【完結】変身時間のディフェンスフォース

〜ヒーローの変身途中が『隙だらけ』なので死ぬ気で護るしかないし、実は最強の俺が何故か裏方に!?〜
半袖高太郎
半袖高太郎

エンド・オブ・ザ・テラー

公開日時: 2021年3月22日(月) 00:14
文字数:2,065

 誰を責めることもなく飛彩もまたララクの右側へと回り込む。

 その場であぐらをかいたまま右手を優しく引き寄せた。


「クソみてぇにどでかい喧嘩になっちまったな……」


 思い起こすは出会った時、共に遊んだ時、拳を交えた時、とララクと会ってからの全てが駆け巡っていく。


「あの時、腹割って話し合えばこんなことにはならなかったのかもしれねぇ。お前がこんなふうになることもなかったのかもしれねぇ……ヴィランだと知って、勝手に信用できなくなったって俺が思い込んだだけだったんだ」


 仲間が拐われたらそれも仕方ないだろうと全員が考えることだったが、やはりヴィランというだけで一方的に恐れてしまう心があるのだと感じさせられた。

 そして、その垣根は超えられると今は信じられている。


「……お前はヒーローだろうと俺だろうと関係なしって感じだったのにな」


「悪かった、ずっとビビってよ。だけどもうお前は俺たちの仲間だ。だから……」


 強く握った手に反応はない。もはや手遅れかという空気が流れても飛彩は願い続けた。


「帰ってこい! ララク!」


 刹那、飛彩の握っていた柔らかく小さな掌がごく僅かだが振動を伝えてくる。

 驚いた飛彩が手を離し、仰向けに倒れたままのララクを覗き見た。


「今……」


「み、んな……心配、しすぎよ」


「ララク!」


「ララクちゃん!」


 ゆっくりと上半身を起こそうとするララクを支える飛彩に対し、ホリィ達も座り込んだままララクに詰め寄る。


「飛彩ちゃんが治してくれたの?」


 生きていることが不思議なのか穴の開いたはずの胸を触り、傷が塞がっていることに気づく。

 さらには身体に馴染む異世の展開が溢れんばかりに満ち溢れていることも。


「ここにいる皆と、メイさんのおかげだ」


「ありがとう、飛彩ちゃん、大好き」


「は!?」


 耳を塞ぐホリィ。目を覆うカクリ、そして蘭華はすかさず二人の間に割り込んだ。


「コラっ! 怪我人は興奮するようなことしちゃダメっ!」


 抱き起こしていた飛彩から引き剥がすようにララクに抱きついた蘭華はまたライバルが増えてしまったと肩を落とすものの、甦った友人をそのまま抱きしめた。


「やっぱり、ララクはララクよね。なんか気が抜けちゃうわ」


「蘭華……」


「ララクちゃん。また遊園地、いきましょうね」


「ホリィ。次は違うところがいいわ」


「あははっ。もう遊ぶ約束ですかぁ?」


「カクリもありがとう……こんな危ないところに迎えに来てくれて」 


 戦いの後に残った絆は尊く、ララクの身体に暖かい何かが芽生えていく。

 異世で戦わされていた時も、城を立てて人間の世界に憧れている時も。今と同じような胸の中に広がる暖かな気持ちになったことはなかった。


 自分のために全力で戦ってくれた存在、その確かな絆にララクの大きな瞳に涙を溜めていく。


「あ……」


 しかし辺りを見渡す中で、打ち倒した熱太たちの姿を見たララクは申し訳なさそうに顔を伏せる。

 それには蘭華達もどんな言葉をかければ良いかわからなかった。


 飛彩は目を細めてことの成り行きを見守っている。

 ララクは断罪されてしかるべき行いをしたという反省があるのだろう。

 どれだけヒーローが許しても、彼らには許されるはずがないと、ヴィランらしからぬ思考が胸に重い疼痛をもたらした。


「あ、あの……」


「元気そうで何よりだ」


 だからこそ、ララクはその一言に驚きを隠しきれなかった。ハッとあげた頭と共にじわりと全身が熱くなっていく。


「な、何で……? ララク、貴方達を酷い目に……」


「ふっ……まるで別人だな?」


「ええ。拍子抜けしちゃうほどにね」


「次は負けないって言おうと思ったのになぁ……もう戦うこともないよね?」


 敵意どころか恨む気持ちすら感じさせないレスキューワールドの面々に動揺が隠しきれず、その眩しいまでの正しさに罪人は目を逸らすしか出来なかった。


「俺が目を覚ました時に飛彩がお前を全力で救ったと言うことは、お前は飛彩を全力で守ってくれたのだろう? ならばもはや禍根はない」


「で、でも……」


「今や戦う理由もない。あれだけボコボコにされたのも俺たちが情けなかったんだしな……」


「あー、早く修行したい! 隠雅にも手伝ってもらお!」


 二人きりは許さないと蘭華達が翔香の頬を引っ張る中、ララクはとうとう大粒の涙をこぼした。


「ごめん、ごめんなさい……本当にありがとう、みんな……!」


 本当のヴィランならばここで騙し討ちでも何でもしてヒーローを殺し、侵略を再開するだろう。

 だが、ララクは暖かい絆を受け入れ感謝の涙に咽いでいる。

 そんな光景を見ながら、やはりララクを救ったことは間違いではなかったと飛彩は心の底から笑った。


 伸ばした右手をしゃがみ込んで泣いているララクの頭にポンとのせた飛彩は隣で立ったまま晴れ渡る空を見上げる。


「——やっと帰ってこれたな、ララク」


「……うん」


 飛彩たちは侵略区域を奪還しただけでなく何にも変えがたい友情を壊すことなく、より強固な絆を築き上げる。


 晴れ渡る太陽の光が闇に閉ざされた場所から解放されたことを喜ぶように光をより強く照らすようにして飛彩達を輝かせる。



 長い恐怖との戦いが、今終わりを告げた。

分かり合えた人とヴィラン。

全てを恐怖に陥れる存在は消え去り、その掌には暖かな思いが宿っている。


この気持ちを知り、他者に与えるために生まれてきたのだとララクはそう思った。


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『次章予告』


戦いの終わりに訪れる束の間の休息、傷を癒す飛彩たちだがヴィランを仲間に迎え入れることは覚悟だけではどうにもならず……?


次回! 第三部 五章!

『『『手を繋ぐ明日』』』


「守ってやるぜ! ヒーローの変身途中!」

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