そして時は一週間後、ヴィランにとっては半日後の世界へと重なる。
「発生した異世からの亀裂はドームを中心に全方位に二百!」
「問題ない。ドームを囲うように設置した全百部隊に迎撃させろ。予定通り頭数を減らしておけ」
センテイア財閥が金に物を言わせて世界中から買い占めた重火器に、残された技術者である絡繰英人を筆頭にヴィランにも効くように弾丸に加工などを進めていたのだ。
「メイの奴が行方不明で幸運だった! ここで私の有能さを見せつけてやる!」
いつもならばメイのいる場所にふんぞりかえっている絡繰英人が息巻いている。
黒斗はもはや英人の出番はないがな、と心の中で嘆息しつつ戦況に目を光らせた。
英人を侮りつつも彼とメイが残していた技術がなければ迎撃も不可能だっただろう。
「弾が尽きるまで撃ち続けろ! 奴らはゲートからしか侵攻出来ない! そこを押さえれば奴らの世界も爆撃可能だ!」
「司令官の言う通り! 半径三十キロの避難は完了している! 私の兵器の有用性を示すのだ!」
冷静であるべき司令室に浮き足立つ存在がいるのはこの上なく鬱陶しい話ではあるが、英人の言葉は事実でここで出し惜しみするわけにはいかない。
爆撃が通信機越しではなく実際に聞こえ、耳を揺らすほどの攻撃にどの亀裂からもヴィランは誰一人侵略を開始することが出来ていなかった。
戦場はドームの外、誘導区域に使われている素材を設置しててきが出てくる場所を指定して迎撃。
それらの作戦が見事に刺さったことで現場の士気も高まっていく。
ヒーローも出撃不可能な絶望的な戦況だったにも関わらず、兵士たちには希望が芽生え始めていた。
人間達の思わぬ反抗にヴィラン陣営に動揺が走るのも無理はなく。
いくら高ランクのヴィランとはいえ、世界と世界の狭間という不安定な空間で攻撃を受け続ければ、謎のねじれに落ちてしまったり攻撃を受け続けて侵攻する者が次々と脱落していく。
中には全滅し、空間亀裂が完全に閉じてしまった場所まである。
「なんだ、これは……」
それを居城で眺めていたフェイウォンは侵攻を開始出来ない不甲斐ない眷属達に呆れるでもなく、冷静に状況の把握に努めようとした。
しかし一介の人間がこちらの作戦を全て読み切れるのだろうかという傲りを認めるしかないと冷静にも考えて。
「クリエメイト、発言を許可する。お前が何かしたのか?」
「いや、何も。私は命令された通りにしか動いておりませんが?」
他の受肉した存在と同じく兜を外しているメイは緑がかった美しい髪をいじりながら答える。
不真面目なようにも見えるが、制約による縛りはしっかりと効いていた。
フェイウォンもそれを知っているからこそ、それ以上の追求は無駄だと悟っている。
では、何故こうも作戦が見抜かれたのか、そこの疑問が膨らむばかりだった。
(始祖のヴィラン様には理解出来ないでしょうねぇ……仲間を信じるなんてことは)
「まあ。お前が保険をかけていた、と考えよう」
バルコニーからマントを翻して円卓に戻るフェイウォンは咎めることもせず、悠然と舞い戻ってくる。
同じく席に着かされているリージェやララクの瞳は操られているように虚なままだ。
「随分と余裕ねぇ?」
「むしろ、クリエメイトが雑魚どもを保険にしていたことの方が驚きだ。さすがの制約でも過去は縛れないからな。お前が昔何かしていたことまでは探れまい」
(保険……か)
メイの抱いている飛彩達への絆。それを言外のうちに察してくれたことにメイは安堵する。
とりあえず第一関門のようなものがあったとすれば、人類側はそれを何とか潜り抜けたことになるだろう。
(フェイウォンと異世に戻るときにドーム内部の時の流れを細工……そして一騎討ちで勝てないと早々に見切りをつけて時間感覚の乱れに全集中した)
メイはここまで仲間が自分の行動を読んでくれる、と信じて時間を稼いだのだ。
黒斗の読み通り、メイの思惑通りにことは進みヴィランの頭数は大幅に減り続け数の差というものが縮まっていく。
「クリエメイト」
「……何かしら?」
安堵の気持ちを一瞬で肺が凍るような感覚に引きずり戻されたメイはゆっくりと首を動かしてフェイウォンを見やる。
「今のお前に隠し事は不可能……何故、我らがあのドームのそばにしか進撃出来ないのか答えよ」
まだ人間達を仲間と思っているのか、のような問いでなくて安心したメイはもはやバラしても問題ないタネを披露する。
「あなたが作り上げたこの世とあっちの世界……その間はものすごく不安定なの。そこを展開力を使って周りを押し固めながら進むことで界渡りが可能なんだけど」
ヴィランならば誰もが知っている侵略もしくは逃亡方法にフェイウォンは円卓をつまらなさそうに指で何度か叩く。
「あら失礼。つまり、展開力を使って世界へと移動しているから出口に誘導されるものがあると引っ張られちゃうわけ」
「なるほど。お前が作った兵器の賜物というわけか。それらの停止も命じておくんだったな」
「人間達はそれを使ってドームの周りで迎撃しやすい位置に誘導したんでしょうね」
と、言いつつもドームの中で侵攻準備されれば計画は間違いなく破綻していた。そこに関してはドームに入らないほどに兵力が集まるまで戦いを引き伸ばしたメイの努力も関係している。
「展開力が多ければ大きいほど、そこへ吸い寄せられる……か」
「でしょうね。まあ弱いヴィラン達はもうさっきの戦いとか今のでほとんど死んじゃってるだろうし。もう簡単には行かないわね」
考えれば考えるほど偶然が積み重なる奇跡のような状況だが、全ては黒斗達の信じる心とメイの自己犠牲の産物と言えよう。
そんな妨害を絆や信頼などと無縁のフェイウォンが気付くこともなく。
出鼻を挫かれた状況だがヒーローがいない人類側の蹂躙は高ランク帯が一人でも現世に移動できれば充分すぎた。別の場所にポータルを作って進軍し直せば充分立て直しも可能だと。
「お前達三人は私の傀儡……兵士が戦えないのであれば指揮官に責任を取ってもらおう」
その言葉に身体の底から湧き上がる黒い衝動にメイは目眩を起こす。
瞳の白い部分が黒に染まっていき、暴虐のかぎりを尽くしたい衝動に震えた。
「いけ。雑魚どもを盾にすればお前達だけでもあちらに向かえるだろう。侵攻ルートを確立するのだ」
「……は、か、かしこまり、ました」
服従の言葉が意に反して喉から絞り出される。
その不快感に喘ぐメイは立ち上がろうとするリージェとララクを見つめる。二人が覚醒すれば形勢も覆せるかもしれないと。
「……いや、やはりクリエメイト一人で行くがいい」
「!?」
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