波乱に満ちた式典から、さらに数年の時が経過する。
意外にもあれから、ヒーロー本部に対する世間の風当たりは少なかった。
飛彩の見せた戦いと最後の言葉も大きな影響を与えている。
しかし、意外にもヒーロー本部のスポンサーであるセンテイア財閥が、率先して被災者を援助して復興に寄与しているからかもしれない。
事実、ヴィラン撃破の功績によりカエザールは政治を操作するほどの権力を手に入れたがそれを私利私欲のためには使っていなかった。
本当に援助が必要なものを助ける平等な政治や経済援助で、国の安定を計画しているようで。
諸々の報告を済ませた黒斗とメイの二人は最後の仕事を済ませ、護利隊の解体に印鑑を押した。
「長かったが……戦いの後始末も終わったと言えるだろう」
メガネを直した黒斗は相変わらず切れ長な瞳で他を圧倒していた。
迅速に様々な事象に対応するスーパーマンで、と言う意味でだが。
ちなみに護利隊とヒーロー本部は特別復興団体として国の傘下へと降っている。
ヒーロー本部はその功績を称えるために存続するようだが、縁の下の力持ちが不要なほど復興した世界で護利隊はとうとう解体されるようだ。
「そうね。本当にお疲れ様……こうも復興の後始末がかかるなんて」
「ヴィランや展開力の影響がない、と科学的に示さなければ人々は納得しないものさ。お前にはその能力をかなり役立ててもらったな……」
人類より長い戦いの歴史を感じるメイだが、今や人間同然の力と寿命になっている。
数年で見た目が変わることもなく、隈のない健康的な見た目が麗しい見た目を際立たせた。
オーロラのように緑がかった髪も衰えない美貌を保っている。
とはいえ短くなった寿命をどうするか考えつつ、黒斗と共に護利隊に残って被災区域の復興作業を進めていたようだ。
真っ当な生き方を知らないメイだが、退職後には是非うちにと様々な研究機関からの誘いが舞い込んでいるらしい。
「お前はこれからどうするんだ?」
「んー、考えてない」
「お前ほどの頭脳があれば難病がこの世から消えてしまうだろうよ」
執務室から出て行った昼下がり、明るい護利隊本部の廊下を見るのも今日で最後となる。
「世界をよくするとか、そういうのは黒斗くんがやればいいんじゃない? 政治家とかになってさ」
「出馬する気はないぞ」
「えー? そうなの? 結構天職だと思うけど?」
「まぁ……今回は、な」
冷静な顔つきから出た慈愛の笑みに、思わずメイは顔を赤く染める。
「それに、俺一人ではどうにもなるまいて」
「仕事なくなっちゃうし。秘書とか出来たら楽そうだなぁ〜って思ってたんだよね。その気があるなら好都合っていうか〜」
茶化すように笑ったメイは、照れた顔を見られないように一歩先に踏み出した。
黒斗は素早く手を伸ばし、メイの細い手首を掴む。
「な、何?」
急いで振り返ったメイは平静を装うので精一杯で、まともに黒斗の顔を見れずにいる。
だが、途中から何百年も生きてきた自分が何故こんなにも振り回されているのかと逆にふつふつと怒りが湧いてしまうほどで。
「今までは上司と部下だったが……人とヴィランだったかもしれないが、もう関係ない」
赤みが差す表情に黒斗も精一杯の勇気を振り絞っていることが伝わっている。
「これからも……いや、これからは俺の隣でメイに支えてほしい」
引き寄せながらよ告白に思わずオーロラがかった髪の毛を鷲掴みにしてメイは顔を隠す。
「ちょ、ちょっと何言ってるのよ、こんなおばあちゃんをからかって」
完全な人の身になったメイだが、このような展開は想像していない。
いかに創造の悪と言えど、身を固めて誰かと添い遂げる想定外なのだろう。
「本気だよ。お前と一緒なら総理大臣だろうとなんでもなれるさ」
「こ、こういうのは私の担当じゃないと思うんだけど……」
口では言いつつも、黒斗の告白を喜んでいるメイがいる。
この数年、ほぼ一緒に過ごしてきた故に絆はヴィランとの戦いの時以上に深まっているようだ。
死に物狂いでメイを止めようとしたこと。
働きづくめなメイを想う一面を見せるところ、と今までの良い思い出ばかりがメイの脳内をめぐる。
飛彩の親代わりもやめたメイは自由を謳歌出来たはずだが、護利隊に残って黒斗を献身的にサポートした時点で
答えは出ているようなものだった。
今まで見ようとしなかった気持ちにメイの心臓は早まり、否が応でも理解させられる。
「これからも一緒にいてくれるか?」
長い廊下を歩くのは、これからの二人の人生を示しているようで。
「……わ、私でよければ喜んで」
先に見える眩い場所が栄光に繋がっているようにも思えた。
二人はそのまま無言になるものの、光の方向へと肩を寄せて歩いていった。
人々の時間が前に進んだようにヒーローたちの時間も前へと進んでいる。
国の自衛部隊を要請する大学に進学した熱太は、長い訓練期間を終えて長期の休みに入っていた。
しかし、実家に帰省する同級生が多い中で一人寮に残って訓練に明け暮れるのは熱太らしいだろう。
「ふっ……ふっ……!」
赤みがかった髪が汗を纏い、筋骨隆々とした肉体は汗で濡れていく。
山や訓練場に囲まれた学校を出て、街へと繋がるランニングコースを延々と走り続ける。
夏の照りつけるような日差しを浴びて、日焼けする熱太はより精悍な印象を思わせた。
「そんなに特訓してもヴィランは出ないわよ」
「エレナ……お前こそ、休みなのに何やってるんだ?」
参謀などの後方部門へと進学している同級生に熱太は立ち止まって笑いかける。
熱太のためにヒーローとなって戦っていた少女が、再び戦いの門を開いたので中々に驚かれたらしい。
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