「……展開力って、願いを現実に実現する力って、言ってましたよね」
「え? ああ、始祖がそんなこと言ってたと思うけど? でも、もうあの力は……」
「私は未来を決めるヒーローです」
あえて過去形を使わなかったホリィは迷いを断ったような表情を浮かべている。
「だから飛彩くんが目を覚ます理想を諦めません」
「もう私たちはただの人なのよ?」
具体的な案など一つも思いついていない。
ただホリィは、理想を絶対に捨てない才能があると言っても過言ではなかった。
「ヒーローが諦めたら、誰が奇跡や理想を本気で考えるんです?」
「ホリィ……」
「人々の想いが集い、一つになれば……奇跡を、展開力を作ることだって不可能じゃない」
「現実を見てよ……」
頭を抱える蘭華のリアクションは尤もだろう。
夢や希望で飛彩が救えるなら、すでに目覚めて元気に駆け回っているはずだ。
しかし、ホリィの諦めない心が戦況を変えてきたことも多い。
空回りでも、危険でも、結果的に最善であるべき行動を向こう見ずなまま行ってきたホリィは未来を常に引き寄せている。
「とは言えないわよね」
「蘭華ちゃん……!」
「カクリだって力を抜かれても、一回は使えたんだもん。今のホリィにはエネルギーがないだけで能力は残ってるかもしれない」
信じてくれている。そう、感激の声音がホリィから漏れた。
「考えてみましょう。もう一度展開力を発揮する方法を」
「はいっ!」
薄暗い廊下にて、飛彩の集中治療室の前で語りあう二人の少女。
飛彩の復活のために、どう展開力を作り上げていくのかに思考を巡らせていくのであった。
そして、黒斗の健闘も虚しく式典は滞りなく準備されていった。
早めると予定を立てた日からわずか二日で用意を終わらせ、放映を今か今かと待っている。
都心に唯一残っていたスポーツ用のドームは、今や全世界の注目の的になっていた。
戦いによって逃げていた避難民達も式典には押しかけており、救いに感謝するものや文句を言うものなど様々な思惑が内外にひしめいている。
「……なるほどね、展開力を集めるってわけか」
「カクリちゃんの例がある。不可能だとは思わないが可能かどうかと言われると……」
数十畳はあろう大きな控室に、レスキューワールド、春嶺、刑、ホリィ、蘭華、メイの面々が集まっていた。
変身できないことはヒーロー陣営には筒抜けなので、ヒーロー状態と全く同じ衣装を全員は身に纏わされている。
「この姿の時と同じく力を振るう、か。難しい話だよ」
カクリとララクが飛彩の看護のために病院に残っているが、いまだに飛彩の状態は改善されない。
「あの時は始祖がいたから展開力があったんだよね?」
「ええ。確かに私たちに能力は残ってるかもしれない。でも、そうなるためのエネルギーは完全に枯渇したと考えるべきだわ」
ピンときていない翔香に対し、エレナはヒーローの時と変わらず冷静に現実を分析する。
無論、エレナの返事が普通の反応だろう。
「願いを現実にするのが展開力って言われても、インジェクターの中身も消えた以上……私もエレナちゃんの考えに賛成ね」
過剰な期待を抱かせるわけにはいかないとメイもホリィと蘭華の案を一蹴する。
飛彩を想うあまりに暴走した思考になっていると言いたげな様子だ。
「でも……」
「娘の貴方が世界を救ったヒーローの一人なのよ? カエザールさんも利用してるけど、利用されたままじゃいけないわ」
救世の秘密を握りながらも実権を握っていくことは、カエザールへの牽制にもなる。
その役目をホリィならば十分に果たすことが出来るだろう。
「今は大人しく従うフリをしましょう。あとは好き勝手させない政治になるようにいくらでも手を貸してあげるわ」
「……っ」
それらの正論にホリィと蘭華は押し黙る。
世を徹して考えた方法も、メイに反対されるとなれば気持ちも揺らぐだろう。
その思考に至れるメイは間違いなく冷静で、大人な思考を持っていると言えた。
「私たちは世界のために戦った。でも、全ての人を救えるわけじゃない」
そして、助けたい人だけを選んで助ける。
たとえヒーローの道に反していたとしても、その選択肢をとる事は決して恥ではない。
それほどまでに彼らは何度も世界を救ってきたのだから、対価があっても構わないだろう。
「……私は」
影を落としていた面を上げるホリィ。
蘭華もその肩を叩き、お互いに一瞬だけ視線を交わす。
「私はそこまで聖人じゃありません」
「ええ。メイさんが考えてるよりもっともーっと、欲深いです」
その表情をみたメイは、狙い通りにことが進んだと言わんばかりに破顔した。
全てを救うなんて責任を負わなければいけない存在はもういないのだ、と。
「そーそー、そうやって年相応にわがままにしてればいいのよ」
「ほ、本気ですか? 飛彩くんを救うために私はお父様がどんなひどい政治をやろうと見逃すどころか協力しようと言ってるんですよ?」
ヒーローならば選ぶはずのない選択肢をあえてホリィは明言した。
飛彩への呼びかけをすればカエザールは間違いなく邪魔をしてくるだろう。
それに対し、余計な混乱が起こさないというのとヒーロー達はカエザールに従うことを明確にする。
人々の意思を飛彩を救うためだけに使う、ヒーローにあるまじき作戦だろう。
しかし、この状況下で、誰よりも飛彩のことを考えているのはこの二人だと熱太達も賛同する。
「お前達が何したってフォローしてやるさ。俺だって飛彩が救えるなら何だってしたい」
「誇りを捨てる覚悟はとうに出来ているよ。飛彩くんがいなかったらどのみち全人類は滅んでいたんだからね」
「私は蘭華のためならなんだってやってみせる」
「もちろん、隠雅のためなら協力するに決まってるじゃん」
「ちょ、ちょっとみんな本気? もう仕方ないわねえ……最後まで付き合うわ。失敗したら養ってもらうし」
最後にエレナはモゴモゴと喋ったものの、それぞれの覚悟の言葉が並んでいく。
飛彩にどうなってほしいかではなく、飛彩のために自分たちがどうしたいかをホリィと蘭華を中心にヒーローだったもの達は突き詰めることを決めたのであった。
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