【完結】変身時間のディフェンスフォース

〜ヒーローの変身途中が『隙だらけ』なので死ぬ気で護るしかないし、実は最強の俺が何故か裏方に!?〜
半袖高太郎
半袖高太郎

アンブレイカブル・クラッシュ

公開日時: 2021年2月20日(土) 00:02
更新日時: 2021年3月17日(水) 12:56
文字数:2,117

この謎が解けない限り、奇襲は不可能だと春嶺は展開力を高めることに集中する。

 バリアーノと対峙する飛彩は攻撃する意志に対して、防御で反応出来るのような能力だと推察した。


「そんな防御向きな力で戦い好きなのかお前?」


「敵の攻撃を受け切って、なすすべもなくなった相手をぶっ潰す。最高に楽しいぞぉ?」


 その挑発に乗るようにして何度も相手の裏を取って流れるような蹴りを放つものの、最初から真正面にいたかのような状況になり堅牢な両腕の盾に防がれてしまう。


「ほう、速さとかじゃなくて身体の向きを相手の攻撃の方に作り替えるみたいな感じか?」


「おでも詳しくはねぇ。だけんど、敵を殺せりゃ何でもかまめ!」


 振りかぶった拳を飛彩は後ろへと跳ねて避けるものの、硬い異世の鉱石で舗装された道が砕かれたことにより破片の散弾が襲いかかった。


「隠雅!」


 姿を隠していた春嶺は背中から取り出した自動小銃でバリアーノを牽制しつつ、飛彩を襲う前の石片を吹き飛ばしていく。


「おい、天弾……」


 こぼしかけた言葉を遮るように春嶺は牽制射撃を続けつつ、飛彩に一方的に要件だけを告げた。


「私が展開して全方位から攻撃する! それまで時間稼ぎお願い!」


「おっ、お嬢ちゃんも何か奥の手があるのかぁ〜。面白いなぁ! 長い間暇だった甲斐があったわい!」


 銃弾の雨をものともしないバリアーノに対し、苦悶の表情を浮かべる春嶺。

 その様子を見ていた飛彩は深く息を吐いて再びバリアーノの前に躍り出て射線を塞いでしまう。


「いや、ここは俺だけでやる。下がってな」


 髪の毛で隠れた瞳が開かれ、余裕そうな飛彩の言葉に慎重な春嶺は慢心を感じざるを得ない。


 春嶺の直感は正しく、バリアーノはミューパやハイドアウターと同じランクEのヴィランなのだ。

 ヒーローのバックアップをしながら数十分かけて倒す相手であるにも関わらず、飛彩は単身で戦うと宣っている。


春嶺が不安げな表情になるのも無理はない。


「この分からず屋!」


 侵略区域という敵地で冷静な春嶺が焦るのは必然だろう。

 一人で戦うという飛彩の言葉を無視して得意の跳弾を小銃で発生させ、バリアーノのさまざまな関節部分に同時に着弾するように銃弾をばら撒いた。


「これなら避けられないでしょう?」


 多くの銃弾が跳ね回り包囲網を固めるが、バリアーノはなんと筋肉に力を入れるかごとく全身の鎧に力を込めだけという単純な対処法を見せる。


「ぶぅむ!」


 甲高い音と共に銃弾は全てあらぬ方向へと弾き飛ばされてしまう。

 全身から盾のようなパーツが競り上がったところから見るに、バリアーノの能力は攻撃に対して完全防御で対応するといういかにも門番らしい能力のようだ。


「だーから余計な手出しすんなって言ったろ? 俺に任せて展開に集中しておけ」


「で、でも……」


 反論しようにも、緊急回避や戦いによる集中力の強化で展開力に割く意識が薄れたこともあり、変身時間のカウントは一切進んでいなかった。


 それこそがランクE以上のヴィランを相手取る際の精神のすり減り方とも言える。


 対する飛彩は絶対防御なる攻撃を見ても一切動じることなく、封印されていた左腕から黒い展開の輝きを迸らせた。


「ここは封印されていた左腕……支配ノ起源オリジンズ・ドミネーションだけで充分だ」


「おっ? 左腕だけでおでと? はっはっは! こりゃあ随分とみくびられたもんだわい!」


「みくびってねぇよ。まだこれしか使えねぇだけだ」


「む? そうなのか? すぐ終わっても楽しめんからなぁ……よし、好きなだけ打ち込んでこい!」


 自身の防御力に絶大な信頼を置いているバリアーノは大きな腕で腹部を叩き、鈍い音を辺りに響かせた。

 普通のヴィランの中でも単純に強度が高いはずの鎧が砕かれる想像など欠片もしていないようである。


「あっそ」


 これ以上の問答に付き合う気はない、と言った様子の飛彩は速度で惑わすこともなくただ単純に真正面から正拳突きを放つ。


 鈍い音を響かせたもののバリアーノは微動だにせず、滑らかな曲線の玉ねぎにも似た黒い頭部を揺らす。


「そんなもんかぁ!」


 豪快に笑うバリアーノだが、すぐに異変に気付いた。

 ぶつかり合っている盾と拳の部分から力の源が吸い込まれていくことに気づき、逃げようと後ろに重心を下げる。


 しかし百戦錬磨の飛彩がそんな鈍すぎる隙を見逃すはずもなく、防御している盾の上部を再び殴り付けた。


「ぬ、ぬわぁ!?」


 完璧に体勢を崩したバリアーノが轟音を立てて、真っ暗な空を見上げさせられる。

 倒れてもなお両腕をクロスさせて自身の防御力を全て注ぎ込み巨体を覆う巨大な盾を作り上げた。


 これで追撃は無意味、と嘲笑った瞬間。


「オラァ!」


「ぐっ!? ぶゲェッ!?」


 流れるように飛んだ飛彩は地面に向かって槌を叩きつけるように拳を振り下ろした。

 着撃と同時に盾は砕け、そのままバリアーノの顔面を半壊させる。


「お前の能力はすでに俺の支配下にあった……見せかけの盾じゃ俺の攻撃は防げねぇよ」


「な、何ぃ……!」


 今にも消えそうな命の灯火にとどめを刺すが如く、飛彩はバリアーノの誇る能力と頑強さを失望した様子で品評した。


「何でも防御するのはいいが……今みたいな守れない攻撃が飛んできたらどうするつもりだ? 攻撃そのものを拒絶する奴もいるんだ。所詮お前は下位互換だよ」

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