【完結】変身時間のディフェンスフォース

〜ヒーローの変身途中が『隙だらけ』なので死ぬ気で護るしかないし、実は最強の俺が何故か裏方に!?〜
半袖高太郎
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大乱闘 その2

公開日時: 2021年6月13日(日) 00:07
文字数:2,328

「リージェェェェェェェッッッッ! 私を助けなさい!」


 この時、ユリラは悪手を選んでしまう。


 自らが助かりたいがために残る展開域をリージェの周囲に移動し、指揮の展開力を発動したのだ。


「……あぁ?」


 鎧が一部削げる原因にもなった「誓約」と「指揮」による強制。


 それが煩わしいが故に熱太にも苦戦したわけだが、そんな忌まわしいものを全力で向けられればリージェはどうなるか。



「ふざけるなよババァ、こいつらだって僕一人いれば充分だ」



 ユリラの展開域を一瞬にして消し飛ばすリージェの拒絶。

 それを感じたユリラは顔が醜く歪むほどに歯を食いしばった。


「きっ━━貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 春嶺と刑の巧みな戦術、そしてヴィラン側の仲間割れ。

 その全てが繋がり、熱太達のレスキューブラスターは今にも暴発する寸前までエネルギーを高めることが出来た。



「今だ!」



 引き金を引くと同時に赤と青、黄の三色の展開力が混じり合い、一筋の流星が如く視界を埋めるゴーガレギオンへと飛んでいく。


「「「レスキュー! ブラスタアァァァァー!」」」


 必殺の咆哮と共に一体のレギオンへ風穴を作り上げる。

 断末魔もあげずに背後へ倒れるレギオンは残る僅かな住居をも粉砕していった。


「二人とも踏ん張れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」


 そのまま展開力の砲撃を巨大な剣のように横薙ぎにするも、レギオンの肉を突き破りつつ砲身を振るうのは並大抵の力ではどうにもならない。


 だが、三人は後のことを考えずに限界を超える力を振るう。

 どんなに強大な敵がいようと、自分たちには仲間がついている、と。


「限界を超える!」


「ここで死んでも!」


「皆は……やらせない!」


 さらに増すキューカイブラスターの威力にレギオン達は両断されて、始祖に怯えながら灰へと変わっていく。

 指揮のマーキングが消えていくことを展開域で感じていたユリラは断首の時を絶望の中で待たされている。


「まさか、私の作戦が、ここまで敗れるとは」


「頼みの綱のレギオンは熱太くん達が全滅させる。せめて苦しまずに葬ってやろう」


 指揮を上回ったのは連携の賜物であり、それがなければ今跪いていたのは自分だったとユリラを見下ろしながら刑は考える。


 試合には勝ったが、勝負には負けていた内容だと刑は救援により形勢逆転した状況を冷静に分析し、せめて敵の強さには敬意を評そうと鎌を振り上げた。


「ふっ、ふふふふふふ……」


 鎖に繋がれた美姫は、地面に垂れている髪を震わせながら笑い始める。

 用意した怪獣はすぐに全滅、仲間にも拒絶され、崇拝する主君は手を差し伸べることはない。


 死よりも先に、繋がりを喪ったユリラはもはや精神の死を迎えたと言っても過言ではなかった。


 故に、狂い堕ちるのも容易く。



「私は! 私はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」



 展開力を攻撃と防御という基礎的なものに変換するユリラはリージェと同じような重装鎧へと身に纏うそれを膨らませていった。


 美しかった顔も血管が浮き出るような状態になり、白目を向いている。


 逆立つ薄紫の髪と同時に不可視の拘束をユリラは引き千切った。


「殺す! 殺すッッッッッッッッ!」


 筋骨隆々とした鎧と肉体の融合。

 それは願っていた受肉の身体を捨ててでも掴み取りたい勝利のために。


 めきめきと体躯を伸ばしていくユリラに対し、刑は鎌を振り上げたまま瞳を伏せる。


 それは、処刑人としての矜恃であり醜いままでは死なせないという一種の優しさであった。


瞬斬刑メメント・モリ


 一瞬で巨大化していくユリラの肩へ登った刑はそのまま首元目掛けて鎌を振り下ろし、銀色の円を描いた。


 首を落とすと同時に体内から消滅の展開力を爆発させる斬首刑アントワネットリーバーとは異なる、一瞬のうちに敵の弱点を断つ刑の新奥義が自我を失うユリラへと炸裂する。


「がっ、あぁあ……!?」


「敵とはいえ、そのような姿で死ぬのは酷だろう」


 その一撃は確かに首を掻き切ったはずで。

 しかし、瞬斬刑メメント・モリが切り裂いたのは身体ではなく展開力そのものという離れ技が本質である。


「あぁ……フェイウォン様、申し訳、あり……ま、せん……」


 展開力の大元を絶たれたユリラは醜く膨れ上がった鎧や身体を霧散させて、元のしなやかな姿へと戻っていった。


 そばでユリラの死を感じ取る刑は、醜く成り下がってまで勝利を掴もうという姿勢にだけは敬意を評して瞳を閉じる。


「あーらら、おばさんやられちゃったかぁ〜」


 跳弾を弾きながら春嶺の相手をするリージェが横目で、ユリラの死に様を見届けていた。


「ギャアァォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!」


 そのまま背後では、キューカイブラスターを全方位に振り回したことで城下へ進軍していた全てのレギオンを熱太達が屠っていく。


「これがレスキューワールドの底力よ!」


「熱太先輩! やりましたね!」


「はぁ……はぁ……! ああ、やったな!」


 レスキューブラスターを投げ捨て、肩で息をする新たにエレナと翔香が支えるように寄り添った。

 展開力自体はエレナや翔香のものを中心に組み立てた攻撃だが、動作のほとんどを熱太が担っているのだから無理もない。



「レギオンも全滅、おばさんも死んだ……か」



 五人のヒーローに取り囲まれることになったリージェだが、今もなお飄々としている。

 むしろ余計な枷がなくなった、そのような様子で不適に微笑んでいた。


「そこの銀髪のヒーロー、君も馬鹿だねえ」


「……何を言っている?」


「そんな死体を残すような殺し方をしたらダメだろう」


 展開力の源を断った一撃ではあるが、展開力の消滅には僅かだが時間を要する。


 そのわずかな時間があればユリラを自身の展開域で包み、残るエネルギーを全て吸収することなどリージェにとっては造作もないことだった。

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