【完結】変身時間のディフェンスフォース

〜ヒーローの変身途中が『隙だらけ』なので死ぬ気で護るしかないし、実は最強の俺が何故か裏方に!?〜
半袖高太郎
半袖高太郎

手を伸ばせ

公開日時: 2021年7月13日(火) 00:06
文字数:2,474

「頂点に立って恐怖で支配する限り、お前の欲しいもの絶対に手に入らないぜ」


「展開力を消せるからと、調子に乗るな。未だに私の底は見えまい」


「鋒くらい届いてるだろ?」


 余計な思考は後回し、大義も今は不要。

 今は仲間との掛け替えのない日々のために戦う。


「さ、お互い余計なこと考えるのはやめにしようぜ」


 そう、飛彩の瞳に光がみなぎった。


「こっからは欲望のぶつけ合いだ」








 久しぶりに見たような夕陽。


 潜入作戦からそれだけ時間が経過していたのか、と暖かく身体を包まれる光を全員が知覚する。

 作戦範囲内にあった公園に戻ってきた蘭華たちは抉れた芝生などを見ながら陣営が辛勝したことを悟った。


「戻って、きたのね」


 戦いで荒れた都市部はヴィランの攻撃ではなく重火器による一斉掃射の煽りを受けている。


 批判はあろうが、ヴィランが暴れていたら土地は汚染されて甚大な被害があったはずだ。

 これはヴィラン侵攻を許さなかった部隊の決死の努力が見せた結果だろう。


「……」


 ヒーローの反応がある以上、英人が指揮している本部の命令で迎えが飛んでくるだろう。


 勝利の凱旋パレードも、飛彩がいなければ真の帰還とは言えず、暗い雰囲気が漂っていた。


「ララク、メイさん、もう一回向こう側へ行かせてくれ。やはり飛彩一人置いてくるわけにはいかない」


 変身が続く限り、戦うべきだと考える熱太。

 もちろん、本心では全員同じことを考えているはずだろう。


「……ダメよ」


 返答のない間を破ったのは、意外にも否定で返した蘭華だった。

 それに対し、一部のメンバーが動揺しなかったのは基地機能について熟知している面々である。


「メイかララクが再びゲートを開けばヴィランの反応が出てしまう。他にもたくさんヴィランがいた時は問題なかったが、今はこの二人が狙われる事になる」


「くっ……」


「私は別にお尋ねものになってもいいけど、もう異世と呼べる場所は存在しない。異次元空間への亀裂を作っても、ピンポイントであの場所にはもういけないわ」


 本当は誰よりも駆け出したいはずのメイは悔しそうに視線を落とす。


 異世界度とは異世と現世という確かな繋がりがあったからこそ可能だったわけだ。

 つまり、飛彩に無理やり戻された時点で蘭華達が取れる選択肢は「信じて待つ」のみで。


「何がダメよ、よ……ふざけんじゃ、ないわよ……」


 その呟きは飛彩への憤りか、無力な己への怒りか。

 蘭華は狙撃銃を力なく地面へ落とすと、鈍い音が響き骨に異常をきたすほどの力を込めて地面を殴り付けた。


「ううっ、うあああ……!」


「やめるんだ、蘭華!」


 急いで黒斗が手首を掴んで落ち着かせようとするが、蘭華の涙は止まることもなく。

 誰もが涙を決壊させようとした瞬間、駆け足と肺が裂けそうな息遣いが耳へ届いた。



「皆さん!」



「カクリちゃん……どうしてここが?」


 涙が落ち着くほどの驚きでホリィは声をあげる。


「あれだけ空間転移使ってたんですよ? 気配は誰よりもわかります、って」


 とは言え、その能力のせいでほとんどの運動能力を失っていたカクリには重すぎる運動だったようで顔は赤くなり、膝が笑っている。


「ちょ、ちょっと! 平気なのぉ?」


 素早く肩を貸した翔香にもたれかかるようにして息を整えるカクリはふわふわとした髪を汗で湿らせていた。


「死ぬ気で戦ってきた皆さんが、帰ってきたのに、お出迎えしないわけには……」


「と、とりあえず落ち着きなよ」


 膝に手を当てて息を整えたカクリは周りをゆっくりと見回した。

 その意図に気づいた蘭華やホリィは咄嗟に目を伏せてしまう。


「飛彩さんは? 飛彩さんはどこです?」


 誰もが答えたくない問いだからこそ、沈黙は雄弁な真実となってしまうものだ。


 みるみるうちに曇っていくカクリの表情は、やがて覚悟していたものへと変わる。


「嫌な予感は、してたんですよね。そもそも異世に乗り込んで皆さんが帰って来れるだけでも……」


 わかりやすい痩せ我慢に蘭華は自らの胸の疼痛よりも、後輩を優しく支えることを選んだ。


 蘭華の胸の中でカクリの嗚咽が周りに響く。


「飛彩はまだ戦ってる。だからきっと……」


「が、我慢してるのは蘭華さんの方でしょう?」


 自分を後回しにする蘭華の優しさはカクリにとって苦しさでしかなく、その胸からゆっくりと離れた。


「カクリちゃん……」


 そしてカクリに能力を植え付け、一方的に奪い去った張本人であるメイが歩み寄る。


 すでに鎧は消え去り、見慣れた白衣と目元に浮かぶ隈が日ごろ接してきたメイだとカクリに訴えかけた。


 カクリもまた、メイを恨んではいない。

 一方的な別れには苛立ちつつも、飛彩たちの戦いを支える力をくれた存在なのだから。


 しかし、メイの表情は謝罪でも慰めをするものでもなく、一つの方法を思いついた科学者のそれだった。


「飛彩を連れ戻す手はまだあるわ」


「なっ、メイさん本当ですか?」


「何故黙っていた?」


「黒斗くん怒らないで。カクリちゃんが来てくれなかったら出来なかったことなんだから」


「ど、どういうことです?」


 夜に身を預けようとしていた空のように沈んでいた一同に光が戻る。


 冷静に黙っていた春嶺ですら、驚きながら顔を上げてしまうほどに。


「私は確かにカクリちゃんから空間移動の能力を奪った。私自身の移動能力を渡してたからね……それについては本当にごめんね…カクリちゃん」


「それは後でいいです! どうやったら飛彩さんを連れ戻せるんですか?」


 メイへと縋るように抱きついたカクリは真剣にメイの顔を見つめた。


 その自己犠牲の心に危うさを感じながらも、その手しか取れぬとメイは覚悟と共にその言葉を紡ぐ。


「カクリちゃんの身体にはまだ能力の残滓が残ってるわ。あの一瞬じゃ、全部取れないからね」


「なるほど。カクリちゃんの空間移動なら本部にも知れ渡っている!」


 察しの良い刑は冷静な仮面を捨てて珍しい満面の笑みを見せている。


「つまりどういうことだ?」


「熱太くん……つまりね、こちらの正体を知られることなく飛彩くん呼び戻すゲートを作れるかもしれないんだ」


 やれやれとさせられながらおこなった解説はいまいちピンと来ていなかった熱太や翔香にも名案じゃないかと飛び跳ねさせる。

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