【完結】変身時間のディフェンスフォース

〜ヒーローの変身途中が『隙だらけ』なので死ぬ気で護るしかないし、実は最強の俺が何故か裏方に!?〜
半袖高太郎
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蘭華VS春嶺

公開日時: 2020年9月11日(金) 00:03
文字数:2,037

「——今、隠雅っていったわよね?」


瞬時に振り返った春嶺と相対しているのはいつもの狙撃銃ではなく自動小銃を構えた蘭華だった。


「——どうしてもう護利隊が?」


「こっちのセリフね。どうして飛彩のこと知ってるのか……話してもらうわよ」




「——何? 護利隊が? ありえない、ここに来るにはどれだけ早くても十分は……」


「……はは」


 通信機に手を当てた英人の動きが止まり、顔色がみるみるうちに青くなっていく。

十分以上かかる道のりに対し、即座に護利隊の先遣隊が現れたことが信じられないのだろう。


「うちには俺以上のバケモンがいるのさ」


「まさかお前を囮に、俺の地下研究室を見つけようと……」


「いやいや、メイさんはお前のことなんか気にかけてねーよ」


 自信過剰な英人のセリフに笑うのも疲れた様子の飛彩は、再び左腕に意識を集中する。

痛みに慣れた今、春嶺がヴィランを全滅させる前に変身せねばならないからだ。


「——春嶺、侵入者はどうなろうと構わん。護利隊の一人や二人、死んでもどうとでもなる」


凶暴な命令に通信機越しの春嶺の流石に戸惑いの息を漏らした。


「それが不可能ならばヒーローなどやめてしまえ! グズが!」


一方的に要件だけを言い残した英人は場所をうつす準備を始めたのか、移動可能の小型機器を準備し始めた。


「君がいればどうにでもなる……それに春嶺は護利隊の雑魚になど負けんさ!」


 集中して息を吸い込んだ春嶺は意を決して蘭華へと二丁の拳銃を向ける。

しかし蘭華も百瀬錬磨。ホルスターに手をかけるよりも早く殺気に反応し、廃墟の物陰へと跳んだ。


「去りなさい。命は奪いたくない」


「お生憎様、アンタこそただじゃすまないわよ?」


 この戦いは戦闘力で言えば春嶺に軍配が上がるだろう。

しかし蘭華はデータ上、春嶺のことを知っていて春嶺は蘭華のことなど何も知らない。


 情報戦においては蘭華が遥かに上回っている。

そのことを互いに認識していたことから蘭華はすかさず攻撃へと移り、春嶺はまた廃墟の奥へと隠れる。


「っ!」

 

 物陰に隠れたまま拳銃から一髪の弾丸が壁に向けて発射された。

それは何度も跳弾を繰り返し、小銃で狙いをつけていた蘭華の頬を掠めた。


「きゃっ!?」


 悲鳴により完璧に捕捉出来た春嶺は蘭華が一歩で動ける場所の全てを瞬時に計算して銃弾を連射する。

一歩を踏み出した時の身体の角度から考えても間違いなく銃弾は蘭華の身体のどこかを射抜く。


……はずだった。


 いつまで経っても悲鳴は聞こえない上に、全ての銃弾が地面に潜った音が春嶺の耳にも届いている。

運動能力を見誤ったかと前髪をめくって目を細める。

だが、やはりどこにも蘭華はいない。


「どこ見てるのかしら?」


「!?」


 音源は真上、確認するよりも早く拳銃を上へと撃ち込む。

しかしそれすらも囮で背後をとった蘭華は電流迸るスタンバトンを春嶺へと突き立てた。


「うあああっ!?」


 相手は少しずつとはいえ、変身途中のヒーロー。

勝負を決める一手にはならなかったものの、飛び退かせた上に片膝を着かせるまでに追い込んだ。


「アンタなら間髪入れずに撃ち込んでくると思ったわ」


「——どういうこと? 貴方は世界展開リアライズも何もしていないはず……」


「あーら。あなたが遅いんじゃないの〜?」


 飛彩譲りの煽りが炸裂するも見えすいた挑発に乗るほど春嶺は幼くはない。

だが、明らかに格下だと考えていた少女兵に一泡吹かされたことだけは気に入らないようだった。


「……まあ、両手両足撃ち抜けば逆らえないよね」


揺れた前髪から覗く眼光に一瞬震える蘭華だが、飛彩を救うと考えるだけで力が湧き上がる。


「いくわよ、カクリ」


「はい!」


 通信機の向こう側にいる相棒。


展開の補助具と体を繋ぎながらカクリも集中力を研ぎ澄ます。

彼女たちの特訓の成果が、ジーニアスをも超えると飛彩が評した相手へと炸裂しようとしていた。


「アンタ相手に遠距離戦とかゴメンだわ!」


 再びスタンバトンを携えて突撃する蘭華。

対する春嶺は冷静さを取り戻したのか銃口を天井へと向ける。

変身する前から銃弾の跳弾計算などは春嶺にとって朝飯前ということなのだろう。


蘭華が走りこむ軌道へ銃弾がギロチンのように並んで落ちようとする。


「予想通り!」


「なっ?」


 驚く春嶺の視界に飛び込んできたのは、蘭華の頭上を併走する次元の裂け目だった。

銃弾は全てその中に吸い込まれどことも分からない空間に消えていく。


「もらった!」


「この程度で!」


 左足を軸に反転しながら刺突攻撃を躱した春嶺は右脇で蘭華の腕を挟みあげる。

さらに関節を逆に曲げようと力を込めた結果、悲鳴と共にスタンバトンは地面へと落ちていった。


そのまま春嶺は背中を蘭華の胸の下へと潜り込ませ一本背負いの形で地面に叩きつける。


「終わり」


 その下には未だに電力を迸らせているスタンバトン。

護利隊の強化スーツとはいえ間違いなく意識は暗闇の中に旅立つだろう。


「カクリ!」


「き、急ですぅぅぅ!」


 地面に突如として開いた次元の裂け目へと蘭華は投げ込まれる。

春嶺も追おうとするが入り口は一瞬で閉じた。


「どこだ!」

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