【完結】変身時間のディフェンスフォース

〜ヒーローの変身途中が『隙だらけ』なので死ぬ気で護るしかないし、実は最強の俺が何故か裏方に!?〜
半袖高太郎
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第4部 3章 〜世界の行方〜

護利隊への誓い

公開日時: 2021年4月25日(日) 00:15
文字数:2,477

 数時間後、侵略区域の悪化は瞬く間に世間に広がっていった。

 今までとは比べ物にならないヴィランがヒーローを打ち負かした、ということになっているが詳しい状況を把握するものは少なく、ヒーロー本部も大慌てとなっている。


 当時の戦闘状況を把握しているものは飛彩達のみであり、メイの裏切りは黒斗達が漏らさない限り発覚する事はない状況だった。


 それは飛彩達にとって、敵の首魁を討ち取ればメイが戻る場所を作れるという不幸中の幸いだった。


「戦闘の影響で戦いに参加したヒーロー達やオペレーターは精神錯乱状態っていう診断にしておいたよ」


「よし、蘭華のハッキングで時間は稼げたな」


「これでヒーロー陣営の言動が真実かどうかの調査が入るはずだ。俺たちが付け入る隙もなんとかなるだろう」


 そこで上層部との情報共有、今後の方針を話し合う黒斗、刑、ホリィ、そして熱太達はヒーロー本部へ先に向かうことに決めた。

 飛彩と蘭華、春嶺は護利隊本部の中へとカクリ救出作戦の役割を割り振っている。


「黒斗」


 各自役目を全うせよと分かれようとした瞬間、飛彩はあえてリーダーとなるべき男へと声をかける。


「俺ぁ、いつも規則とか無視してきたからよ……全然気にしてねぇんだが」


「何が言いたい?」


「メイさんを匿う上に助けるのは俺たちの私情だ。全人類巻き込む覚悟はあるのか?」


 覚悟を計るための、わざとらしい問い。飛彩や蘭華にとっては姉同然のメイを助ける事は己の命と同じくらい大事な事だった。


 それにホリィ達や世界を巻き込む覚悟と守り抜く力を飛彩は持っている。だが、黒斗はその責任を一身に負うことになるのだ。故に飛彩はあえて覚悟を問うている。


「愚問だな」


 振り返った黒斗はボロボロになったスーツでも凛とした佇まいを見せている。メガネの位置を直して飛彩を見つめるその姿はいつもの自信に満ちた司令官の姿だった。


「大人は責任を取るために存在する。たとえどんな危険なことをする時でもな」


「司令官かっこつけちゃってるわね」


「はっ、最高の司令官だな、黒斗。じゃあそっちは頼むぜ」


「お前達もカクリの無事を速やかに確認してきてくれ」


 そこから二手に分かれた集団は、戦いの傷も癒ぬ間にそれぞれの目的地に向かって走り抜けていく。


 無駄口も叩くことなく護利隊の本部に向かった飛彩は蘭華と春嶺を両脇に抱えて、紅い右脚の力を開放していた。

 赤い軌跡を残しながらも展開力は最低限に抑えている。


 あの分厚い闇のドームを突き抜けて気取られる事はないだろうが、最大限の警戒は怠らないというわけだ。

 それ故に距離などは飛彩にとって障壁でもなんでもなく、一瞬にして戦場となった護利隊の本部へとたどり着く。


「傭兵達が起きてるかもしれないから慎重にいきましょう」


「カクリー! 今助けに行くぞ!」


「……蘭華の忠告を無視したな」


 飛彩はもはや傭兵集団など敵としてカウントしていない。

 意識を取り戻そう者がいれば再び音速の拳を顎へと送りつけている。


 再び気絶させた傭兵の山を潜り抜け、もはや勝手知ったる友人の家かのごとく地下司令室の扉を勢いよく開いた。


「カクリ! 無事か!」


 そこには部屋の隅で膝と頭をくっつけた状態で縮こまっている少女の姿が飛び込んでくる。


「怪我してない?」


「外傷はなさそう、だが……」


 ここにいる面々はメイの動向を知っている。ここでメイがどのように脱出したのかは分からないが、カクリの様子を見れば全てを察している事は明らかだった。


「一旦帰りましょう。治療しないといけないかもだし」


「多分、大丈夫です」


「そんな様子で何言ってんだ。ほら、いくぞ」


 見かねた飛彩が無理やりにカクリを連れて行こうと手を伸ばすが、それは勢いよく弾かれた。


「わかるんです……私は世界展開リアライズを奪われたんだって」


「だ、だとしたら尚更」


「普通の女の子になったなら検査なんていらないでしょう? メイさんが裏切った事実はまだ隠せるは……」


 顔を上げたカクリに泣いた跡はなく、起きた現実を否定しようと懸命に堪えていたのか、口元に血が滲むほど食いしばっていた事は窺える。


「いいかカクリ、よく聞け。メイさんは裏切ってなんかねぇ」


「でも」


 身体の中を弄られた感覚を鮮明に覚えているカクリは怯える気持ちを見せていたが、やはりメイを信じたい気持ちもあふれているようだ。


 一瞬の痛みの記憶よりも、思い出すのは優しい笑顔の記憶ばかりなのだから。


 だからこそ恐怖に慄く涙を流すのではなく、信じようと懸命に恐怖と闘っていたのだろう。


「メイさんには何か考えがあるんだ。たとえヴィランでもメイさんには変わりない……俺は今でも、あの人を信じる」


「飛彩さぁん……」


 その言葉にとうとう涙を溢れさせたカクリは嗚咽を漏らしながら飛彩へと飛びついた。

 優しく頭を撫でる飛彩に対して、いつもならば蘭華が引き剥がすところだろう。


 しかし、蘭華もまた涙を目に溜めながら近づいて優しく背中をさすっている。


「みんな、本部に戻ろう。あの博士を取り戻す方法は一つしかない」


 そこでカクリを慈しむような瞳で見つめていた飛彩が、いつもの凶暴な目つきへと変わった。言葉を発した春嶺が肩を震わせるほどの気迫を見せている。


「ああ、あのヴィランの始祖とかいう化け物をぶっ殺す」




 いまだに泣き続けているカクリを背負い、春嶺を前衛に据えて護利隊の本部から一同が脱出する。

 戦いの痕跡が残る見知った場所に来る事はもうないのかもしれない、と陽が登る道に踏み出した瞬間に振り返った。


「なあ、みんな」


「何止まってるのよ、早くいきましょう」


「ああ、蘭華の言う通りだ」


 しかし、かけられる言葉とは裏腹に飛彩は護利隊本部へと完全に向き直っている。


「考えてみろよ。ヒーローの変身途中を守らなきゃいけないって、意味わからないよな?」


「ちょっと、急にどうしたのよ」


「俺はヒーローを守りたかった。でも、全員が全員そういうわけじゃねぇ。この世界はヴィランのせいで狂わされちまってるんだ」


 真剣な声音に、カクリの嗚咽も止まってしまう。蘭華達もその背中を釣られて真剣に見入ってしまった。



「俺が全部終わらせる、終わらせてみせる……護利隊に誓ってな」

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