【完結】変身時間のディフェンスフォース

〜ヒーローの変身途中が『隙だらけ』なので死ぬ気で護るしかないし、実は最強の俺が何故か裏方に!?〜
半袖高太郎
半袖高太郎

第5部 1章 〜異世侵攻作戦〜

攻城戦

公開日時: 2021年5月13日(木) 00:09
文字数:2,382

「抜けるわ! 周りを警戒して!」


 弾丸のような装甲車が明らかに自身より小さい出口を押し広げていく。

 ヴィラン達に囲まれる可能性もあるが故に飛彩は空間を抜けた後より強く展開域の防御性能を強くイメージした。


「……? 何もしてこない?」


「蘭華ちゃん、あたりの様子はどうなってるの?」


「今見てみます」


 タイヤが地面を踏んだ事が蘭華の身体にも伝わっていく。

 数秒経っても攻撃されないことから、すかさず周囲を観測するドローンを数台飛ばした。


「みんなの端末にも映るわ」


 翔香が端末を操作し、武器を構えている全員が横目で端末を意識した。

 今にも後部座席の扉を壊してヴィランが飛び込んでくるんじゃないのかという緊張感が全員の呼吸を早めている。


「本当に……何も、いないの?」


「だったら好都合だ。作戦通り反対側から亀裂ぶっ壊して狭間に落としてやろうぜ!」


 展開力を広げていることもあり、飛彩は助手席の扉を開けて周囲を見渡す。

 全方位の警戒ができないでしょ、と蘭華や熱太達も続々と外へ出た。


 飛彩の展開と個人領域がなければ間違いなく息もできずに異世そのものの展開や瘴気で灼かれているだろう。


 故にまず何も変わらず呼吸できていることも大きな功績なのだが、全員が視界に広がる光景を前に茫然と立ち尽くしてしまった。


「な、何もねぇ……荒地ばっかりだ」


「それに明かりのない夜みたいで、この車のライトがなかったら何も見えなかったでしょう」


 飛彩やホリィに映るのは微かな光が見せるどこまでも続く荒地。

 生命の欠片もない不毛の大地でヴィランは戦いに明け暮れている。


「落ち着け皆。ここはただの荒地だ。蘭華ちゃん、展開反応がある方へ向かおう。敵がまとまって進軍していることを考えれば拠点があるはずだ」


「多分それ、ここかも」


 ポツリとこぼした翔香だけが全員と違う方向を向いていた。

 声に誘われるままに振り返った一同は高く聳える黒い壁に圧倒される。


「な、なんだこれは……」


 常に明るく笑い飛ばす熱太ですら荘厳な城壁に言葉を失ってしまう。

 敵陣にのまれるわけにはいかない、と飛彩は広げていた展開域を検知されないほどに薄く広げていく。


 地面に突き立てた左腕に集中すると、この壁の向こうでいくつもの侵攻亀裂が発生していることに気づかされる。


「やっぱり本陣は向こう側だな。敵の城でもあるんだろ」


「迂闊には移動出来ないわね……春嶺、元々の世界展開リアライズ反応はどう?」


 展開力などのエネルギーに満ちていることを飛彩も肌で感じており、この勢いならばヒーロー達を充分に変身させられるだろう、と。


「ダメだ。ずっと試しているんだが、反応がない」


「エネルギーは充分あるのにね……私たち三人の方も一緒だわ」


「やっぱり、ヒーローの変身途中をしっかり守るしかねぇってわけだな」


 セリフ自体は憎まれ口でありつつも、声音には楽観的なものしか含まれていない。頼られることも飛彩の力を漲らせるのだ。


「俺が撹乱する、その隙にお前らは亀裂に攻撃を……」


「待って。さすがに危険すぎる。こっちの防御は無いに等しいんだし」


「蘭華、私達も隠雅飛彩の攻撃に合わせて移動しながら攻撃しよう」


 攻めつつ守る、攻撃は最大の防御という大胆な発想を見せる春嶺。

 事実、援護の無いわずかな部隊故に堅実な守りで少しずつ相手を削るということは不可能だ。


 春嶺の言うとおり、奇襲で相手のペースを奪って主導権を保ち続ける事が勝利の鍵になるだろう。


「僕も賛成するよ」


「冷静な刑にしては珍しいな! もちろん俺も賛成だが!」


「脳筋な君と同じにしないでくれ……恥ずかしい話だが、能力が元に戻るまでは飛彩くんの側にいないと厳しいだろうからね」


 しかし、刑は話しながらも何かに集中しているように険しい表情を浮かべている。常に変身を試みているというわけだ。


「いつまでもお荷物でいるわけにはいかない。すぐに僕も戦線に復帰してみせるさ」


「頼むぜ、刑」


「私だって自慢の俊足、発揮してみせるからね!」


「お前は変身しなくても速いからな。無茶するなよ?」


「無駄話はそれくらいにしましょう。ドローンカメラで大体の城内地形はわかった。一分で出来るだけ叩き込んで」


 それぞれの端末に送られる城下町の地形、さらに現世への亀裂も確認できるように蘭華が一瞬で情報を調整したのだ。


 こういったバックアップ能力の高さを見せつけられる一同は、何度目かわからない護利隊は化物という感覚を思い知らされる。


「こういう時、ヒーローの人選は間違ってたのねって思うわ」


「エレナさんみたいに華がないとヒーローは務まらないですから」


 蘭華ちゃんも充分華があると言いかけたエレナだったが、話をこれ以上逸らす時間はないと端末を食い入るように見つめる。


 特に熱太と翔香の二人をフォローしなければという使命感も働いて。


「飛彩は遊撃、レスキューワールドのチーム、刑と春嶺とホリィ、私は装甲車で援護するわ」


「手前の亀裂から塞いでく。無線は繋がる範囲内にいてくれ。生命ノ奔流ライフル・ストリームで隠れてるヴィランも探しておく」


「奇襲まで警戒させて……飛彩くんの集中力が保つんでしょうか?」


「こっちは展開力が満ちてるからな。いつもより調子が良い感じがするぜ」


 そして約束の一分が過ぎた。

 飛彩は満ちている展開力から右脚と左脚の能力も解放する。

 

 高濃度に圧縮した展開力を右脚一本に集め、そのまま繰り抜くように城壁に穴を開けた。


「これ、新技になりそうだな」


「ええ、それでどんどんヴィランを真っ二つにしちゃって頂戴!」


「じゃあいってくるぜ。離れすぎるなよ!」


 完成したトンネルの向こうは幾何学模様のように整然と並び立つ住居。

 大きくはないが、それぞれが七メートル程度の高さがあり広さも豪邸と言ったようなものが並んでいる。


 おそらくヴィラン達が力を誇示するために大きくしてきた各屋敷なのだろうが飛彩はお構いなしに右脚の力で風穴を開けていった。


「邪魔するぜオラァ!」

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