「意気込んでたのに……ホリィが怖気付くとは思えないわ」
ヒーロー本部の屋上で誓いを立てていたことは蘭華の記憶に新しい。
飛彩はデートの際に影を落としていたホリィの横顔を思い出して押し黙る。
「彼女の能力、未来確定はこの作戦の要だ。それがないとなると……作戦の大幅な見直しが必要になる」
「ホリィが降りた理由は?」
「——我々には明かされていない。もちろんこの作戦は危険だからな本人やご家族の意思が尊重されるのだろう」
もっと声を荒らげるかと思っていた一同だが、飛彩は至って冷静で気怠そうに頭をかいている。
その様子を見たメイは目敏く飛彩の心の中を言い当てた。
「まるで知ってたみたいね。飛彩?」
「えっ? 飛彩、何か聞いてたの?」
「直接は聞いてねーが……この前二人で出掛けたときに、少し様子がおかしかった」
臆面もなく答える飛彩だが春嶺は何故蘭華の前で言ってしまうのかと頭を抱える。
案の定、蘭華とカクリは鼻息を荒くしてホリィの件をそっちのけで飛彩の首を締める。
「デデデでデデデ、デートしてたのアンタ!?」
「カクリたちそっちのけでホリィさんとデートですか!? ひどい酷すぎます!」
「落ち着けって。ただ一緒に買い物したり弁当食ったりしただけだっつーの。話の本題はそこじゃ……」
火に油どころの騒ぎではない飛彩の物言いに、蘭華とカクリ髪の毛を逆立たせ飛彩の首を前後に揺らし続けた。
挟まれていた飛彩は逃げることも出来ずやめろと騒ぎ続ける事しかできない。
「二人とも飛彩を痛めつけるのは後で好きなだけやれ! 飛彩、ホリィ・センテイアの情報を包み隠さず話せ」
痴話喧嘩などどうでもいいといった様子の黒斗は助け舟を出しているようで全然助けていない援護射撃を飛彩に与える。
両脇の少女たちから恨みがましい視線を向けられながらおずおずと話し始めた。
「この前暇してた時にホリィから連絡あってよ……一緒に出かけようっていうから」
「うがー! だったら私と遊べばいいでしょ! 家が隣なんだから!」
「お前は春嶺と遊んでたからいなかったんだよ!」
「飛彩、前言撤回だ。要点だけ話せ」
相変わらず蘭華たちを制する気はない黒斗の死刑執行を後回しにするだけの助け舟に顔を引きつらせた飛彩は椅子を引いて蘭華とカクリから距離を取る。
「あー、なんか親に色々言われてるみてぇだぜ」
踏み込みにくい話に全員が一度押し黙った。
口元に手を添えた黒斗は瞬時にスポンサーとしてのセンテイア財閥を思い出す。
「娘を危険な戦地には送らない……娘の命が大切というのもあるだろうが今や人気はナンバーワンのヒーローだ。死なれたら広告塔としての価値がなくなる」
「何それ! 酷すぎるんだけど!」
飛彩に怒ったりホリィの親に怒ったりと忙しない蘭華だが、両者をそれだけ大切に思っている証左に他ならない。
憶測で話しただけの黒斗だが、飛彩を呼びつけて二人で話すほど思い詰めていることに親の言葉と自身の掲げた使命に苦しんでいることが想像出来た。
「……それが本当の理由だとしても財閥はそんなふざけたことを表明しないだろう。だが、これでホリィ・センテイアの参加はほぼ見込めない」
これ以上の説明は不要と判断したのか、映し出されていた情報を閉じてタブレットをスーツの内ポケットへとしまっていく。
「最近はヴィランの侵攻も落ち着いているが、お前たちは通常業務を行いながら次の指示を待て」
「了解です」
「わかりましたぁ」
返事をしたのは蘭華とカクリのみ。
飛彩は気難しい表情を浮かべ、メイはそそくさと退席してしまった。
春嶺は統率の取れていない室内で辺りをおろおろと見渡している。
「あ、天弾くん。ちょっと手伝って欲しいことがあるんだけど? いいかな?」
「わ、わかりました」
この場に飛彩たちだけを残すのを不安がりながらも春嶺はメイへとついていく。
英人のところで知った技術を完璧に流出させていた春嶺はメイの助手的な立ち位置にもなっているのだ。
そして扉は一度閉まり険悪な空気のみが部屋へと残ってしまう。
まるで黒斗を悪者であるかのような恨めしい視線が飛び交った。
ただ一人。飛彩だけは違い、天井を眺めてボーッとしている。
「飛彩」
続いて部屋の外に出ようとしていた黒斗は扉の前でゆっくりと振り向き、飛彩を睨む。
「勝手な真似はするなよ。俺に迷惑をかけるな」
物々しい雰囲気で部屋から出て行った黒斗に苛立ちを込めた視線をぶつける蘭華とカクリ。
飛彩への怒りを忘れ、友人を見殺しにしろという態度に愚痴を溢す。
だが、その言葉に飛彩はゆっくりと口角を上げた。
「結局、司令官も中間管理職ね。偉い人には噛みつけないんだもん」
「ええ。飛彩さんを一人で連れ回した時は男気があると思ったんですが」
そんな二人の発言を鼻で笑った飛彩はゆっくり立ち上がり、二人の肩に手を置いた。
「お前ら全ッ然分かってねぇなぁ」
「はぁ? 何言ってんのよ?」
口角を上げる飛彩は獲物を見つけた時の野獣にも似た凶悪な笑みを浮かべている。
好意を寄せる二人ですら若干顔を引きつらせてしまうほどの。
「黒斗は迷惑をかけるなって言ったんだぜ? つまり何かやるならバレねぇようにやれってことさ」
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