「と、言われても、そんなに早く戦況把握なんて……!」
「そーよそーよ」
狼狽るホリィへと投げられる気楽そうな声。
「ホリィ。今から二秒の間、始祖をそこに押し留めて」
「蘭華ちゃん!?」
驚きつつも親友のもたらす言葉を反射的に行動に移したホリィはフェイウォンはその場から二秒間動かない未来を導き出した。
(ぐっ、自身と確定する未来の位置を同じにされると厄介だな……!)
想定外の効果を発揮していたことを誰も気づくことなく、飛来したララクの踵落としがフェイウォンを釘のように地面へと打ち込みクレーターを作り上げる。
「なっ、ララク!?」
「充分休ませてもらったから!」
先ほどまでの憔悴しきった様子とは打って変わって、いつもの溌剌としたララクは忌み嫌っていた恐怖の龍の力を部分的に解放している。
薄いドレスのままでありつつ、叩き込んだ右足は龍の鋭い装甲が装着されている。
「あれほど忌み嫌っていた能力を纏うか、ララクよ」
「とーぜん! 自分のプライドなんかより友達の方が大事だもん!」
「生半可なヴィランの分際で。お前は人間に戻りたがっている哀れな存在に過ぎんわ」
「あっそ。そんな私たちの親は一番哀れな存在になるわね」
恐怖が届く相手ではないと理解しているが故に、展開力を純粋な膂力の塊へと変換した拳や膝蹴りを巧みに打ち込んでいくことで未来確定の力を使わずとも大きな隙が発生する。
「今よホリィ、相手が無防備な状態で未来を決めれば効果は絶対! もちろん攻撃を当てるのは……!」
「飛彩くん! お願いします!」
「おう!」
高くジャンプしたその姿は、いくつもの半透明なヴィジョンと重なっていき、すぐに予定していた結末へと到達する。
「オラァ!」
「くっ!」
ララクとバトンタッチしたのも束の間、飛び蹴りが炸裂してフェイウォンは数メートル地面を転がった。
さらに炸裂した左足から放たれた展開力はフェイウォンの周りに留まり続けて、溢れる生命力でヴィランの展開域を蝕み続ける。
「ナイスだララク、蘭華! それに、ホリィもな!」
「防御も行えているのだ。何をそんなに喜ぶ?」
ダメージは相変わらず微々たるものだが、ララクが加わったことにより攻撃のバリエーションは増えた。
さらに離れた位置から戦場を観察する蘭華が作戦指揮にあたることで、ホリィも本職の戦いへ専念することが出来る。
「ヒーローが増えれば勝利へ近づくってもんよ!」
「ララクはヴィランだぞ? 心から友愛があるとでも?」
「当たり前だ! ここにいる誰もがララクを疑ってねぇよ!」
その叫びに呼応する全員を見たララクは、自分の居場所はやはり現世にあったのだと痛感する。
これは人から引き離され、命を求める哀れな存在ではないとララク自身が何よりも感じられていた。
「私は皆と共に生きる! ヴィランとか人間とか、もう絶対に関係ないから!」
そのまま飛彩、ララク、刑を中心とした超接近戦組が互いに攻撃がぶつかってしまうのではないかという距離感でも巧みな連携を発揮していく。
これはレスキューワールドの展開効果を他の味方同士でも発揮できるよう集中していることが明白だった。
「羽虫の分際で……!」
「その羽虫に追い詰められてるのはどこのどいつだ! あぁ?」
蘭華の参入による指揮はヒーロー達の精神的疲労回復に大いに貢献している。
だがそれよりもフェイウォンにとってララクの参加は非常に厄介なものとなっていた。
(分かっていても、ヴィランからの攻撃は察知しにくいな……私の展開域の上だからということもあるが、似通っていてどうにも捕捉出来ん)
その微かな違和感をドローンカメラ越しに発見していた蘭華はすかさず無線でララク中心の戦闘構成へと指令を飛ばす。
もちろん未来確定をララクに有利なようにかけられることもあり、今までに以上に防御なしで打撃を当てられるようになっていった。
「ララクと飛彩ちゃんが……いや! みんながいれば最強だもん!」
「そうだな! 合わせろ、ララク!」
「うん!」
龍の鎧を右足に顕現させて破壊力を格段に上げた前蹴りと飛彩の深緑の左足が放つ横蹴りが二色の軌跡を描いてフェイウォンの胸部へと炸裂する。
「ぐおぉっ!?」
亀裂どころか一気に砕け散るフェイウォンの鎧。
しかし、すぐさま揺らめく鎧は元の姿へと戻っていく。
「ちっ……」
「大丈夫よ飛彩ちゃん。鎧の修復にはかなりの展開力を使うの。しっかり削れてるわ」
「そりゃ良い知らせだな」
ヴィランと人が手を取り合って戦っている光景。
そもそも、元は人の悪しき部分だったヴィランからすれば人と共に戦うことは本能の部分では特段おかしな話ではないのかもしれない。
しかし、離れたところで茫然と戦いを眺めていたリージェにとっては別だ。
命は支配すべき対象という凝り固まった考えが邪魔をして、冷静に物事を見ることが出来ていない。
脅かされない世界で生きていくということは、フェイウォンを倒して異世を手中に治めるのが手っ取り早く飛彩達に手を貸した方がその実現は遥かに容易い。
それでも共に戦えないのはヴィランの実力者としての矜持なのだろう。
「そうだよ、狙え……いいとこ取りで良いじゃないか。卑怯が何だ、僕はヴィランだろう」
まるで言い聞かせるようなリージェはやっと戻ってきた腕を何度も確かめるように握っては開いてを繰り返す。
そして、戦場から視線をそらして耳を塞いだ。
(でもなんで……あんなにララクが輝いて見えるんだよ!)
読み終わったら、ポイントを付けましょう!