さらに深い姿勢をとった黒斗から発せられた威圧感は、メイに慌てて展開弾を乱射させるほどだった。
対する黒斗も全てのインジェクターを刀の柄に突き刺していき、一時的な展開出力上昇を発揮する。
どんなに刀の威力を高めようと、それを振るう黒斗は生身の人間であり翼があるわけではない。
そこでメイは本能的に刀身を伸ばす攻撃をしてくるのではないかと、結論付けていた。
その選択肢も黒斗には取ることも出来たが、それを選んでいたら黒斗の敗北は決定的なものになっていただろう。
『激・注入!』
何度も鳴り響く機械音と鞘から迸る展開力はそのオーラだけでメイの放つ闇弾を無効化するのではないかというほどである。
しかし、黒斗は居合の姿勢を解かず、降り注ぐ攻撃を気配だけで躱していく。
(落ち着け、乱れるな)
自身の思い描くパターンを探しつつ、すり足と縮地を組み合わせた音もない瞬間移動は分身のようにも見える。
飛彩が戦いの天才だとしたら黒斗は達人であることは間違いない。
「グヌっ!?」
どんどんと道路がクレーターだらけになり醜くなっていく中、黒斗の足運びだけが静かに安全地帯を縫っているのだ。
「ヌア!!!」
爆音鳴り響く地獄において黒斗の心境はただただ静かだった雑音を一切耳に入れず、メイへと放つ一太刀にのみ集中している。
暴走しそうな刀身、メイを操った始祖への怒り、それらを全て心から捨て去った。
黒斗の集中力が深くなればなるほど、充填された展開力も迸ることをやめて刀身へと浸透していくかのようだった。
メイの荒々しい展開域の中で、研ぎ澄まされていく黒斗は再び透明人間になるかの如くメイの意識から抜け落ちていく。
「アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
自身の攻撃で視認性が落ちていることから、攻撃の感覚を控えたその隙が黒斗には絶好の機会となる。
(これは好機!)
回避にわずかな余裕が生まれ、攻撃の一手を最善にするべく周囲へと神経を張り巡らせた。
もはや体の外のことも手足のように知覚した黒斗は瞳を見開き、攻撃が成功するイメージまで固めていく。
「……ここだ!」
自身の数歩前に闇弾が着撃する数秒前。
黒斗は自身の足元に切れ込みを入れるように抜刀した。
音もないほどに滑らかな切れ味は、攻撃の不発を感じさせるほどで。
しかし、一時的な展開力が付与された刀には道路など切れ味を鈍らせるものでもなく、周囲へと長方形の切れ込みを刻んでいる。
しかも展開力により刀身を自在に曲げた黒斗は、自分の足場を作るかのように道路をブロック状に斬っていたのだ。
「いくぞ!」
その謎の行動の答えはすぐに判明する。
前方に着撃すると予想していた通りに闇弾が道路に炸裂した瞬間、投石機から発射される岩塊のように黒斗は空へと飛翔する。
「ナッ!?」
長方形のブロックを足下に作った黒斗の前に闇弾が着弾し、その中央は見るも無残に折れていた。
それにより、ブロックの外側は凄まじい勢いで盛り上がっている。
さらに降り止むことのない闇弾の爆風が黒斗をさらに後押ししていた。
「ゥア!?」
平常時のメイならば十分対応出来ただろう。
しかし太刀を振り上げて数十メートル上空まで飛び上がることを予想出来なかった誓約下のメイは攻撃を止めることが出来ずに黒斗を押し上げるだけになってしまった。
「メイ! いい加減目を覚ませ!」
一瞬で太刀の間合いへと近付いた黒斗は正中線からメイを鎧を断つような寸分狂わぬ一閃を振り下ろした。
「ガァァ!」
「くっ……?」
だが、メイもまた抗うかのように両腕を目の前で叩く荒々しい白刃取りを披露した。
空中で鬩ぎ合う二人からは黒と白の展開力がオーラとなって辺りに散らばっていく。
わずかに黒斗の方が位置が高く、全体重を載せた一撃を放っていることもあり、メイが受け止めている限りは空中に留まれるだろう。
しかし誓約に冒されているメイも簡単には引けなかった。
武器を展開力で引き伸ばすという行為を見せつけていたことが功を奏したのだろう。
故に空中でのぶつかり合いは拮抗してしまった。
長引けば一時的な出力である黒斗に勝ち目はない。
メイが白刃取りで受け止めたのも、出力切れのカウンター狙いということだろう。
(メイを傷つけずに、鎧のみを斬る……しかも、この拘束を振り解いて、か)
悠長に考える暇はないものの、状況を客観的に考えた黒斗は命を捨ててでも勝利しなければと眼鏡の奥の瞳を鋭く燃やす。
「リベレートコード、リアライズドーピング」
その一言の後、強化スーツの破損していなかった部位が光り輝き黒斗自身へと一時的な展開力を流し込む。
その反応は遠く離れた司令室にも届いていたようで、黒斗の生体反応が送られてきているモニターへ英人は釘付けになった。
「あの馬鹿、人体へ直接インジェクターを打ち込んだのか!?」
司令室に動揺が走るものの、黒斗のことに感けている暇はなく再び最前線へと怒号が飛び交っていく。
眼前にいるメイもまた、黒斗の捨身を感じたようで動きが止まってしまっていた。
飛彩ですら注入口に突き刺すことで力の増幅を得ていたというのに、黒斗の強化スーツにだけは人体に直接投与出来るように奥の手が隠されていたのだ。
いくら黒斗が戦いの達人とはいえ、身体は一般人である。身に余る力の奔流は、単純に利点だけを与えない。
「無茶するのが上司の役目、だろう?」
読み終わったら、ポイントを付けましょう!