それからというもの、二人のデートは王道過ぎて取り上げる必要もないくらいのもので、服を買いに行ったりカフェで休憩したり、トレーニング用品を飛彩が熱弁したりと取り止めもないもので。
ただ普通の男女と唯一違うことは、人気ナンバーワンヒーローとそれを影から守る最強の一般人ということだ。
駅と直結の複合施設で遊んでいる時に、どこからか情報を嗅ぎつけてきたパパラッチが続々と集結してくる。
「飛彩くん、このダンベル使ってるんですね〜」
「ああ、ちょっと持ち上げてみな」
「ぐっ、ぐぬぬ〜!」
変身前は非力な少女であるホリィが瞳を強く閉じながらダンベルを持ち上げている中で、近くにいるパパラッチの首筋に手刀を放って気絶させる。
さらにそのパパラッチを店の外の共通通路にいる仲間のところまで一気に蹴り飛ばす。
意識を飛ばしたパパラッチたちは抱き合ったまま気絶し、人々の悲鳴と視線を集めていった。
「む、無理です……二十キロなんて持ってるだけで精一杯です〜!」
「悪い悪い、意地悪が過ぎたな」
パパラッチやマナーのなっていない野次馬を気絶させる荒っぽいやり方だが、そうして他者が注目を集めている間だけが飛彩とホリィの安息の時間になっている。
流石にやりすぎている上、ホリィに隠しながらよからぬ者たちを追い払うことに限界を感じ始めた飛彩は手を引いて目についたアクセサリーショップへと連れ込んだ。
「これとこれとこれ! 買ってやるからつけてろ」
試着もする暇もなく無理やり押し付けた顔を隠すような帽子、白い伊達眼鏡、金色の髪を縛り上げるゴム付きのリボンを装着させる。
金色の髪はまとめられて体の方に流すようにした。
太めの白い縁のメガネが端正な顔立ちに似合わず、微妙な不協和音を奏でている上に唯一服装に似合う白い帽子だけがホリィのセンスを壊滅的にさせずに済んだ。
「え、えぇと?」
「変装だ。つーか最初からさせた方がよかったかもなぁ〜」
無駄に人をぶん殴っちまったと右手をさする飛彩に対し、鏡の前で惚けるように立ち尽くすホリィ。
適当に買ったことを飛彩が若干公開し始めた瞬間、ホリィは嬉しそうに飛彩の前へ躍り出た。
「大切にしますね!」
「お、おう……?」
今度は逆に飛彩が困惑したが、喜んでいるなら良いかと安物のアクセサリーや帽子に彩られたホリィを見て、余計なことを考えるのをやめた。
その複合施設を出た後、若干センスの悪い見た目になったにも関わらずご機嫌なホリィは夕日へと姿を変え始めた太陽を見て、デートの終わりが近いことを悟る。
巨大な道路を跨ぐ長い歩道橋を歩きながら二人は帰路の方面へと歩き出していた。
「なんだかあっという間でした。こんなに楽しくて……蘭華ちゃんたちに悪いです」
「今度はみんなでどっか行ってみるか。俺以外の方が遊びに詳しい奴も……」
「また、飛彩くんだけと行きたいです」
伊達眼鏡の奥に光る瞳は真剣そうにして揺らぐことはない。
気恥ずかしくなった飛彩はそれに答えず、ただただ行くぞとだけ残して歩き出した。何とか話題を変えなければと頭をひねる。
「そういやホリィん家ってどこにあるんだ? 右足使って抱えていきゃあ誰にも気づかずに送ってってやれるぜ?」
「……大丈夫です。今日はヒーロー本部で撮影があると嘘をついて出てきてしまったので、そろそろ迎えがきます」
学校でも何度か視認していた黒いリムジンの迎えを回想し、ホリィが生粋のお嬢様であることを思い知らされる。
「そんな恰好で撮影? 騙せるのか? そんな嘘で」
「ええ……父はヒーローの私にしか興味ありませんから」
「……」
共に歩きながら帰路に着く。
かつて病室で聞かされた家族との関係性を思い出し、たびたびホリィの心の奥に見える影の原因はそれかと察した。
「——父は、私に危険な橋を渡って欲しくないそうです」
「良い父ちゃんじゃねーか。前病室で聞いた話と印象が違うように感じるぜ?」
「いや、何も変わっていませんよ」
振ってはいけない話題だったと後悔するが既に遅く、重苦しい雰囲気が二人の間に流れる。
夕日の寂しげな光が、悲しい雰囲気を増長させていくようで。
「あの人は、私が人気のあるヒーローになるように、そこそこ危険な任務のみを了承して危険な橋を渡らせないようにしているんです……結局、私もお金儲けの道具なんですよ」
「……不安ってそういうことか」
昼に話した奪還作戦に対する不安の意味を、家族との関係から飛彩は突き止めた。
あまりにも危険な作戦を親が認めないということだろう。
大見得を切ったのがホリィだとしても巨大なスポンサーであるセンテイア財閥が声を上げれば、簡単にその意思は通ってしまう。本人の意思ではどうにもならないほどの潮流だ。
「やりたいようにやりゃいいんだよ。まだ俺ら十七歳のガキだぜ? 失敗しようが何しようがまだまだいくらでも何とかなる」
気楽に答えたその言葉に帰ってきたのは、作り笑いだったことを飛彩は鮮明に覚えている。
どんな言葉をかけて欲しいんだよとは言えず、二人はそれ以上言葉を紡ぐことなくヒーロー本部近くまで歩いて行った。
「今日はありがとう。楽しかったです」
「——悪かったな。最後まで楽しませるつもりだったんだが、どうも俺ぁ仕事人間みてぇだ」
「それ以上に楽しいことばかりでしたよ! 何も気にしないでください!」
「なら、いいんだが……」
再びヒーロー本部の近くへと戻っていた二人はビルの隙間から差し込む夕日に照らされながら、ホリィの迎えを待っていた。
いろいろ話し尽くしてしまったからか、どことなく気まずい空気が流れる。
迎えの車が視界に入った瞬間、いを決してホリィは心の内に秘めていた言葉を投げかけた。
「——飛彩くん、私も一緒に戦いますから」
その言葉は屋上や記者会見で聞いた言葉とは異なり、迷いにあふれるものだった。
自分の意志と家族の言葉でせめぎ合い、迷いを何とか振り払おうと言葉を捻り出した結果が今である。
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