隕石が如く繰り出された足を待っていたと言わんばかりに、飛彩は腰につけていたハンドガンを再び乱射する。
それは至近距離であったこともあり、弾かれずめり込む形で留まる。
「——釣れたぜ、大物がよ!」
「なにぃっ!?」
無意識的に動いていた飛彩はギャブランの上へと跳ぶ。
更にめり込んだ炸裂弾の爆風が、更に飛彩を上に押し上げた。
「人間風情が! どこにそんな力がっ!?」
「あるさ、あるさあるさあるさ! あるに決まってるだろ!」
『注入!』
渾身の力に上乗せされるインジェクター世界展開の効果は、飛彩の振り下ろす小太刀の威力、さらには切れ味を極限にまで高めていく。
「お前があの人を殺さなきゃ……俺があの人を殺さなきゃ……こんな世界にはなってねぇ!」
流星のように一直線に兜へと突き刺さる飛彩の斬撃。
勢いに加え全体重がかかった斬撃は兜の左目部分を大きく削り取った。
「だったら責任は自分で取るしかねぇだろおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
そのまま、鎧の表面を大きく削り取る形で着地した飛彩。
流石のギャブランもカウンターする余裕もなく片膝をついた。
空洞の鎧の中から溢れ出すのは白黒のカジノコイン。
ヴィランズは鎧そのものの生命体であることが多い。
ハイドアウターの中身が靄だったように力の源が鎧の中に詰まっている。
「この時をずっと待ってた! 本当はヒーローなんざどうでもよかったんだ! お前を殺す! それだけでよかった!」
吠える飛彩もまた満身創痍。
急いで駆け寄った蘭華が肩を貸さなければ飛彩も倒れ込んでいただろう。
「——殺してやる」
それ以降何も発さない飛彩が立ったまま気絶していることに蘭華は気づいた。
復讐心だけが飛彩を突き動かし、死にかけの身体をマリオネットのように操っていたのだ。
「殺す、だと……強い言葉を弱者は使いたがるものだ」
展開で傷口に膜を張り、応急処置を済ませたギャブランは賭けで、見た目を元に戻した。
「一撃入れたからといい気になりおって……」
突然現れた巨大なコイン。
仕込む時間があればとんでもない賭けを行うことも可能だと推理していた蘭華の表情が曇る。
「この場にいる人間は塵となる! 私は裏に賭けよう!」
展開力を少しだけ広げ、光の柱ごと消し去ろうとするギャブラン。
蘭華が銃を乱射したところで意味はなく、攻撃を意に介さず展開力を賭けに注ぎ込んでいく。
「終わりだ。美しい勝ち方ではないが、最後に立っているのはこの私!」
そのセリフを聞きながら蘭華は銃を降ろす。そのまま飛彩を抱きしめて座り込んだ。
「はっ、諦めたか?」
「ここからは選手交代よ」
その言葉が頭に血を登らせていたとギャブランを反省させた。
すぐに賭けを中止して背後にあった光の柱へと飛びかかる。
「させんっ!」
「二分、守りきったわ。後はよろしく……ね」
精神をすり減らしていた蘭華も飛彩にもたれかかるように倒れる。
ヒーローに頼るというのは飛彩は良く思わないだろうが、命には替えられない。
「飛彩、カッコよかった……私は、そんなあんたがずっと好きだった」
それと同時に光の柱が弾け、中から三人のヒーローが飛び出してくる。
飛びかかっていたギャブランは空中で三人を相手取り、拳を交える。
「キラキラ世界は私が決める! 聖なる世界へ! ホーリーフォーチュン!」
「慈愛の心で世界を救う! 麗しき魂! レスキューブルー」
「楽しい意思で世界を救う! 元気な魂! レスキュー! イエロー!」
魔法少女のようなふわりとした衣装に身を包むホーリーフォーチュン。
青い戦闘スーツに身を包むレスキューブルーは豊かすぎる胸が強調されるスーツながらも恥ずかしげもなくその体躯を晒している。
打って変わって少年のような身体つきのレスキューイエローは元気いっぱいに戦場を駆け回り、ギャブランを翻弄した。
そう飛彩の善戦でヒーローの変身時間は守られたのだ。
「……賭けに熱くなったのはいつぶりだ? あのガキめ、やってくれたな」
賞賛にも似た言葉と共に放たれた一枚のコイン。
見事に仕事を全うした飛彩への手向けと言わんばかりに、飛彩の近くへと落ちていった。
「いっくよー!」
能力行使で隙を見せたギャブランの鎧へと四方八方からの打撃が襲った。
その正体は幼げ残る声で叫ぶレスキューイエローだ。
「まだまだ速くなるよー!」
「そんな軽い拳では、何億発放とうと……!?」
「あなたの未来は私が決めます!」
俊敏な動きで残像を作り上げたイエローのおかげで、ホーリーフォーチュンの放った能力の残像がどれなのか全く判別がつかない。
なまじハイドアウターから能力を聞いていただけあって、動きが数秒遅れてしまう。
その隙を突いたレスキューブルーが固有武器であるフローズンウィップで凍て付かせた。
「やったわ! フォーチュン! イエロー!」
「翔香さん! 合わせてください!」
「まっかせて〜!」
空中で縛り上げられたギャブランを抱え、レスキューレッド譲りの投げ技を披露する。
「グランドバスター!」
「ぐおぉぉ!?」
地面に叩きつけられた瞬間に縛り付けていた氷のムチが炸裂し、氷の剣山が出来上がる。
ギャブランは地面に落ちる瞬間に、自分のヴィジョンが見えていた。
これがホーリーフォーチュンの能力か、と身を以て体感する。
すると眼前に現れたホーリーフォーチュンに驚かされるが、それが発生したヴィジョンだとすぐに気付かされた。
すぐにヴィジョンと本体が重なり、落下の勢いが合わさった蹴りが胸部へと直撃し、氷の剣山を粉々に砕いていく。
「女だからってナメてかかると痛い目に合うってやつですよ」
「へへ〜ん! 先輩直伝の技が決まりましたぁ」
「手負いだったみたいだけど、油断しちゃダメ。来るわよ」
そして三人の眼前に発生するヴィジョンに驚くブルーとイエローだったが、ホリィにより吹き飛ばされているヴィジョンだと知ると二人はすぐに冷静さを取り戻す。
「ほらっ」
「何だと!?」
現れたヴィジョン通りの未来が訪れギャブランは勢いよく地面へ這い蹲った。
「……驚異的だ『NO.7仕組まれた因果律』」
靄のヴィランから漏れていた情報に歯噛みするホリィは、続けざまにヴィジョンを発生させ、ギャブランに拳撃の嵐を見舞う。
「はっは! 本当に避けられんか! まるで運命に導かれるようだ!」
「くぅ〜! か、硬いですねっ!」
「君こそ、女性が振るう拳の重さではないな」
飛彩が全身全霊をかけた結果が、兜の一部を破壊しただけ。未だに鎧の強固さは健在だ。
特に素手で戦うホーリーフォーチュンとは相性が悪いかもしれない。
それでも一方的に攻撃し続けられる時点で、戦いは均衡状態のままとなる。
レスキューブルー、イエローがアシストしていくも決定打は与えられない。
「どーする! このままだとこいつらの部下とか集まってきちゃうんじゃない?」
「分かってるわ……こういう時こそ、冷静に……」
息を整える二人を差し置いて、ホーリーフォーチュンは展開を一気に縮ませ、その分濃度の高い空間を作り上げる。
「ジャッジライト! カモン! トゥルーエンディング!」
初めてこの技を使った時は、未来に行われるであろう全ての攻撃を使うという離れ業だった。
しかし、ホーリーフォーチュンの能力は打撃だけに留まらない。
「ホーリーライズ・ホワイトアウト!」
両手からに集まるキラキラとした星屑がそのまま螺旋を描く波動へと変わる。
それに包まれたギャブランは自身のエネルギーそのものに干渉する技だと即座に察知するも動けず、攻撃を受け続ける。
「ぬおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
なんとかコイントスのギャンブルでようやく抜け出すことに成功したが、肩で息をするような状態だった。
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