【完結】変身時間のディフェンスフォース

〜ヒーローの変身途中が『隙だらけ』なので死ぬ気で護るしかないし、実は最強の俺が何故か裏方に!?〜
半袖高太郎
半袖高太郎

大人たちの思惑

公開日時: 2021年3月31日(水) 00:12
文字数:2,100

「な、なぁ。怒ってんの? ララクも連れて行くって言ったこと……」


「いや、お前の覚悟を試した。いや、お前たちの絆をとでも言うべきか」


「はあ?」


 全て掌の上であったかのような発言に戸惑う飛彩はその真意を測りかねていた。

 みすみすヴィランに拐われるようなところにララクを連れて行くなという叱責を覚悟し、それに対しての反論まで用意してきたというのに。


「護利隊の最高戦力は言うまでもなくお前だ。次に春嶺、そして戦闘能力では低いが支援能力では随一の蘭華、この三人についていける人物はもはやララクしかいない」


「な、なんでだよ、最初からそう思ってたなら……」


「お前が選択するというのが重要なんだよ。己で決めて己が皆を守るという覚悟があることが重要なんだ」


 珍しく根性論を語る黒斗だったが、飛彩は嫌いじゃないと笑みを浮かべる。

 侵略区域奪還作戦、その最後を締めくくる戦いは危険を伴うことは間違いない。


 そうであるが故に飛彩が自分の責任で戦い抜くという覚悟が必要だったのだ。仲間の命を預かるという実感を背負わせてしまうことに申し訳なさを覚える黒斗でありつつも、それが先導者という立場になる者には必要なのだとわからせるために。


「はぁ……お前まで俺のこと好きすぎだろ」


「気色悪いことを言うな……だが、全員無事で帰ってくるという結果以外は許さんぞ?」


 腐れ縁どころではない長い年月を共にいる二人は、この時初めて心の底から笑い合えたのかもしれなかった。



 

 

「どうだった?」


「蘭華……聞いてたのか?」


「ええ。でもやっぱりこの扉は防音ね。本気出せば盗み聞きとかも出来るけど面倒だしやめたわ」


「んなことしなくても教えてやるって」


 そう話しながら廊下を進むと、ララクと春嶺という珍しい組み合わせが二人を待っていた。

 チーム結成の報せが届いていたようで、覚悟が灯った気合の入った佇まいとなっている。


「どいつもこいつもやる気満々じゃねーか……よし、チーム結成だ。頼むぜ、お前ら!」


「じゃあ、チーム名は飛彩ちゃん大好き連合ね!」


 瞬時に飛彩と腕を組み、胸を押し付けるララクは絶対に従うことの出来ない提案を持ちかけてくる。


「んな名前つけられっか!」


「そうだ。私は別に隠雅飛彩のことは好きではないんだが?」


「えー、春嶺ちゃん! それは勿体無いわ! みんな飛彩ちゃんに囲ってもらうんだから!」


 護利隊本部の往来故に他の隊員もいるのだ。すでに立場が危うい飛彩はすぐにララクの口を塞ぐ。


「これ以上ライバルが増えたら困っちゃうからそういうのはやめて」


「いや、私は別に……」


 冷静な春嶺の参画がなければ間違いなく暴走する全員を止められなかっただろう。

 そういった意味でも常に冷静な春嶺がいれば作戦の遂行しやすさも格段に違うはずだ。


「……」


 しかし、春嶺は前髪で隠している瞳でララクをじっと見つめている。

 奪還作戦に参加したとはいえ、春嶺とララクの関係性は薄い。


 それだからかメイから受けたとある一言が春嶺をざわつかせ続けていた。





 現状、春嶺はメイの直属の部下という形になっている。

 英人と違い、心の底から優しい気持ちで接してくれているメイに春嶺も感謝していた。

 戦闘以外の手伝いも進んで行うほどに。


 そんな名が神妙な面持ちで対面に座り、飛彩のチームへの内定が十中八九揺るがないと見越してあることを春嶺へと頼んだのだ。


「いざとなったらララクちゃんを見捨てて逃げなさい」


「……は? しかし、隠雅や蘭華が何を言うか……?」


「私はヴィランの命と飛彩達の命を天秤に掛ける時がくれば無慈悲にその判断を下すわ」


 それは理想を求める少年少女には不可能な現実的な判断と言えよう。それを冷酷に下しても飛彩達は止まることはない、故にブレーキの役割をメイは春嶺に頼んでいる。


「君たちの友情にヒビが入ってしまうことは間違いない。しかし、それでも私は飛彩達に生きていて欲しいと思うんだ」


 立ち上がったメイはこれでもかというほどに深々と頭を下げている。反射的に立ち上がった春嶺はメイの肩を掴んで上を向かせた。


「やめてくださいメイさん、私なんかにそんな頭を下げて……」


「これは全て私の責任でいい。もし、その時が起きてしまった時はこの麻酔銃で飛彩くん達をカクリちゃんの能力で送り返すのよ」


 流石に春嶺の脳内では逡巡の風が吹き荒れる。

 事実、春嶺はララクとそこまで親しい間柄ではない上に蘭華に対する愛や、その愛する人物がこよなく愛する隠雅飛彩を守れと言われれば命も捨てる覚悟は春嶺にはあるのだ。


「そうならないように努力はしますが……その時がきたら、必ず」


「……ありがとう、春嶺ちゃん」


 作戦が始まる前の密約が侵略区域隠密作戦にどのような影響を与えるのかは、神のみぞ知るというところか。

 しかしこの密命を実行することなく終わることはないのだろう、と春嶺は険しい任務へ後ろ暗い気持ちを抱くのであった。



「春嶺? 私の顔に何かついてるかしら?」


「い、いや、なんでもない、です……」


 いざとなったらという覚悟は出来ているものの、その時が訪れないことを祈る自分に春嶺はハッと気づいた。

 良くも悪くも変わってしまったと春嶺は心の疼痛を隠すように作り笑いを浮かべるのであった。

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