フェイウォンの本領発揮。
それは離れたところで戦っているリージェやユリラにも伝わり、指揮に縛られるレギオンの恐怖という本能を呼び覚ました。
しかし、本来ならば怯み上がるはずのヒーロー達は、敵の強大さを感じた上で飛彩を助けなければと闘志をさらに燃やす。
「レギオンが怯んでいる! 春嶺ちゃんと僕で人型を押さえ込む!」
「エレナ、翔香! キューカイブラスターでいくぞ!」
「はい!」
「ええ!」
メイの作った武器をいつでも呼び出す特殊能力は今も健在だ。
いかにレギオンが強大な怪獣だとしても展開力の波動で身体に風穴を開けられては一溜まりもないだろう。
「チッ、使えない怪獣達ねぇ! リージェ、貴方も働きなさい」
「……怪獣なんかに頼って……誇りってもんがないのかこのババァは」
ボソボソと喋るリージェは熱太との戦いしか眼中にない。
そんなリージェへと飛びかかる不可視の短剣は拒絶により簡単に弾かれた。
「僕イラついてるんだけど?」
「人間に似せた怒りなんて飾りだよ」
「……ねぇ、僕ってそんなに空っぽに見える?」
刑もまたリージェの逆鱗へと触れる。
ここまで怒りを買うことになるとは思ってもいなかったようだが、レギオンを相手取る熱太達へ攻撃の手が伸びないだけ重畳だと視線を細めた。
あくまでも冷静に、相手を刈り取る狩人であれと巨大な鎌を振り回してリージェとの接近戦に刑は挑む。
「だらしないわね、リージェ。私の指揮下に入ったほうがいいんじゃないの?」
「させない」
春嶺もまた射撃の檻へとユリラを閉じ込める。
指揮下に置かれて冷酷な殺人マシーンを相手するよりも怒りで我を忘れる相手のままの方が御し易いと判断して。
(とはいえ相手を封じられるのは、苦原刑や新志熱太がリージェより強い場合のみ……とにかくこの女を倒せば頭数ではこっちの方が上!)
堅実な思考でありつつも時折接近戦も織り交ぜるようになった春嶺のトリッキーな戦い方にはユリラも苛立ちを隠せない。
全方位から発生する跳弾、さらにその軌跡をいくつか見せるように射撃することでいつ攻撃されるか分からないという精神をさらに削るという戦術は凄まじい効果を上げている。
防御ではなく攻撃に打撃が入ることで、さらに攻撃の手数は無限に増えていく。
指揮が鈍れば、レギオン達も恐怖を振り払うことは出来ない。故にキューカイブラスターは着実に威力を発射台に溜め込んでいけるのだ。
「レギオンは強大だが、こうなれば烏合の衆だ!」
「ええ、一撃で全滅させましょう!」
「全部注ぎ込みます!」
バズーカ型の大型銃は熱太が担ぎ、その背中へと二人が手を添えることで展開力を一つにするレスキューワールドの合体奥義である。
その展開力の奔流は堅いレギオンの鱗もたやすく穿つだろう。
そんな切り札を放置するわけにはいかないとユリラが果敢に攻めるも白いローブを纏う春嶺は翻弄するように跳弾を繰り返し続けた。
「くっ、目隠れ女! さっさと退きなさい!」
(大丈夫、この女の動きはも見切った……指揮だけで格闘も私の方が上!)
「リージェ! この女も何とかしなさい!」
「はぁ? 仕方ないなぁ!」
左右の掌から放たれた拒絶波動に刑も春嶺も大きく吹き飛ばされた。
抗えば折れてしまいそうな両足に逆らわずに距離を取る。
「散々調子に乗ってくれたわね」
着地を潰そうとしなやかな脚が黒い大地を踏みつけていく。そのまま刃のようなヒール春嶺の顔面目掛けて振り下ろされた。
「私の舞台に立てたこと、光栄に思いなさい」
(……はっ! まずい、勝てると思うように指揮されてたのか……!)
知覚出来ないほど僅かな緩み。
それを作り出すためにフェイウォンの指揮に怯えたレギオンの指揮を捨てたユリラはまさに策士だった。
物量で押すという展開すらもブラフに活用するのは一重に、たった一人の相手を葬るためである。
「本当は甚振りたいところだけど一撃で葬ってあげる!」
長い足から繰り出される踵落としに乗った威力は春嶺の格闘技や射撃の展開弾で止めることは出来ない。
故にユリラは勝利を確信したのだ。
「ヒーローがタッグを組めば、誰にも負けないってこと覚えた方がいいよ」
そう呟きながら春嶺が二丁のマグナムを出来る限り乱射したものの、弾丸はユリラの足の鎧に弾かれていく。
「往生際が悪いわね!」
「お前も私が跳弾の使い手だと忘れたか?」
あらぬ方向へ飛ばされたはずの弾丸は様々な方角からリージェを取り囲む。
予想だにしない方向からの攻撃に自身の周囲へと拒絶壁を張った僅かな時間。
それが刑を自由にした。
「惨刑場!」
不可視の斬撃を作り上げる刑の能力はクラッシャーによる「武器創造のみの能力」というダウングレードを経験したおかげで、本来メリットである「不可視」を無効にすることで強度を上げられるという法則を発見していた。
そしてユリラの真横から足首に数本の槍が、最初からそこにあったかのように突き刺さっていく。
「なっ!?」
「僕の武器は相手に滅びを与える毒がある……今の攻撃には不可視よりも強度を! 鎧を崩壊させる展開力を重視した!」
土壇場でお互いの戦う相手を交換したという奇策。
痛みに怯んだことで春嶺を葬ることができないどころか、ユリラは串刺しになった右足を抑えて地面に蹲っている。
鎧を射抜くほどの槍投をほぼノーモーションで打ち込んだ刑は、すぐに二の手を繰り出した。
「不可視の鎖よ!」
透明な展開力の鎖がユリラを縛り上げ、ギロチン台に首を差し出すように前のめりの姿勢へと変わる。
「ぐっ!?」
屈辱的な姿勢を取らされたユリラは目線を上げることも出来ず、断首の時を待たされる。
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