥ずかしさが飛彩を襲っていた。嘘を言えない分、恥ずかしさは何倍にも膨れ上がっている。


「そりゃそーだろ。お前みたいな美人に嫌われたがる男はいねぇって」


もはや吹っ切れたように思ったことを次々と並べてしまっているくらいだが。


「び、美人!? そ、そんな私なんて……」


 真の意味で褒められたことが少ないホリィは顔を真っ赤にして俯く。

飛彩はとても悲しい少女にいつか手を差し伸べられるようになりたい。そう心から思えた。

今はなき、ナンバーワンヒーローも同じように手を差し伸べたくなったのかもな、と勝手に心の中で想像をつけて。


「わ、私はここで失礼します! お大事にしてくださいね!」


 そそくさと出ていく少女の後ろ姿は可憐だった。そんな、美しい少女が背負っている闇に飛彩は何とも言えない気持ちになる。


「不幸なのは自分だけじゃねぇって、言ったもんだよなぁ」


 そう気難しい顔を浮かべた飛彩は、扉から背を向ける形で眠りにつく。

そして、飛彩はよりヒーローの資格が、胸を張って誰かの前に立つ資格が欲しいと切望するのだった。


 ホリィとの一件もあり、飛彩は退院して早々に護利隊本部の司令室に飛び込んでいた。


「邪魔するぜ。黒斗!」


 アポイントメントどころか、退院の連絡も一切しない部下をどう叱ろうか、と黒斗は逡巡する。そこで一切の容赦を捨てることを決めた。


「……飛彩、お前はクビだ」


「ほあぁ!?」


 いつも尖った態度の飛彩もこればかりは間抜けな反応を出さざるを得なかった。予想外の方向からの攻撃に後方に吹き飛びそうになるが、なんとか踏みとどまる。


「う、嘘だろ? 俺、応援されて決意改めてきたんだけど!?」


 口に出すと、非常に情けないことまで漏らしてしまうほど飛彩は動揺する。

褒められたとしても、咎められる謂れは無いように思っていたからだ。


「知らん」


 大きなため息を飛ばし、呆れる黒斗は淡々と業務連絡のように言葉を続ける。


「度重なる命令違反。護利隊の存在をひけらかすような行為、お前の力は有用だがそれ以上のマイナスがある……分かるな?」


「ぐっ」


 言葉に詰まった飛彩は冷静になろうと努めたが、どうしても自分の功績を考えてしまい、頭に血が上ってしまう。


「冗談だろ! ランクEを倒したんだぞ!?」


「……功績を作ろうと関係ない。負債はそれほどだ。それにほぼヒーローの力だろう?」


 突きつけられた事実に開いた口が塞がらない様子となる。黒斗は椅子に座ったまま、飛彩を見ることもなく言葉を続けた。


「思い当たる節がないとは言わせんぞ?」


 ヒーローになりたいという一心で生きてきた飛彩は、目立ち、功績を作るために何度も無茶を犯してきた。

最も短いルートだと思っていた護利隊は、どこよりもヒーローのいる場所に遠いと気づいてからは、その檻を突き破ろうと生放送で正体を明かそうとしたこともあった。


ホリィの前に姿を晒したこともそれに含まれる。


「ホーリーフォーチュンへの接触、レギオン迎撃戦の独断行動、新志熱太との無断共闘……これだけでも充分に規約を反している。情報被害は最小限に済んでいるが、最悪の事態もあり得た。そうだろう?」


「た、たったそれだけじゃねぇか!」


「蘭華といい、お前といい、護利隊を勘違いしているな」


 睨むような視線の黒斗は例えようのないほどの威圧感を放っていた。

元々切れ長な瞳ということもあるが、非常に相手に恐怖感を与える。


「護利隊とは、その名の通り、利益を守る存在だ。世界平和という利益を守るには犠牲はつきもの……ヒーローを守るだけであって、ヒーローを越えようとする者は何よりもいらん」


「けっ! なら、こっちからやめてやるよ! もう一度受けりゃ、ヒーローにだって——」


「それは、無理だ」


逃げ道が全て塞がっていくかのような恐怖感。飛彩の額に一筋の汗が流れていく。

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