「任せろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
中央で守る対象がリージェだけでなくホリィも加わったことで躍起になる熱太は燃え上がる灼熱剣を振り回し白い道に赤い展開力を添える。
続く刑もまた銀色に輝く武器を創出し、死鎧の脆い部分へと突き立ていく。
「ホリィちゃんは能力に集中してくれ! 絶対に僕らが繋いでみせる!」
蜘蛛の糸の世に垂らされた白い道はまさしく崩壊する世界に残された僅かなる希望。
そしてそれを維持するのがどれだけ難しいことなのかをメイは誰よりも理解していた。
「ララク!」
「な、何!?」
幼い頃に何度かあった相手だということに驚きを隠しきれないララクはいつもの態度ではなくかしこまったものに変わる。
メイもまた飛彩の安寧のためにララクを見捨てようとしたこともあった。
自身の本当の姿に勘付かれてはまずいという自分勝手な理由を恥じて。
しかし、今や飛彩を救いたいという志を持った仲間だと信じ、立ち位置を入れ替えて小さく言葉を交した。
「崩壊には気付いてるわね?」
「……やっぱり?」
そこまで深く関わって来なかった相手に初めて信頼されたような気持ちになったララクは心の中で邪険にされたことを水に流した。
「ええ。もってあと数十分。だから危なくなったら世界移動で逃げて」
「ちょ、ちょっと貴方も出来るでしょう? 何言って……」
直後立ち止まったメイは歩みを止め、背後からの襲撃者達へと強大な展開域をぶつける。
「メイさん!?」
驚く蘭華が振り返り、ヒーロー達も釣られた刹那。
「この死鎧達を自分の展開域の中に閉じ込めれば数も減らせるし、時間も稼げる! 早く行って!」
「メイさ……」
「いいから早く!」
本気の怒号に震えた蘭華だが、覚悟を汲み取った春嶺が前に出て腕を取った。
事実、頭数が減り未来確定の道を安定させられている。
「帰るときは一緒ですよ!」
「そうだ! この力をくれた博士を俺たちは絶対に見捨てない!」
「飛彩くんを連れて戻ってきます!」
その覚悟を理解したヒーローと、盟約を交わしたララクも強く頷いて再び死鎧の海へと駆け出していった。
「良い奴らだな、本当に……」
「って、黒斗くん? 何で残ってるわけ?」
円形に広がっていく展開域に死鎧達はどんどん封じ込められていく。
メイと黒斗ではどうにもならないほどの物量のようにも思える。
これでも一部なのだからフェイウォンの暴走した展開力は本当に底が知れない。
「もうお前一人に背負わせない」
「これは一度裏切った私のケジメってやつ。司令官がこんなことして……」
「俺は……お前も救いたいんだ」
「黒斗、くん」
「絶対に一緒に帰るぞ。上官命令だ」
「はっ、私の方が年上だって言ってるのに……」
戦力的に見れば黒斗は足手まといだろう。それでもメイの展開力に火を付けるには充分過ぎた。
「人は愛ってものを教えてくれたのよ。私が飛彩を人として生かしたいと思ったように、あなた達はがらんどうだった鎧に命をくれる」
「その続きは後だ。俺から言わせてくれ」
深く結ばれた絆が人とヴィランという垣根を越えて、一つへと戻っていく。
人に悪意が残ったように、ヴィランにも慈しむ心が残っているのだ。
そして明日を生きる希望を掴み取るため、未来へ進む若人達を守るために大人が責任を取るかの如く、群がる大群に拳と刀を突き立てていく。
メイと黒斗が一部の敵を引き受けてもなお、多勢に無勢。
「両脇からの攻撃を守るだけで……精一杯だよ!」
「うろたえるな翔香! 冷静に敵の攻撃を利用するんだ!」
「取り漏らしても私がフォローするわ!」
細やかな連携の背後でホリィとリージェは自身が影響を及ぼす領域を逐一調節していく。
事実、飛彩に近づくものを中心にフェイウォンの領域も調節されているようで、近づけば近づくほど敵の守る領域が減っていくのだ。
それは狭い区画に対して費やせる展開量が増えていくことに他ならない。
自分たちが歩んでいた背後に能力を残す必要はなく、リージェもホリィも周囲と先に向かって拒絶と確定の展開域を重ね合わせている。
しかし、ヒーロー達が飛彩を想うように、ヴィラン達の忠誠は死した後も変わらないのだ。
「すべては、フェイウォン様のためにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
聞き覚えのある声に視線を上げる刑と春嶺だが、それは即座に低くおどろおどろしいものへと変わる。
「おばさんめ……」
憎々しげに漏らすリージェでも、その隆盛は止められない。
他の死鎧を吸収するだけでなく、この地に残るレギオンの死体すらも吸い込んで巨大化していくそれはフェイウォンにも劣らない厄災そのものだ。
「わ、ワワワワ、私が、守る、フェイウォン様、ヲヲヲヲヲヲ」
「ユリラ……!?」
「とんでもない展開量……でも、バラバラよりまとまってた方が倒しやすい。そうでしょう?」
「春嶺くんは、冷静すぎて僕の立つ背がないよ」
もはや知性の欠片もなく、生前の忠誠心だけがユリラを突き動かしている。
一体のレギオンと一体化したユリラは下半身をレギオンの頭部へと埋め込む形で装甲龍を使役するに至っている。
それでもホリィの作り上げた道は途切れることなく、前へと伸びているが側面から攻撃を受ければ全滅は必至だろう。
自身を犠牲にする先程の行いを見せられていただけあって、ヒーローの面々も最善でありながら最も危険な方法を心得ている。
「春嶺くん、行くんだろう?」
「当然だ。苦原刑が討ち漏らしたも同然だからな」
「ふっ、手厳しいねぇ」
「春嶺! 刑! 流石に危険すぎるわ!」
「蘭華……私たちを信じて」
偶然吹き荒れた風で春嶺の瞳が蘭華と交差する。
そこにある決意に蘭華はメイの時と同様に、もう何も言えなくなってしまっていた。
「銀の領域よ! 敵を止めろぉ!」
「ウグッ!?」
そのまま右舷から近づいてきていた装甲龍ユリラ=レギオンの足は、二人の展開域によって止まっていく。
装甲龍を形成するために、フェイウォンの展開量をかなり使用したのか二人の展開域はしっかりと足止めに成功する。
しかし、この巨龍相手にたった二人とは自殺行為も明白だった。
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