【完結】変身時間のディフェンスフォース

〜ヒーローの変身途中が『隙だらけ』なので死ぬ気で護るしかないし、実は最強の俺が何故か裏方に!?〜
半袖高太郎
半袖高太郎

ヒーローとしての才能

公開日時: 2021年6月1日(火) 00:11
文字数:2,630

 彼女もまた死の忘却への恐怖を拭えていない。故に言い残すことがないように言葉が溢れてしまう。


「二人、とも、大好き。飛彩ちゃんと、同じくらい……」


 そう漏らした刹那、ララクの鎧から展開力が溢れ出す。

 鎧が竜の骨格を描き出し、尻尾の部位や翼だけでなく手足の爪が鋭く巨大になっていく。


「アァ……アァァああぁぁぁぁぁぁぁぁ……!?」


「ララク、しっかりして!」


 最後の抵抗で竜の兜が顕現しないように抗うララクだったが、再び意識を失うのも時間の問題だ。


「は、早く! 私が二人を、殺しちゃう前に!」


 短いが蘭華の脳内を巡るララクとの思い出に、引き金にかけた手が震えていく。

 そして確信する『撃てるわけがない』という、惨殺の未来を。


「蘭華ちゃん、私が……なんとかします」


 二人を引き離すように割った入ったホリィの表情は死の淵にいるというにも関わらずとてつもなく穏やかだった。


「ヒーローとして蘭華ちゃんに辛い思いをさせませんし、ララクちゃんも死なせません」


「は、はぁ?」


「ホリィ、ちゃん、そんなこと言ってる場合じゃ……」


「大丈夫、安心して」


 なんの根拠もない言葉だが、何故だか二人はへたり込むほどに安堵してしまう。

 ホリィに諦観はなく、実際に周囲へと白い光粒が舞い降り始める。



「これは、世界展開!?」



 そのまま祈るように手を胸の前で合わせ、瞳を閉じたホリィは息を整えながら集中を高めていく。


 実は展開力の形などホリィはいまだに全く掴めていない。


 春嶺はヴィランの展開力を体に流し込まれたことで、己の展開力を知覚した。

 刑は、自らの願った展開力が実際に己のうちに眠る形と全く同一という奇跡を手にしていた。


 そして熱太たちはヒーローになることをやめて純粋に戦いに集中した結果、その体へと逆に展開力が力を貸したというような状況になっている。


 それぞれの方法で自身に眠るヒーローの力を呼び出していく中、蘭華はホリィが天才としてヒーローに抜擢されたことを思い出した。


仕組まれた因果律ディサイドタイドというかホーリーフォーチュンになれれば、浄化の力でララクちゃんを蝕む展開力を消せるかもしれません」


 ホリィにとって展開力の形とはいまだにわからぬものだったが、変身後の姿や能力、生まれ変わったような能力による今との差異を完璧に認識出来ていた。


 簡単に言い表すことの出来ない展開力の出力だったり、展開変身の仕組みなどを感覚で寸分違わず考えられるホリィはまさに天才で。


「思い描けるなら実現できる! 私は飛彩くんの隣で戦うと決めた……ヒーローなんだから!」


 自身のコスチュームを形作る展開力はどうあるべきか、自身のファンシーな世界を形作る展開力はどうあるべきか、それらを答えから必要物を導き出していく。


 ホリィは青臭い理想を吐き、夢物語で現実を何とかしようとする節がある。

 戦士としては失格だろうが、一番良い結果を追い求めずにはいられない。


「諦めたら、私は飛彩くんの隣で戦うヒーローを名乗れない!」


 それではこの戦いを生き残れないと理解してもなお、ホリィは奇跡を信じる。


 いや、奇跡を引き寄せられるのは、強い『理想』を掲げる者なのかもしれない。


「ホリィ、アンタまさか……!」


 世界展開に必要な展開力の具現化というものはヴィランの能力を元にメイが実現した技術となっている。

 それには複雑な計算式やプログラムがあるのだが、ホリィは変身後という答えから逆に変身に必要なプロセスを把握できたのだ。


 姉や妹であるマリアージュやライティーは一般的な人間社会においての才能が高く、ホリィにとってセンテイア家は居心地が悪いものだったろう。


「いける……世界展開! コネクト! 」


 そしてララクと蘭華を救いたいという純粋な願いが、展開力の形を直感で導き出すというホリィの才覚を完全に目覚めさせる。


 式を見て計算過程を飛ばして答えを考えられる者は必ずしも過程を説明出来るわけではない。

 直感的に正解を導き出せるだけでなく、答えから式を逆算することも可能だった。


 つまりホリィは自分の展開後の姿から導き出される展開力の核心を掴んだのである。


「キラキラ未来は私が決める! 聖なる未来へ! ホーリーフォーチュン!」


 純白の展開域が周囲の建物どころかララクの展開域すら上書いていく。


 強化スーツを作り替えるような魔法少女らしいデザインのドレスが闇の世界を彩った。

 白を中心としつつも差し色にオレンジが入ったフリルなどが靡くその姿はお世辞にも戦闘向きとは言えないだろう。


「ララクちゃん、もう大丈夫だから」


 聖女のようなホリィは試合に溢れる笑みのまま、反撃も恐れずに優しくララクを抱きしめる。

 その清らかな展開域は黒い世界を白に塗り替え、パステルカラーの光粒が辺りに降り注ぐ異様な光景を作り上げていった。


「すごい……今までのホーリーフォーチュンとは段違いの出力!」


 世界展開ブレスやベルトなしに変身したことで型にはめられていた性能がリミッターを外した本来の姿を描いたのだろう。


 未来確定の力と、ヴィランの悪しき力を消し飛ばす浄化の光で、ララクに根付く誓約と指揮が消え去っていく。


「ホリィ、ちゃん?」


「私の大事な友達を殺したくないですし、殺させたくもないですから!」


「よか、った……!」


 禍々しい鎧は黒煙と共に消え去り純黒の長いドレス姿のララクが力なくホリィに身を預ける。

 薄布だけがララクの柔肌を守るものになった今、恐怖の脅威は完全に消え去った。


「浄化の力で余計な展開を消しました。ヴィランにとっては毒なので、ララクちゃんも目を覚ますのに時間がかかるかもしれません」


「だとしてもこれ以上ない最高の結果よ……流石ヒーローね」


「全部、蘭華ちゃんが決めてくれた覚悟のおかげです」


 ララクを蘭華へと預けたホリィはいつも以上に感じる力に驚きつつ、薄い手袋に包まれた右手をまじまじと見続けた。


「蘭華ちゃんの言う通り、私は撃てなかったでしょう。だからこそ、どっちも助ける道を選びたいと心の底から思えたんです」


 自分の命とは関係のないところで爆発的に感情を燃やしたことでホリィはヒーローに覚醒することが出来た。

それらのオーラが全体に伝わったのか、ホリィに春嶺からの通信が入る。


 個別通信の場合、ワンコール以上で反応出来ない場合は戦闘中と見なすというルールから機敏に通信を繋げた。


「春嶺ちゃん?」


「ホリィ、どうやら無事見たいね。こっちはまだ交戦中だから手短に話すわ」


 ヘッドセットの調整で、内容を蘭華にも聞こえるように変更した後二人は紡がれる言葉へと集中した。

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